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第八章 宝探し
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「地図によると、いまあたしたちが立っているのは、ちょうど桜の木の北側ね」
ピン子は、校舎のほうに指をさしました。
「とすればだ、地図にある『ここ』っていう矢印は……ん~、わかったぜ! 桜の木の南側を指しているってことだな、がっはは!」
ジョーは、宝の地図をぼくに手渡すと、「ふたりとも、おれについてこい!」と腕をふって桜の木にむかって歩きだしたのです。
キーンコーンカーンコーン。
ちょうど、校庭に、お昼のチャイムが鳴り響きました。
「給食の時間だねぇ……小太郎くん、ちゃんとご飯を残さず食べてくれるかなぁ」
目をほそめたピン子が、つま先立ちになって校舎のほうを見ています。やがて、「さあ、ゴーもおいで」とぼくの手を取り、いっしょに桜の木へと歩きはじめたのでした。
ピン子に手を引かれながら、ぼくもケイタくんが給食を食べる姿を想像しました。
(今日も、ケイタくんが給食を残さずに食べてくれるといいな。今日のメニューは、いったいなんだっけ? クリームシチューか、ハンバーグだったらいいけど……でも、もしもお魚だったら……心配だなぁ)
ぼくはいまでも、「お魚の骨が喉にささった事件」、のことが忘れられません。
小学三年生のとき、ケイタくんは、あやまってお魚の骨をのみ込んでしまいました。
骨が喉の奥に引っかかり、ケイタくんはパニックになって、なぜか消しゴムのぼくをにぎりしめたまま、猛ダッシュで教室から保健室に走っていったのです。
ケイタくんは息苦しさのあまり、はげしく咳こみながら、ぼくをぎゅうぎゅうと力強くつかんでいました。ぼくはケイタくんといっしょにいられて、すごくうれしかったのですが、保健室でもだえ苦しむケイタくんの姿はもう見たくはありません。
あの日の事件で、ケイタくんはお魚の骨にすごく敏感になりました。
お魚がでると、ケイタくんは給食を残すのです。食べ残すということではなく、食べる時間がなくなってしまうのです。お魚の身をほぐし、こまめに骨をとるせいで、時間がかかりすぎて――気づけば、いつも五時間目がはじまっているのでした。
(たしか、昨日の給食は肉じゃがだったよね。てことは……うわ~っ、ひょっとすると、今日はお魚かもっ……あ~、骨がないお魚って、いないのかな~っ?)
ケイタくんを心配して、あーだこーだと考えていると、
「ほら見て、ゴー。おっきな木だねぇ」
ぼくは、大地に力強くそびえ立つ、桜の木に到着していたのです。
ピン子は大木のまえで、ぼくの手をパっと放して腕を広げました。
「ほらほら、見てよ。この桜の木、すっごく幹が太いわねぇ。この枝すべてに葉っぱがついたら、どうなるんだろう?」
「……きっと、巨大な傘かな」
ぼくは目を見はって、大木を見上げました。
こんどは、四方八方に広がった枝に、緑色の葉っぱがつく姿を想像したのです。
ぼくが、目を閉じた瞬間、
「ん~、気もちいい」
葉のすきまから、太陽の光が降りそそぐ光景が浮かびました。
もう葉は散っているのに、想像の世界では、木漏れ日のなかに立っているのです。
蝶々やミノムシたちも、どんどん桜の木に吸い寄せられてきました。
「――春になったら、またみんなで、この桜を見に行きたいなぁ」
ぼくは、ゆっくりと息を吸いこみました。そして目を開けると、校庭が見えました。
こんなに広い場所に、いまは、ぼくたち文房具の姿しかありません。
(世界は、どこまで広がっているんだろう)
校庭のむこうには、さらに町が広がっているのです。その町のむこうにも、もっともっと大きな町が広がっているのは、かんたんに想像がつきました。
(いくら考えても考えきれないや……ほんとに、果てしないよ)
「おいっ!」
とつぜん、ぼくの目のまえに、ジョーが立ちはだかりました。
「た・か・ら・さ・が・し!」
ジョーは人差し指をふって、いらいらするようにその場で足踏みをします。
「ピン子も、いつまで腕を広げてるんだよっ! ひなたぼっこは、それぐらいにして、はやく宝を探そうぜっ」
「ちぇっ……気もち良かったのに」
ピン子は「も~」と腕をおろすと、口をふくらませながら、足もとを見ました。
「はいはい、わかってますって、宝探しでしょ……ジョーはせっかちなのよねぇ」
ピン子はぶつぶつと文句を言いながら、辺りをうろうろしはじめます。
ジョーは、素直に宝を探しはじめるピン子を見て、
「そうそう、それでいいっ! いいか、おれたちは偉大な冒険家だ。小太郎が隠したなにかを、ぜったいに探し当てるんだ!」
ジョーは、うんうんと納得するようにうなずきます。
そして、きりりとした太いまゆをつりあげ、
「ふたりとも、宝を探しながらよく聞け!」
ジョーは地面にかがんで、四つん這いになってみせたのです。
「お宝を見つけるコツは、目力だっ! め・ぢ・か・ら、が必要なんだ。ピン子とゴーもおれを見習い、もっと、もっーと、そのやる気のない目を、ぐわんっと開けてみろ!」
ぼくは言われるがまま、その場にかがんで、四つん這いになりました。
そして、(えっと……目力だっけ)と思い、目をぐわんっと開けてみたのです。
「ちがうっ、ちーがーうっ!」
ジョーが、血走った目でぼくをにらんできます。
「ゴー、なんだその目は! まるで点じゃないかっ! その程度の目力で、お宝が見つかるとでも思ってるのかっ」
「そんなこと言われても……だいたい、ぼくの目が小さい点だってことは、ジョーだってわかってるくせに」
「つべこべゆーな! 一刻も早く宝を見つけないと、ほかのお宝ハンターに、おれたちの宝をうばわれるかもしれんのだっ!」
(ここには、ぼくたちしかいないよ)
そう思ったけど、ぼくもジョーを見習って、地面に意識を集中させました。
小太郎くんが隠した――なにか。
それを見つけたい気もちは、ぼくもおなじで。
「どこだどこだっ、おれの、お宝はあああっ!」
と、くまなく地面を探すジョーには、負けていられないと思ったのです。
ぼくは、目力を使って地面を捜索しはじめました。
「お宝、お宝、お宝……出てきてお願い……あっ!」
すると、ぼくとおなじくらいの大きさをした、茶色い木の実を発見したのです。
ぼくは、木の実を抱きかかえるようにし、足を踏んばって持ち上げてみました。
「うぃぃ、重い……ピン子っ、ジョーっ、見てっ……お宝って、これじゃない?」
すると、ピン子が「どれどれ」と走ってきました。
ぼくの苦しそうな顔を見て、ピン子も反対側から木の実をかかえます。
ピン子は首をかしげつつ、つるつるとした木の実の表面をなでました。
「ん~、先端がとがった実……下部は上部にくらべて、ぶつぶしているわねぇ。あ、底にはおわん状の殻もついてる……うん、うん。これはきっと、どんぐりだわ!」
「なにっ? どんぐりだって」
ジョーも「見せてくれ!」と立ちあがって、ぼくたちから木の実をうばい取るように、腕を広げて抱きかかえたのです。
「ほお~、はじめて見たぜ。これ、食べられるのか? にしても……こいつが宝物なんて、地味だ。地味すぎるぜ! 宝って、もっとキラキラしたもんじゃねえのかよ。ふつうは、金銀財宝が宝の定番だろ」
ジョーが、がっくりと肩を落とします。
とたん、抱えたどんぐりが滑って、ジョーの足もとをめがけて落ちました。
「イテっ……く~っ! このどんぐりめっ、おれの大事な足をっ……く~っ」
くずれるように座ったジョーが、自分の足に顔を近づけました。
足になんども息を吹きかけ、「イテテっ」とさけんでいます。
ジョーは、きりりとした太いまゆを上げ、
「ふ~ふ~っ! ピン子、おれは認めねえぞっ。こんなのが宝で、いいのかよっ?」
ピン子をふりかえりました。
ピン子は、肩をすくめます。
「たしかに、これじゃあ納得できないわね。あたし、思ったんだけど。小太郎くんが校庭に隠した物って、あたしたちが、教室で見かけことのある物なんじゃない?」
ピン子は地面のどんぐりに腰をかけました。
ぼくはどんぐりに興味があったので、かがんでその先端を観察しています。
「どんぐりは、桜の木で実って、そして地面に落ちたのかな?」
「ゴー、それは違うわ。どんぐりは、ブナの木やクリの木に実る果実だもん」
「へ~、ピン子はくわしいんだね」
ぼくは、どんぐりのとがった部分を、指でつつきました。
「あたし、理科も好きだから、授業中に先生の言葉に聞き耳を立ててるのよ」
「なるほどね。じゃあぼくも、もっと理科の時間に集中していればよかったな。手足がはえていないとさ、眠たくってしかたがないんだよね」
「おい、だったら!」
ジョーが目をぐわんっと開けて、立ちあがります。
「この地味すぎるどんぐりは、宝物じゃねえってことだよな?」
「うん。きっと風に吹かれて、校庭を転がって、桜の木の下にたどりついただけよ」
「よかったぜ……じゃあ宝物は、さっきピン子が言った、教室にある物なのか?」
「勘だけど」
「勘かよっ」
ピン子は「うん」と、くちびるに指をあてました。
ぼくは、木の実の下部に移動して、
「これ、なんだろう。おわん状の形をしてる」
こんどは、どんぐりの殻をなでてみました。
そのとき、殻がポンと、どんぐりからはがれてしまいました。
「あっ……取れちゃった。でも見て、どんぐりの下部って、とがっていないよ。うわ~、殻もおもしろい。中って、つるつるしてるんだ。どんぐりの家みたいなものかなぁ」
そうやって、ぼくがいくらどんぐりに興味をしめしても、
「お宝は、教室にある物か」
「う~ん、たぶんだけどね」
ピン子とジョーは、小太郎くんが隠したなにかに集中しているのでした。
(どんぐりは、お宝じゃないのかな? ぼくにしたら、財宝級に興味がある物なんだけどな……)
ふしぎな形をしている、教室ではいちども見たことのないこの物体は、ぼくを飽きさせることはありませんでした。
「ねえ見て、殻がついていた部分は、ザラザラしているんだ……あれ?」
ふと見上げると、ピン子とジョーは、一点を見つめて口をつぐんでいました。
「教室にある物……そうは言ったものの、思いつかないわ」
「あ~、なんかっ、頭がくらくらしてきたぜ……ふぅ~っ」
宝物のことを考えすぎたせいか、ふたりの顔は、とても疲れているように見えます。
(……こういうときは、もっと楽しくあそぶのが一番だね。きっと元気もでるよね)
そう思ってぼくは、「みんなでどんぐりを転がしてみようよ」と、ピン子とジョーにあそびの提案をしてみたのです。
「……」
「……」
ふたりはきょとんとした顔で見つめ合いました。
ピン子は、校舎のほうに指をさしました。
「とすればだ、地図にある『ここ』っていう矢印は……ん~、わかったぜ! 桜の木の南側を指しているってことだな、がっはは!」
ジョーは、宝の地図をぼくに手渡すと、「ふたりとも、おれについてこい!」と腕をふって桜の木にむかって歩きだしたのです。
キーンコーンカーンコーン。
ちょうど、校庭に、お昼のチャイムが鳴り響きました。
「給食の時間だねぇ……小太郎くん、ちゃんとご飯を残さず食べてくれるかなぁ」
目をほそめたピン子が、つま先立ちになって校舎のほうを見ています。やがて、「さあ、ゴーもおいで」とぼくの手を取り、いっしょに桜の木へと歩きはじめたのでした。
ピン子に手を引かれながら、ぼくもケイタくんが給食を食べる姿を想像しました。
(今日も、ケイタくんが給食を残さずに食べてくれるといいな。今日のメニューは、いったいなんだっけ? クリームシチューか、ハンバーグだったらいいけど……でも、もしもお魚だったら……心配だなぁ)
ぼくはいまでも、「お魚の骨が喉にささった事件」、のことが忘れられません。
小学三年生のとき、ケイタくんは、あやまってお魚の骨をのみ込んでしまいました。
骨が喉の奥に引っかかり、ケイタくんはパニックになって、なぜか消しゴムのぼくをにぎりしめたまま、猛ダッシュで教室から保健室に走っていったのです。
ケイタくんは息苦しさのあまり、はげしく咳こみながら、ぼくをぎゅうぎゅうと力強くつかんでいました。ぼくはケイタくんといっしょにいられて、すごくうれしかったのですが、保健室でもだえ苦しむケイタくんの姿はもう見たくはありません。
あの日の事件で、ケイタくんはお魚の骨にすごく敏感になりました。
お魚がでると、ケイタくんは給食を残すのです。食べ残すということではなく、食べる時間がなくなってしまうのです。お魚の身をほぐし、こまめに骨をとるせいで、時間がかかりすぎて――気づけば、いつも五時間目がはじまっているのでした。
(たしか、昨日の給食は肉じゃがだったよね。てことは……うわ~っ、ひょっとすると、今日はお魚かもっ……あ~、骨がないお魚って、いないのかな~っ?)
ケイタくんを心配して、あーだこーだと考えていると、
「ほら見て、ゴー。おっきな木だねぇ」
ぼくは、大地に力強くそびえ立つ、桜の木に到着していたのです。
ピン子は大木のまえで、ぼくの手をパっと放して腕を広げました。
「ほらほら、見てよ。この桜の木、すっごく幹が太いわねぇ。この枝すべてに葉っぱがついたら、どうなるんだろう?」
「……きっと、巨大な傘かな」
ぼくは目を見はって、大木を見上げました。
こんどは、四方八方に広がった枝に、緑色の葉っぱがつく姿を想像したのです。
ぼくが、目を閉じた瞬間、
「ん~、気もちいい」
葉のすきまから、太陽の光が降りそそぐ光景が浮かびました。
もう葉は散っているのに、想像の世界では、木漏れ日のなかに立っているのです。
蝶々やミノムシたちも、どんどん桜の木に吸い寄せられてきました。
「――春になったら、またみんなで、この桜を見に行きたいなぁ」
ぼくは、ゆっくりと息を吸いこみました。そして目を開けると、校庭が見えました。
こんなに広い場所に、いまは、ぼくたち文房具の姿しかありません。
(世界は、どこまで広がっているんだろう)
校庭のむこうには、さらに町が広がっているのです。その町のむこうにも、もっともっと大きな町が広がっているのは、かんたんに想像がつきました。
(いくら考えても考えきれないや……ほんとに、果てしないよ)
「おいっ!」
とつぜん、ぼくの目のまえに、ジョーが立ちはだかりました。
「た・か・ら・さ・が・し!」
ジョーは人差し指をふって、いらいらするようにその場で足踏みをします。
「ピン子も、いつまで腕を広げてるんだよっ! ひなたぼっこは、それぐらいにして、はやく宝を探そうぜっ」
「ちぇっ……気もち良かったのに」
ピン子は「も~」と腕をおろすと、口をふくらませながら、足もとを見ました。
「はいはい、わかってますって、宝探しでしょ……ジョーはせっかちなのよねぇ」
ピン子はぶつぶつと文句を言いながら、辺りをうろうろしはじめます。
ジョーは、素直に宝を探しはじめるピン子を見て、
「そうそう、それでいいっ! いいか、おれたちは偉大な冒険家だ。小太郎が隠したなにかを、ぜったいに探し当てるんだ!」
ジョーは、うんうんと納得するようにうなずきます。
そして、きりりとした太いまゆをつりあげ、
「ふたりとも、宝を探しながらよく聞け!」
ジョーは地面にかがんで、四つん這いになってみせたのです。
「お宝を見つけるコツは、目力だっ! め・ぢ・か・ら、が必要なんだ。ピン子とゴーもおれを見習い、もっと、もっーと、そのやる気のない目を、ぐわんっと開けてみろ!」
ぼくは言われるがまま、その場にかがんで、四つん這いになりました。
そして、(えっと……目力だっけ)と思い、目をぐわんっと開けてみたのです。
「ちがうっ、ちーがーうっ!」
ジョーが、血走った目でぼくをにらんできます。
「ゴー、なんだその目は! まるで点じゃないかっ! その程度の目力で、お宝が見つかるとでも思ってるのかっ」
「そんなこと言われても……だいたい、ぼくの目が小さい点だってことは、ジョーだってわかってるくせに」
「つべこべゆーな! 一刻も早く宝を見つけないと、ほかのお宝ハンターに、おれたちの宝をうばわれるかもしれんのだっ!」
(ここには、ぼくたちしかいないよ)
そう思ったけど、ぼくもジョーを見習って、地面に意識を集中させました。
小太郎くんが隠した――なにか。
それを見つけたい気もちは、ぼくもおなじで。
「どこだどこだっ、おれの、お宝はあああっ!」
と、くまなく地面を探すジョーには、負けていられないと思ったのです。
ぼくは、目力を使って地面を捜索しはじめました。
「お宝、お宝、お宝……出てきてお願い……あっ!」
すると、ぼくとおなじくらいの大きさをした、茶色い木の実を発見したのです。
ぼくは、木の実を抱きかかえるようにし、足を踏んばって持ち上げてみました。
「うぃぃ、重い……ピン子っ、ジョーっ、見てっ……お宝って、これじゃない?」
すると、ピン子が「どれどれ」と走ってきました。
ぼくの苦しそうな顔を見て、ピン子も反対側から木の実をかかえます。
ピン子は首をかしげつつ、つるつるとした木の実の表面をなでました。
「ん~、先端がとがった実……下部は上部にくらべて、ぶつぶしているわねぇ。あ、底にはおわん状の殻もついてる……うん、うん。これはきっと、どんぐりだわ!」
「なにっ? どんぐりだって」
ジョーも「見せてくれ!」と立ちあがって、ぼくたちから木の実をうばい取るように、腕を広げて抱きかかえたのです。
「ほお~、はじめて見たぜ。これ、食べられるのか? にしても……こいつが宝物なんて、地味だ。地味すぎるぜ! 宝って、もっとキラキラしたもんじゃねえのかよ。ふつうは、金銀財宝が宝の定番だろ」
ジョーが、がっくりと肩を落とします。
とたん、抱えたどんぐりが滑って、ジョーの足もとをめがけて落ちました。
「イテっ……く~っ! このどんぐりめっ、おれの大事な足をっ……く~っ」
くずれるように座ったジョーが、自分の足に顔を近づけました。
足になんども息を吹きかけ、「イテテっ」とさけんでいます。
ジョーは、きりりとした太いまゆを上げ、
「ふ~ふ~っ! ピン子、おれは認めねえぞっ。こんなのが宝で、いいのかよっ?」
ピン子をふりかえりました。
ピン子は、肩をすくめます。
「たしかに、これじゃあ納得できないわね。あたし、思ったんだけど。小太郎くんが校庭に隠した物って、あたしたちが、教室で見かけことのある物なんじゃない?」
ピン子は地面のどんぐりに腰をかけました。
ぼくはどんぐりに興味があったので、かがんでその先端を観察しています。
「どんぐりは、桜の木で実って、そして地面に落ちたのかな?」
「ゴー、それは違うわ。どんぐりは、ブナの木やクリの木に実る果実だもん」
「へ~、ピン子はくわしいんだね」
ぼくは、どんぐりのとがった部分を、指でつつきました。
「あたし、理科も好きだから、授業中に先生の言葉に聞き耳を立ててるのよ」
「なるほどね。じゃあぼくも、もっと理科の時間に集中していればよかったな。手足がはえていないとさ、眠たくってしかたがないんだよね」
「おい、だったら!」
ジョーが目をぐわんっと開けて、立ちあがります。
「この地味すぎるどんぐりは、宝物じゃねえってことだよな?」
「うん。きっと風に吹かれて、校庭を転がって、桜の木の下にたどりついただけよ」
「よかったぜ……じゃあ宝物は、さっきピン子が言った、教室にある物なのか?」
「勘だけど」
「勘かよっ」
ピン子は「うん」と、くちびるに指をあてました。
ぼくは、木の実の下部に移動して、
「これ、なんだろう。おわん状の形をしてる」
こんどは、どんぐりの殻をなでてみました。
そのとき、殻がポンと、どんぐりからはがれてしまいました。
「あっ……取れちゃった。でも見て、どんぐりの下部って、とがっていないよ。うわ~、殻もおもしろい。中って、つるつるしてるんだ。どんぐりの家みたいなものかなぁ」
そうやって、ぼくがいくらどんぐりに興味をしめしても、
「お宝は、教室にある物か」
「う~ん、たぶんだけどね」
ピン子とジョーは、小太郎くんが隠したなにかに集中しているのでした。
(どんぐりは、お宝じゃないのかな? ぼくにしたら、財宝級に興味がある物なんだけどな……)
ふしぎな形をしている、教室ではいちども見たことのないこの物体は、ぼくを飽きさせることはありませんでした。
「ねえ見て、殻がついていた部分は、ザラザラしているんだ……あれ?」
ふと見上げると、ピン子とジョーは、一点を見つめて口をつぐんでいました。
「教室にある物……そうは言ったものの、思いつかないわ」
「あ~、なんかっ、頭がくらくらしてきたぜ……ふぅ~っ」
宝物のことを考えすぎたせいか、ふたりの顔は、とても疲れているように見えます。
(……こういうときは、もっと楽しくあそぶのが一番だね。きっと元気もでるよね)
そう思ってぼくは、「みんなでどんぐりを転がしてみようよ」と、ピン子とジョーにあそびの提案をしてみたのです。
「……」
「……」
ふたりはきょとんとした顔で見つめ合いました。
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