6 / 35
第二章 教室のあそび
2-3
しおりを挟む
(ドキドキ……はやく、助けて)
掃除道具入れの、すみにかくれていたぼくは、開始早々、鬼のジョーに見つかってしまいました。
つかまってしまったぼくは、えんぴつのピン子が、教室後ろのゆかに描いた、円の檻のなかに座っています。
とそのときでした。
(あ、ピン子がきた)
ゴミ箱周辺をさがしまわっている、鬼のジョーの、一瞬のすきをついたのです。
カーンっ、コロコロ……カツン!
「いえーい!」
窓ぎわの生徒の、イスの足のかげにかくれていたピン子が、円のなかに置いた、梅の種を蹴っとばしたのです。
梅の種は、教室の廊下がわのとびらにぶつかって、生徒の机のしたに転がっていきました。
「ほらゴーっ、いまのうちにジョーから逃げるわよ!」
「う、うんっ……」
ピン子がさしだす手をつかみ、ぼくも立ち上がると、
「あっ、ジョーに気づかれた」
目をまっ赤にしたジョーが、梅の種を取りに走っていきます。
胸に梅の種をかかえ、ジョーが「くそーっ!」とさけびます。
ジョーは、ここまで聞こえてくるほど鼻息を荒くして、くやしがりました。
「ぜったいに、つかまえて、鬼を交代してやるーっ」
赤えんぴつのように、顔面をまっ赤にしたジョーが、腕をふって、ぼくとピン子を追いかけてきます。
「きゃあーっ」
「お、鬼だー」
ぼくとピン子は、円の外で散り散りにわかれ、右と左にそれぞれ走っていきました。
ぼくは、ランドセルを入れる棚の、一番下の段に逃げこみます。
そして、小太郎くんが使っている棚に手をのばし、腕の力でのぼってなかに入ると、ランドセルの肩ひもに身をひそめ、そこからジョーを観察しました。
「ゴーのやつ、どこにかくれたんだよーっ? ピン子め、あいかわらず、すばしっこいやつだなーっ」
鬼のジョーが、円の中央に置いた、梅の種の上に足をおきます。
体ぜんたいで息をするジョーが、四方八方に、目をむけました。
「あー、くそーっ、どうしておれは、ジャンケンが弱いんだーっ!」
梅の種蹴りが、大好きなのに、ジョーはいつも鬼になっています。
ジョーは気づいていませんが、ジャンケンがほんとに弱いのです。
これはぼくとピン子だけのヒミツですが、ジョーはジャンケンをするときに、「ジャーンケーン、グーっ」とさけび、いつも決まってグーを出すのでした。
だから、ぼくとピン子は決まってパーを出します。
おかげでぼくたちは、鬼からスタートすることは、ありません。
「どこだーっ!、ゴーっ、ピン子っ、すがたを見せろーっ」
ジョーは、獲物を狙う猫のように、するどい目つきです。
(うわあ、ジョーが、本気になってるよ……)
すこしでも油断をすれば、すぐにジョーにつかまってしまいそうでした。
ぼくは見つからないように、ランドセルの中に忍びこむことにしました。
教科書の合間をぬい、ぼくは、ランドセルの底まで入っていったのです。
(うう、よいしょっ……は~、この中なら、しばらくは見つからないよね)
底を壁にして、もたれて座っていると、
「なんだろ? 背中が、ごつごつするな」
ぼくは気になって、ふりかえりました。
「うわ、梅の種だ……」
ランドセルの底には、何十個もの梅の種と、缶詰のふたが積み重なっています。
そして、牛乳パックにさすストローが、ゴロゴロと転がっているのでした。
ぼくは、ピンときました。
(そうだった、このランドセルは、小太郎くんのだ!)
思い出しました、ぼくが逃げこんだのは、ピン子のもちぬしである、小太郎くんのランドセルなのでした。
ピン子がいつも、「整理整頓! いらないものは捨てる!」と、小太郎くんに話しかけている姿がよみがえります。
小太郎くんは、物を捨てるのが嫌いなようで、給食の残り物や外で拾った物を、いろんな場所にためこんでいるようなのです。
(小太郎くんは、物を大事にしてくれる人なんだ。ピン子は、安心だね)
きれい好きなピン子には悪いけれど、ぼくは、感動してしまいました。
ずっとむかし、新品の文房具が、教室のゴミ箱に捨てられているのを、見つけました。
ゴミ箱の消しゴムを見て、ぼくは、背筋がブルブルと震えてしまったのです。
(まだ、新しいのに……まだまだ、がんばれるのに……)
ぼくは、ぜったいに捨てられたくないと、思いました。
あの光景を思いだすたびに、ぼくは、もちぬしのケイタくんに感謝しています。
(いつも、大事に使ってくれて、ありがとう)
ぼくのもちぬしケイタくんは、布でできた筆箱(ぼくの家)を使っているのですが、糸がほつれて穴が空いているのに、ずっと大切に使っています。
ぼくたちは、もちぬしを選ぶことができません。
ゴミ箱に捨てられた新品の消しゴムもそうです。
ぼくたち文房具は、もちぬしのことが大好きですが、もちぬしがぼくたち文房具を、大好きになってくれるかどうかは、わかりません。
素敵な文房具を見かけると不安にもなります。
見た目が細く、筆箱のなかでも邪魔にならず、指でまわすだけで、クルクルとおしゃれに出てくる消しゴムには、太刀打ちできません。
(それなのに、いつも、ぼくを使ってくれてありがとう)
ぼくはほんとうに、世界一幸せな消しゴムです。
(……ケイタくん)
掃除道具入れの、すみにかくれていたぼくは、開始早々、鬼のジョーに見つかってしまいました。
つかまってしまったぼくは、えんぴつのピン子が、教室後ろのゆかに描いた、円の檻のなかに座っています。
とそのときでした。
(あ、ピン子がきた)
ゴミ箱周辺をさがしまわっている、鬼のジョーの、一瞬のすきをついたのです。
カーンっ、コロコロ……カツン!
「いえーい!」
窓ぎわの生徒の、イスの足のかげにかくれていたピン子が、円のなかに置いた、梅の種を蹴っとばしたのです。
梅の種は、教室の廊下がわのとびらにぶつかって、生徒の机のしたに転がっていきました。
「ほらゴーっ、いまのうちにジョーから逃げるわよ!」
「う、うんっ……」
ピン子がさしだす手をつかみ、ぼくも立ち上がると、
「あっ、ジョーに気づかれた」
目をまっ赤にしたジョーが、梅の種を取りに走っていきます。
胸に梅の種をかかえ、ジョーが「くそーっ!」とさけびます。
ジョーは、ここまで聞こえてくるほど鼻息を荒くして、くやしがりました。
「ぜったいに、つかまえて、鬼を交代してやるーっ」
赤えんぴつのように、顔面をまっ赤にしたジョーが、腕をふって、ぼくとピン子を追いかけてきます。
「きゃあーっ」
「お、鬼だー」
ぼくとピン子は、円の外で散り散りにわかれ、右と左にそれぞれ走っていきました。
ぼくは、ランドセルを入れる棚の、一番下の段に逃げこみます。
そして、小太郎くんが使っている棚に手をのばし、腕の力でのぼってなかに入ると、ランドセルの肩ひもに身をひそめ、そこからジョーを観察しました。
「ゴーのやつ、どこにかくれたんだよーっ? ピン子め、あいかわらず、すばしっこいやつだなーっ」
鬼のジョーが、円の中央に置いた、梅の種の上に足をおきます。
体ぜんたいで息をするジョーが、四方八方に、目をむけました。
「あー、くそーっ、どうしておれは、ジャンケンが弱いんだーっ!」
梅の種蹴りが、大好きなのに、ジョーはいつも鬼になっています。
ジョーは気づいていませんが、ジャンケンがほんとに弱いのです。
これはぼくとピン子だけのヒミツですが、ジョーはジャンケンをするときに、「ジャーンケーン、グーっ」とさけび、いつも決まってグーを出すのでした。
だから、ぼくとピン子は決まってパーを出します。
おかげでぼくたちは、鬼からスタートすることは、ありません。
「どこだーっ!、ゴーっ、ピン子っ、すがたを見せろーっ」
ジョーは、獲物を狙う猫のように、するどい目つきです。
(うわあ、ジョーが、本気になってるよ……)
すこしでも油断をすれば、すぐにジョーにつかまってしまいそうでした。
ぼくは見つからないように、ランドセルの中に忍びこむことにしました。
教科書の合間をぬい、ぼくは、ランドセルの底まで入っていったのです。
(うう、よいしょっ……は~、この中なら、しばらくは見つからないよね)
底を壁にして、もたれて座っていると、
「なんだろ? 背中が、ごつごつするな」
ぼくは気になって、ふりかえりました。
「うわ、梅の種だ……」
ランドセルの底には、何十個もの梅の種と、缶詰のふたが積み重なっています。
そして、牛乳パックにさすストローが、ゴロゴロと転がっているのでした。
ぼくは、ピンときました。
(そうだった、このランドセルは、小太郎くんのだ!)
思い出しました、ぼくが逃げこんだのは、ピン子のもちぬしである、小太郎くんのランドセルなのでした。
ピン子がいつも、「整理整頓! いらないものは捨てる!」と、小太郎くんに話しかけている姿がよみがえります。
小太郎くんは、物を捨てるのが嫌いなようで、給食の残り物や外で拾った物を、いろんな場所にためこんでいるようなのです。
(小太郎くんは、物を大事にしてくれる人なんだ。ピン子は、安心だね)
きれい好きなピン子には悪いけれど、ぼくは、感動してしまいました。
ずっとむかし、新品の文房具が、教室のゴミ箱に捨てられているのを、見つけました。
ゴミ箱の消しゴムを見て、ぼくは、背筋がブルブルと震えてしまったのです。
(まだ、新しいのに……まだまだ、がんばれるのに……)
ぼくは、ぜったいに捨てられたくないと、思いました。
あの光景を思いだすたびに、ぼくは、もちぬしのケイタくんに感謝しています。
(いつも、大事に使ってくれて、ありがとう)
ぼくのもちぬしケイタくんは、布でできた筆箱(ぼくの家)を使っているのですが、糸がほつれて穴が空いているのに、ずっと大切に使っています。
ぼくたちは、もちぬしを選ぶことができません。
ゴミ箱に捨てられた新品の消しゴムもそうです。
ぼくたち文房具は、もちぬしのことが大好きですが、もちぬしがぼくたち文房具を、大好きになってくれるかどうかは、わかりません。
素敵な文房具を見かけると不安にもなります。
見た目が細く、筆箱のなかでも邪魔にならず、指でまわすだけで、クルクルとおしゃれに出てくる消しゴムには、太刀打ちできません。
(それなのに、いつも、ぼくを使ってくれてありがとう)
ぼくはほんとうに、世界一幸せな消しゴムです。
(……ケイタくん)
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
テレポートブロック ―終着地点―
はじめアキラ
児童書・童話
「一見すると地味だもんね。西校舎の一階の階段下、色の変わっているタイルを踏むと、異世界に行くことができるってヤツ~!」
異世界に行くことのできる、テレポートブロック。それは、唯奈と真紀が通う小学校の七不思議として語られているものの一つだった。
逢魔が時と呼ばれる時間帯に、そのブロックに足を乗せて呪文を唱えると、異世界転移を体験できるのだという。
平凡な日常に飽き飽きしていた二人は、面白半分で実行に移してしまう。――それが、想像を絶する旅の始まりとは知らず。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
鮫嶋くんの甘い水槽
蜂賀三月
児童書・童話
中学二年生の白魚愛奈は、遠方に住むおばあちゃんが入院し、母親の友人の家にお世話になることに。しかし、その家は目つきが悪い同級生・鮫嶋恭介の家だった。強面で不愛想な恭介と暮らすことに不安になる愛奈。恭介を勝手に不良だと思っていたが、それが誤解だということに気づく。恭介の優しいところをみんなにも知ってもらいたいと思った愛奈は、あるアイディアを思いつく。それは、恭介と一緒にいきもの係になることだった。
強面男子との同居の先には、甘酸っぱい初恋の予感が――?
不器用で、切なくて、不安な男女の初恋を描く、ピュアラブストーリー!
ーーー
第15回 絵本・児童書大賞・学園恋愛児童書賞を受賞しました。
ありがとうございます!
昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
鬼の子ツンツンと桃次郎物語
矢野 零時
児童書・童話
鬼ヶ島から逃げ出した鬼の子ツンツンと桃太郎の弟、桃次郎のお話です。流行病を始めいろいろなことが起こりますが、仲良くなった二人は大活躍をしてくれます。
【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~
みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!
イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜!
十三歳の女の子が主人公です。
第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。
投票よろしくお願いします!
《あらすじ》
とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。
エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。
建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。
しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!?
冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。
そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!?
おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる!
アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか?
***
ご意見・ご感想お待ちしてます!
2023/05/24
野いちごさんへも投稿し始めました。
2023/07/31
第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。
詳しくは近況ボードをご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる