たとえ月しか見えなくても

ゆん

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第一部

love of my life

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躊躇なく僕のことを恋人、と言ってくれた透。

僕は切なさで喉が詰まって、呻くように泣いてた。



「大した色男じゃねえか。お前さん、なんで逃げるんだい」



戸の隙間からおじいさんの話しかけるような呟きが聞こえる。男同士で恋人ときたらゲイかオメガかってところだけど、頓着した様子はまるでなかった。



「一緒に……いられませんっ……僕は、彼に相応しくない……!」



泣いてるのを隠しようもない声で外と繋がる隙間に訴える。



わけぇのに。好きってだけで一緒にいちゃ駄目なのかい」

「ダメです……!僕は汚れた人間です……僕といたら彼も汚れる……彼の未来を潰してしまうんです……!」



僕が胸が張り裂けそうな思いで叫ぶと、おじいさんは声を立てて笑って、未来が潰れるもんかね、と可笑しそうに言った。



「いいか、未来なんか潰れねぇ。死なねぇ限りよう。潰すって言うならお前さん、あの色男が惚れた恋人と添い遂げるってぇ未来を潰してんだろう、今。どのみちどっちかを潰さなきゃなんねぇなら、一緒にいたらどうだい」



おじいさんの言葉が胸に忍び込んでくる。そうしたい……僕だってそうしたい……!でも僕は……僕は……!



「僕は汚すぎて……到底正気でいられないんです……」

「互いに惚れてんのに別れるってんだから、それだって十分正気じゃねえだろう。お前さんも男なら腹ぁくくれ。過去に何があったか知らねぇが、生きてりゃあ大抵のことはなんとかなる」

「僕は……恥ずかしい……汚らわしい自分が、恥ずかしい……」

「恥ずかしいのがなんだ。恥ずかしい自分を見てたら正気じゃいられねえってんなら、見るな。惚れた相手だけ見てろ」



何を言っても、揺らがない。おじいさんは細くて黒くてしわしわなのに、大きな大きな木みたいだった。

裸に剥かれて無様に嬲られている自分の映像を思い出すと、今でも激しい嫌悪感に頭を強く振らずにはいられない。

逃れられない過去。忘れようとして、実際忘れられていたのに、後ろから掴み倒されて忘れるな、と見せつけられる。

きっと動画は谷光さんが見せてきたものだけじゃない。探せばまだ出て来る。

僕はその度に思い知るんだ。僕の通ってきたその道を。月の光の下でしか生きられない身であることを。

だから僕は諦めて……透を諦めて、すべてを諦めて、元の世界で生きていこうって決めて──



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