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嫉妬?

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 船岡がこちらを見上げて、ガッツリ目が合う。そうすると言葉にしない何かが流れて、船岡が俺の顔の中に『真奈美』を探しているのが分かった。

「リシェルで。宝田んちってあの辺なんだろ」
「うん。船岡は?」
「もっと柏寄り。鎌ヶ谷の辺」

 そこで、また話が途切れた。『真奈美』といる時の船岡はじっと俺を見て、自分から話題を振ってくることが多いのに、『俺』には全然興味がないみたいに。
 なんか変な構図だ。俺が俺に嫉妬してるみたいな。でも『真奈美』は船岡との会話をめちゃめちゃ楽しめるのに、不公平だって思っちゃったんだよ。俺だって、自分と気が合う男友達と思う存分話したいのに。

「うちの姉ちゃん、『ソルジャームーン』が好きでさ。世界に浸るために子供向けのショーも見に行ってんだよ。もともとは母ちゃんが原作漫画持ってて、まぁそれで、俺も好きになっちゃって。父ちゃんも漫画の方は好きで、つまり一家で『ソルジャームーン』が好きなんだ」

 『真奈美』が話した中に、俺と父ちゃんもソルジャームーンが好きだってことは入れてなかったから初出し情報だ。船岡はへえ、という顔になって「少女漫画、読むんだ」と、初めて『俺自身』を見ている目をした。これが……嬉しかった。思ってた以上に。

「読んだことない?結構面白いよ。ソルジャームーンは特に、原作がいいんだ」
「いや。読んだことある。お姉さんとも、その話したし」
「あ、そうなんだ。姉ちゃん、熱いだろ」
「うん。一生懸命で……可愛い」

 船岡はまた『真奈美』に見せる目で、二人で過ごした時間を思い出している顔をした。漏れてる。だだ漏れだよ、船岡。お前に恋してる女の子達が見たらショックで2、3日学校休みそうなくらい。
 けど元は『俺』なんだ。顔も、性格も、お前が好きなのは『真奈美』じゃないんだからな!って……やっぱりイラついて、絶対『俺』も船岡と友達になってやるって、闘争心?がメラメラ湧いた。

「はっきり言って熱さは俺も姉ちゃんに負けてねぇから」
「はは、そうなの」
「主要キャラの身長体重誕生日、好きなもの嫌いなものまで公式プロフィール完全暗記はマスト」
「確かに熱いな」

 軽口で笑い合う……いいじゃんか!友達って感じ!教室に着いたら話は途切れちゃったけど、これをきっかけに『真奈美』以上に仲良くなってやる!と俺は密かに意気込んだ。



 教室では、キャラクター班のみんなが俺と船岡が戻って来るのを待ってたらしく、俺たちがベニヤを教室の後ろに置いてみんなの輪に加わると、担当するキャラクター決めのくじ引きが始まった。

「着ぐるみとかはレンタルすると高いんで、衣装の提供があるものとか、用意が簡単なキャラをいくつかあげました。一覧はこれです。クジで自分が引いたキャラの衣装は、基本自分で用意してください。白雪姫とシンデレラだけは衣装提供があったんで、そちらを着てもらいますが、サイズとかあるんで、どうしても無理なら着れる人とトレードはOKです」

 キャラクター班リーダーの小林が大きめの紙を広げると、プーさんやら、ミッキーやら、有名どころの名前がズラリと並んでる。白雪姫と7人の小人って完全帽子の色だけで数を稼ごうって魂胆だな。てか、姫系に当たったら悲惨じゃん。高田が引けばいいのに……いや、アイツは着れねーよな。確実に着れそうな自分が憎い……

「今からクジ回しまーす」

 同じキャラクター班で仲のいい友達とふざけてるゴリマッチョを横目に、俺は回ってきた白い菓子箱の中に入った紙を一つ選び取り、そっと開いた。そこには──思わず紙を閉じて、開いて、二度見したくなる文字が書かれていた。

「あ!まこ、白雪姫!」

 事務班からこっちを覗きに来ていた里奈が嬉しそうに叫んだ。おいおいマジか!

「いや。それは衣装が着れたら、の話で──」
「宝田、これ制服の上から着てみたら。割とゆとりあるし、いけるかもよ?」

 分かってるよ。着れるよ。微妙に含み笑いをしてる(ように見える)小林から衣装を渡され、嫌な予感しかしない試着をしたら制服を着てんのに普通にチャックが上がって──高田他人の不幸を願った俺にバチが当たったのかもしれない。

「着れるじゃーーん!やった!まこ、メイクはあたしにさせてね!」
「お前……他人事だと思って……」

 ウキウキしながら里奈が事務班の作業に戻って行く。ため息をつきながら衣装を脱ぎ、ドレス以外の赤いリボンのカチューシャやらちょっとボサついたウィッグやらの入った紙袋を小林から渡されて更にため息。

「そんな憂鬱そうな顔すんなって!俺なんかねずみ男だぜ?」
「代わってやろうか?」
「いやあーサイズが無理だなぁーー残念だけど!」

 小林はニヤニヤとわざとらしく笑いながらキャラの表の白雪姫の横に俺の名前を書いた。苦々しくその様子を見つつ、隣に座ってた船岡の紙を覗き込むと、そこには『7人の小人』と書いてあって──不意をつかれて思わず吹き出した。学年いちデカい男が小人って……!!

「すげぇシュール……っ」

 堪えきれずに笑った。さっき階段で話したこともあって、なんかそう言ってもいい雰囲気があるように感じた。そしたら船岡も、「良かったな。お前は似合いそうなやつで」と返し、鼻で笑ってきた。

「デカい小人に言われたくねーよ」
「白雪姫が女より似合いそうな男に言われたくねーな」

 そんなやり合いをして……なんか、念願の?男友達が出来た認定してもいいんじゃないかって、白雪姫の憂鬱はさておき、密かに高揚!
 コンプレックス逆撫でしまくりの試練ではあるが、こんなふざけ合いが出来るならそれを耐える価値はある。なんたって船岡は、貴重な同年代同性のソルジャームーンファンだからな!
 残りの時間、衣装を作る必要のない俺は船岡の小人の帽子やら綿の髭やらを作るのを隣に座っているついでを装って手伝ったりしながら、親交を深めた。何しろ俺は、『真奈美』に遅れをとってるから。



 白雪姫の試練が、メイド服以上に『真奈美』が俺だとバレる危険があると気づいたのは、その日の晩のことだった。船岡から「今日、弟さんとしゃべったよ。面白いヤツだった。顔だけじゃなくて雰囲気も似てるね」というショートメールが来て、うっかり忘れていた現実を思い出した。
 そうだ……白雪姫でメイクしたら『真奈美』にかなり近いかも……?髪型は違うけどウィッグ、黒髪だし……でも眼鏡もカラコンもナシだし、そうでもないか?里奈のメイクは俺がするのとは結構違うし、案外大丈夫か……
 いや、危険なのに変わりはない。”女の俺 ” を学校で見せることは、俺が女装する可能性を自ら示唆する結果に繋がりかねないわけで。もしかしたら、ショーを見るための変装が変装だとばれてしまう可能性もあるわけで。
 ああ~……やりたくないってもうちょっと粘ればよかった……性格上できるわけがなかったし、今更、遅すぎるけど。
 その夜はバレた場合の最悪の展開がいろいろ浮かんできてなかなか寝付けなかった。でも翌日からは文化祭の準備をしながら試験勉強もしなくちゃいけなくて、その合間にも船岡と挨拶しあうようになったりとか、休憩時間にちらっと話すようになったりとか、そういうちょっとアガる変化もあったりして、まぁもうやらざるを得ないわけだし、神経質になりすぎないようにしようと気持ちを切り替えていった。




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