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シェアハウス編
新しい仕事
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建築士という仕事は随分忙しいんだと知った。
透さんが引っ越してきてから、帰って来る時間はいつも遅くて僕が起きてる間に帰って来こないこともちょくちょくあった。それでいて朝はだいたい一緒だから、睡眠時間大丈夫かなって心配になる。
こんな感じに仕事してるんじゃ、そりゃあ絵を描く時間なんてあんまり取れないだろう。まだ透さんが前の家に住んでた時にアトリエに姿を現さなかった理由がよく分かった。
今週の土日もお客さんとの打ち合わせが入ってるらしくて、ほんと、透さんと比べたら大体は定時で帰れる僕がさぼってるみたいな気分になる。
透さんは短い睡眠でも大丈夫な人なのか、寝起き以外で眠そうにしてたり、だるそうにしてたりするのを見たことがない。
僕は典型的なロングスリーパーで、夜も早くに眠くなるし、最低でも8時間は絶対に眠りたいタイプ。だからお休みの日は大抵朝の10時11時まで寝てる。下手すると昼過ぎまで……それが叶う今の職場は、そういう意味でも天国だった。
「松崎くん。ちょっといいかな」
課長の秋宮さんに呼ばれて席まで行くと、「今度、こういうシンポジウムがあるんだけど」とA4のつるんとした紙を渡された。
そこには『六つの性のありかた~誰もが生きやすい社会とは~』というタイトルを筆頭に、4人の登壇者の顔写真とプロフィール、当日の講演内容が印刷されている。
シンポジウム……なんか、難しいやつ……?絶対、眠くなりそうな……
「この開催元が至さんの知り合いでね。当事者の声という枠で、オメガの人の話が聞きたいと言ってるんだよ。それで、そういうのが得意な金塚くんに声かけたんだけど。あと一人、松崎くんどうかなと思って。
君、ヒートの症状が軽いだろ?薬があれば普通の会社で働けるのに面接さえ受けられなかったって言ってたし、そのへんの体験を話してもらえないかな」
「えっ……話す……」
「そんなに長くなくていいんだよ。ヒートも多様で、普通に働ける人もいるんだってことを伝えてくれたら」
想像もしてなかった話にびっくりして、色んなことが頭を駆け巡った。
話すって、ステージの上で聴衆に向かってってこと?
む、無理じゃないかな。
人前で話すとかすごい苦手だし。
同僚が集まった中で話すのさえ緊張するのに。
それに……別に絶対に秘密!ってわけじゃないけど自分はオメガです!って堂々と言えたことがないから、そういう場に出ること自体にかなり抵抗があった。
「人前で話すのが嫌だとか怖いとか、そういうのがあるのは分かる。でも、偏見をなくすための啓蒙活動ってのは地道に続けないといけないだろ。そのために至さんも頑張ってるわけだし……後進のために、協力してもらえないだろうか」
秋宮さんはベータだけど、恋人はオメガの男性だ。そのせいかオメガが何を必要としているのかをよく理解してくれていて、僕たちコールセンターの人間はしばしば助けられていた。
その彼からのお願いだということと、至さんや秋宮さんがオメガが生きやすい社会を目指して頑張ってるのに、当事者の僕が何もしないなんてって気持ちと。それに元々頼まれたら断れない性格だってことが上乗せされて、結局頷いてしまってた。
「分かりました……」
「そうか!ありがとう。すぐに先方に伝えよう。一度話す内容についての打ち合わせがあると思うから、日時が分かったら追って連絡するよ」
「はい」
とは言ったものの。
どうしよう~~~出来るかなぁ~~~……しかも金塚さんと一緒って。打ち合わせも一緒に行ったりするんだろうか。ちょっと、かなり憂鬱だなぁ……
金塚さんは背筋をシャンと伸ばして、パソコン作業の時だけつけるピンクの金属フレームの眼鏡をかけて、ものすごい早さで事務処理をしてる。
細い眉とつやつやした唇は前のまんまだけど、髪が短くなった分、可愛いっていうより美人って雰囲気になった。それも怖い美人……前みたいにお取り巻きとキャッキャキャッキャ笑ったりしないから、近づき難いことこの上ない。
ものすごい変貌ぶり。ほんとに、何があったんだろう……
透さんが引っ越してきてから、帰って来る時間はいつも遅くて僕が起きてる間に帰って来こないこともちょくちょくあった。それでいて朝はだいたい一緒だから、睡眠時間大丈夫かなって心配になる。
こんな感じに仕事してるんじゃ、そりゃあ絵を描く時間なんてあんまり取れないだろう。まだ透さんが前の家に住んでた時にアトリエに姿を現さなかった理由がよく分かった。
今週の土日もお客さんとの打ち合わせが入ってるらしくて、ほんと、透さんと比べたら大体は定時で帰れる僕がさぼってるみたいな気分になる。
透さんは短い睡眠でも大丈夫な人なのか、寝起き以外で眠そうにしてたり、だるそうにしてたりするのを見たことがない。
僕は典型的なロングスリーパーで、夜も早くに眠くなるし、最低でも8時間は絶対に眠りたいタイプ。だからお休みの日は大抵朝の10時11時まで寝てる。下手すると昼過ぎまで……それが叶う今の職場は、そういう意味でも天国だった。
「松崎くん。ちょっといいかな」
課長の秋宮さんに呼ばれて席まで行くと、「今度、こういうシンポジウムがあるんだけど」とA4のつるんとした紙を渡された。
そこには『六つの性のありかた~誰もが生きやすい社会とは~』というタイトルを筆頭に、4人の登壇者の顔写真とプロフィール、当日の講演内容が印刷されている。
シンポジウム……なんか、難しいやつ……?絶対、眠くなりそうな……
「この開催元が至さんの知り合いでね。当事者の声という枠で、オメガの人の話が聞きたいと言ってるんだよ。それで、そういうのが得意な金塚くんに声かけたんだけど。あと一人、松崎くんどうかなと思って。
君、ヒートの症状が軽いだろ?薬があれば普通の会社で働けるのに面接さえ受けられなかったって言ってたし、そのへんの体験を話してもらえないかな」
「えっ……話す……」
「そんなに長くなくていいんだよ。ヒートも多様で、普通に働ける人もいるんだってことを伝えてくれたら」
想像もしてなかった話にびっくりして、色んなことが頭を駆け巡った。
話すって、ステージの上で聴衆に向かってってこと?
む、無理じゃないかな。
人前で話すとかすごい苦手だし。
同僚が集まった中で話すのさえ緊張するのに。
それに……別に絶対に秘密!ってわけじゃないけど自分はオメガです!って堂々と言えたことがないから、そういう場に出ること自体にかなり抵抗があった。
「人前で話すのが嫌だとか怖いとか、そういうのがあるのは分かる。でも、偏見をなくすための啓蒙活動ってのは地道に続けないといけないだろ。そのために至さんも頑張ってるわけだし……後進のために、協力してもらえないだろうか」
秋宮さんはベータだけど、恋人はオメガの男性だ。そのせいかオメガが何を必要としているのかをよく理解してくれていて、僕たちコールセンターの人間はしばしば助けられていた。
その彼からのお願いだということと、至さんや秋宮さんがオメガが生きやすい社会を目指して頑張ってるのに、当事者の僕が何もしないなんてって気持ちと。それに元々頼まれたら断れない性格だってことが上乗せされて、結局頷いてしまってた。
「分かりました……」
「そうか!ありがとう。すぐに先方に伝えよう。一度話す内容についての打ち合わせがあると思うから、日時が分かったら追って連絡するよ」
「はい」
とは言ったものの。
どうしよう~~~出来るかなぁ~~~……しかも金塚さんと一緒って。打ち合わせも一緒に行ったりするんだろうか。ちょっと、かなり憂鬱だなぁ……
金塚さんは背筋をシャンと伸ばして、パソコン作業の時だけつけるピンクの金属フレームの眼鏡をかけて、ものすごい早さで事務処理をしてる。
細い眉とつやつやした唇は前のまんまだけど、髪が短くなった分、可愛いっていうより美人って雰囲気になった。それも怖い美人……前みたいにお取り巻きとキャッキャキャッキャ笑ったりしないから、近づき難いことこの上ない。
ものすごい変貌ぶり。ほんとに、何があったんだろう……
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