DEKOBOKO

ゆん

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里奈

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「まこ!おっはよー!」

 後ろからドンとぶつかられて思わず前につんのめる。声しか聞いてないけど、声を聞かなくても分かる。この遠慮のなさは、里奈だ。

「いってーなぁ……」
「今日も可愛い!ね、トイレついてきて」
「一人で行けよ」
「さびしーの!ねー聞いてもらいたいこともあるしさぁ」

 かばんを机の上に置いた里奈が、すかさず俺の腕に絡みついてきて、結果トイレまでの道中に付き合わされる格好になった。登校時間の廊下は、朝の駅の改札の雰囲気に似ている。それぞれが運んできた青い空気が落ち着かなげに動いて、チャイムを合図に始まる一日を待っている。

「まこぉ……あたし、恋しちゃったかも」

 歩きながら俺の肩に頭を寄せるようにした里奈がうっとりした声で言った。

「ふうん」
「ふーんじゃないでしょ!誰って聞いてよ!」
「はいはい。誰?」
「新しく入ってきた予備校の先生でさぁ……W大で、クールで、女の子に慣れてないって感じがウブくてカワイイの」

 里奈はしょっちゅう「恋」をしている。その度にいかにその男が素敵かを聞かされるわけだが、女子高生の流行語以上にその回転は早くて、数週間もすればまた新しい男が話題に上る。

「今回は何日もつかな」
「失礼ね。恋はもたせるもんじゃないの。不意に落ちてきて思い通りにすることもできなくて、留まってほしくても飛び立ってしまう……そういうモノなのよ」
「お前いくつだよ……百戦錬磨か」
「私の前を何人もの男が通りすぎたわ。リアルに通り過ぎただけだけど」

 ふたりで顔を見合わせて吹き出した。里奈はこんな性格だしうっすら化粧をしてたりもするから割とギャルっぽく誤解されやすいけど、俺から見ると結構カワイイ女の子だ。かっこいい人を見つけたってしょっちゅうキャーキャー言ってるわりに、ほんとに付き合ったりとかってまだ無いし。




「やばい、保健室付き合って」

 トイレから出てきた里奈が小声で呟いて俺の腕をとって再び連行する。

「何」
「生理始まっちゃった。ナプキン持って来忘れたし」
「……」

 いいけどさ。慣れてるけどさ。生理の話をされる俺ってどーなんだよって毎回思うってこと、お前、気づいてないだろ。お前の生理がなかなか重いほうだってことも、生理痛がひどいときに飲む薬の銘柄も知ってるし……生理痛の鎮痛剤のCMを見て女友達の顔が浮かぶ男ってそうはいないと思う。つか、俺くらいじゃねーの?


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