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出会い編
笑顔の理由
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気付くといつも笑ってる。無理してるつもりは全然なくて、もう地顔が笑ってるって自分でも思うくらいに。
でも周りに ”いつも笑ってるね” って言われるのは大体褒め言葉の方が多かったし、中にはヘラヘラしててイラつくとか言う人もいたけど、大体は好意的だったから……だからどうってこともないけど。だって意識して笑ってるわけじゃないしね。
自分がどうしてこうなったのかって、ちょっと考えたことがある。
多分だけど……結局はそれが一番居心地よく生きていくコツだなって思ったんだと思う。
うちの家族は僕以外はベータで、アルファやオメガって少し他人事というか、自分とは関係のない世界の話って感覚が強い人たちだった。
高校1年生になって第ニ性の発現があった時、父さんも母さんもそりゃあ驚いて、だって親戚一同みんなベータだったから……父さんなんか母さんの浮気を疑って、ちょっと険悪な空気になったりした。だから僕は自分の体の変化に戸惑いながら、そんな二人を宥めるのに必死だった。
「お父さんとお母さんが女の子が欲しかったから、お兄ちゃんと和香子の間の僕が半分だけ女の子になったのかな」
笑いながらそんな風に言って。
そしたら父さんも母さんもそうだそうだ、お前は半分女だ、女の出来損ないだと笑って、正直なところその言われようには傷ついたけど、自分が言い出しっぺだし二人に悪気がないのは分かってたから……だから僕は笑うしかなかった。
幸いなことに僕は最初からヒートの症状が本当に軽くて、フェロモンの数値もすごく低くて、身体的な負担はほとんどと言っていいくらいなかった。
抑制剤も一番軽いので十分だったし、日数も2、3日で済んだし、自分でも自分がオメガだってことを忘れちゃうくらい。
だけど……社会的にはそういうわけにはいかなかった。
第二性の診断書は公的書類の提出時には絶対に必要で、どんなに症状が軽くても、ベータと同じように働けますと言っても、僕は紛れもなくオメガで就職活動をしようにも書類選考でまず落とされてしまう。
高校を出たら働くつもりだったのになかなか面接までたどり着けなかった僕は、残念そうな担任や父さん母さんの前で「10受けてダメなら20受けるよ!」と言って、やっぱり笑ってその場をやり過ごした。
先生のツテのそのまたツテのコネみたいな、もうほとんど無関係だけどよろしくお願いします的なゴリ押しで小さな機械部品製造会社になんとか就職を決めて、晴れて一人暮らしを始めて1年。
不景気の煽りを喰らってあっという間に会社が潰れて、だけど笑顔で送り出された手前、僕はそのことを家族に言えなかった。兄が私立の医大に通っていたこともあって、僕が就職を選んだことを心底喜んでいた両親に余計な心配をかけたくなかった。
1年間貯めたお金があるうちにと次の就職先を探すものの、新卒ですら見つからなかったのにそう簡単に見つかるわけがない。
結局……夜の世界に踏み込むしかなかった。
最初に勤めたのはオメガ歓迎というキャバクラだった。接客の方が時給が良かったからそっちが希望だったけど、見た目が地味だからと言われてボーイになった。
昔から物事の飲み込みが遅くて要領が悪い僕は、新しいことを覚えるのにひどく時間がかかった。だから随分意地悪もされて……でも慣れというのはすごい。すみません、すみませんって笑って頑張るうちに、なんとかこなせるようになっていった。
そんな時、ナオトと出逢った。同じ地域にあるホストクラブに勤めるホストで、さもありなんというイケメンだった。
店の女の子のひとり、カホちゃんのお客さんだったんだけど、とある夜、「おにーさん。オメガなんだって?」と声をかけられたのが僕たちの始まり。
なんでも明け透けに話すナオトはオメガとのセックスに興味があるって直球で言って来て、断ったんだけど何度も何度も粘られて……それで、一度飲むだけでもって縋られて、アフターして(ボーイの場合もアフターって言うのか分からないけど)、結局お持ち帰りされてしまった。
別に女の子じゃないし、いいけど。ヒートも来てなかったし、ただ痛いだけの僕の初めて。
でも、ナオトはすごく明るくて、実は孤独と不安と常に背中合わせで生きてた僕には、突然訪れた救いだった。
ナオトはしょっちゅう店に来てくれて、だから僕もナオトの店に通った。ボーイの時給なんて知れてるからボトルを入れるとかそんなの全然無理だったけど貯金を崩しながら、頑張って。
そしたらナオトは顔を見れるだけでも嬉しいって言ってくれて、そのうち頻繁に店に来るのは僕の負担になるだろうから一緒に暮らしたい、そうすれば毎日逢えるだろうと言われた。
その頃には、ナオトにゾッコンになってしまってた。初めての恋だった。
でも周りに ”いつも笑ってるね” って言われるのは大体褒め言葉の方が多かったし、中にはヘラヘラしててイラつくとか言う人もいたけど、大体は好意的だったから……だからどうってこともないけど。だって意識して笑ってるわけじゃないしね。
自分がどうしてこうなったのかって、ちょっと考えたことがある。
多分だけど……結局はそれが一番居心地よく生きていくコツだなって思ったんだと思う。
うちの家族は僕以外はベータで、アルファやオメガって少し他人事というか、自分とは関係のない世界の話って感覚が強い人たちだった。
高校1年生になって第ニ性の発現があった時、父さんも母さんもそりゃあ驚いて、だって親戚一同みんなベータだったから……父さんなんか母さんの浮気を疑って、ちょっと険悪な空気になったりした。だから僕は自分の体の変化に戸惑いながら、そんな二人を宥めるのに必死だった。
「お父さんとお母さんが女の子が欲しかったから、お兄ちゃんと和香子の間の僕が半分だけ女の子になったのかな」
笑いながらそんな風に言って。
そしたら父さんも母さんもそうだそうだ、お前は半分女だ、女の出来損ないだと笑って、正直なところその言われようには傷ついたけど、自分が言い出しっぺだし二人に悪気がないのは分かってたから……だから僕は笑うしかなかった。
幸いなことに僕は最初からヒートの症状が本当に軽くて、フェロモンの数値もすごく低くて、身体的な負担はほとんどと言っていいくらいなかった。
抑制剤も一番軽いので十分だったし、日数も2、3日で済んだし、自分でも自分がオメガだってことを忘れちゃうくらい。
だけど……社会的にはそういうわけにはいかなかった。
第二性の診断書は公的書類の提出時には絶対に必要で、どんなに症状が軽くても、ベータと同じように働けますと言っても、僕は紛れもなくオメガで就職活動をしようにも書類選考でまず落とされてしまう。
高校を出たら働くつもりだったのになかなか面接までたどり着けなかった僕は、残念そうな担任や父さん母さんの前で「10受けてダメなら20受けるよ!」と言って、やっぱり笑ってその場をやり過ごした。
先生のツテのそのまたツテのコネみたいな、もうほとんど無関係だけどよろしくお願いします的なゴリ押しで小さな機械部品製造会社になんとか就職を決めて、晴れて一人暮らしを始めて1年。
不景気の煽りを喰らってあっという間に会社が潰れて、だけど笑顔で送り出された手前、僕はそのことを家族に言えなかった。兄が私立の医大に通っていたこともあって、僕が就職を選んだことを心底喜んでいた両親に余計な心配をかけたくなかった。
1年間貯めたお金があるうちにと次の就職先を探すものの、新卒ですら見つからなかったのにそう簡単に見つかるわけがない。
結局……夜の世界に踏み込むしかなかった。
最初に勤めたのはオメガ歓迎というキャバクラだった。接客の方が時給が良かったからそっちが希望だったけど、見た目が地味だからと言われてボーイになった。
昔から物事の飲み込みが遅くて要領が悪い僕は、新しいことを覚えるのにひどく時間がかかった。だから随分意地悪もされて……でも慣れというのはすごい。すみません、すみませんって笑って頑張るうちに、なんとかこなせるようになっていった。
そんな時、ナオトと出逢った。同じ地域にあるホストクラブに勤めるホストで、さもありなんというイケメンだった。
店の女の子のひとり、カホちゃんのお客さんだったんだけど、とある夜、「おにーさん。オメガなんだって?」と声をかけられたのが僕たちの始まり。
なんでも明け透けに話すナオトはオメガとのセックスに興味があるって直球で言って来て、断ったんだけど何度も何度も粘られて……それで、一度飲むだけでもって縋られて、アフターして(ボーイの場合もアフターって言うのか分からないけど)、結局お持ち帰りされてしまった。
別に女の子じゃないし、いいけど。ヒートも来てなかったし、ただ痛いだけの僕の初めて。
でも、ナオトはすごく明るくて、実は孤独と不安と常に背中合わせで生きてた僕には、突然訪れた救いだった。
ナオトはしょっちゅう店に来てくれて、だから僕もナオトの店に通った。ボーイの時給なんて知れてるからボトルを入れるとかそんなの全然無理だったけど貯金を崩しながら、頑張って。
そしたらナオトは顔を見れるだけでも嬉しいって言ってくれて、そのうち頻繁に店に来るのは僕の負担になるだろうから一緒に暮らしたい、そうすれば毎日逢えるだろうと言われた。
その頃には、ナオトにゾッコンになってしまってた。初めての恋だった。
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