50 / 64
第10章 本の完成まで、あともう少し?!
10-2
しおりを挟む
そのころ川辺でナバービは、落ちこむ馬たちを元気づけようとしていた。
「気もちがいいわ、水浴びでもどうかしら? ほら、アジサイもきれいに咲いてる」
「そっちへは行けません! チビだと、花に笑われてしまいますっ」
短足の馬は、川辺に咲くアジサイを見て尻込みをしている。
ノッポの馬も、「そうです! もう辛い思いはこりごりですよ!」とまくし立てた。
バササッ、ドーンッ!
そのとき突然、空から川辺にバーンズが落下してきた。
「ほら見ろ! こいつらは愚かで、自分のことしか頭にない身勝手な馬なんだ!」
「体が、炎に包まれてるわ!」
変わり果てたバーンズの姿に、ナバービが体を震わせる。
バーンズがくちばしにりんごを突きさして近づいた。
「さあこれで、愚かな馬を燃してしまえ、ぐへへ」
瞬間、2頭の馬がナバービを見つめ、「どうか燃やさないでっ!」と叫んだ。
ナバービは、しばらくだまっていた。だがやがて、「誰にでも悩みはありますわ」と、バーンズのくちばしに手
をかざしたのだ。
「あたしもケイティに会えず、ずっと泣いているもの。だからあたしは、自分と同じように悩める者を、燃やすこ
となんてできないわ」
「なんだと!」
目を赤くしたバーンズの脇をすり抜け、ナバービが2頭の馬のもとへ歩いていく。
ナバービが、短足の馬の背を優しくなで始めた。
「あなたは足が短いことを悪いことだと思っているのね。けれど、それは間違いなの」
「ま、間違いですと?」
「ええ。だって背が低いおかげで、誰よりも大地のお花の美しさが見れるじゃないの」
「お花の、美しさ?」
笑顔でうなずくナバービに、今度はノッポの馬も目を丸くする。
「では、わたしの考えも間違っているのですか? 足が長いことには何の意味がっ?」
「それはね、誰よりも太陽のにおいを感じられるの」
「太陽のにおい……な、そうだったとは!」
ナバービの言葉に、2頭の馬の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ううぅ……ナバービさんっ、わたしたちが間違っていました、うぅ」
その様子を見ていたバーンズは、「ぐわああ」と、大地を揺るがすほどの叫び声をあげた。
そして次の瞬間、バーンズの体が完全に炎に包まれたのだ。
「ぐわあっ! ぐわあああ――――」
うめき声はどんどん小さくなっていく。やがて、塵と化したバーンズは、大地の風に吹かれて消えてしまったの
だ。
★ ★ ★
「やったぜ!」
「今度こそ、本の完成でやんす!」
おれはすぐにヘンリを抱きかかえ、ハシゴの段の本に目を通す。
「うんうん。よし、どのページも文章が埋まってる……あ、ちょっと待てっ!」
ところが、最後のページを見た瞬間、おれは思わずため息をついてしまった。
「なんでだ! どうして最後のページだけ白紙なんだよ? もうバーンズは消えたのにっ」
「そういえばまだ、ケイティとナバービが、再会してないでやんすっ」
「そうだった……」
本の完成まであと少しだというのに、おれはまた難問を抱えた気がする。
「ケイティは雲の上……ナバービは魔法も使えないしな」
「2人が再会するには、空でも飛ばなきゃ無理でやんす」
おれたちはそろって「はぁ」と、肩を落としてしまう。
ドンドンっ、ドンドンドンっ!
そのとき、誰かが山小屋の扉をノックした。
「誰だよ、こんなときに?」
「ノックの音が激しいなり。ティム、早く行ったほうがいいでやんす!」
しかたなく、おれはヘンリを連れて煙突の中から飛びだした。
途中で観測を切り上げて、いそいで山小屋の扉を開けにいく。
「サリーじゃねえかっ! どうしたんだよっ?」
扉を開けると、額に大粒の汗を浮かべたサリーが立っていた。
「ティム、大変よ! またインモビリアール社がアルダーニャにやってきたのっ。ドン・フィッチが、ハリスさんの本を差しだせば雇ってやるって、広場で大騒ぎしてるの!」
そうまくし立てたサリーが、おれの肩にいるヘンリを見て、今度は叫び声をあげた。
「きゃあっ。タキシード姿の、こうもり男っ!」
「どうも、サリーさん」
「ひいいっ、しゃべったぁ……しかも、私の名前まで知ってるぅ……」
驚きで倒れそうになるサリーの腕を、おれが「おっと!」と、あわててつかんだ。
おれはもう慣れたけど、普通はしゃべるこうもり男を見れば、誰だってびっくりする。
(だけど、今はそれどころじゃねえんだ)
「サリー、ヘンリの説明は下山しながらだ! 今からいそいで町に戻る! もうこれ以上、町のみんなを混乱させてたまるかよっ!」
「気もちがいいわ、水浴びでもどうかしら? ほら、アジサイもきれいに咲いてる」
「そっちへは行けません! チビだと、花に笑われてしまいますっ」
短足の馬は、川辺に咲くアジサイを見て尻込みをしている。
ノッポの馬も、「そうです! もう辛い思いはこりごりですよ!」とまくし立てた。
バササッ、ドーンッ!
そのとき突然、空から川辺にバーンズが落下してきた。
「ほら見ろ! こいつらは愚かで、自分のことしか頭にない身勝手な馬なんだ!」
「体が、炎に包まれてるわ!」
変わり果てたバーンズの姿に、ナバービが体を震わせる。
バーンズがくちばしにりんごを突きさして近づいた。
「さあこれで、愚かな馬を燃してしまえ、ぐへへ」
瞬間、2頭の馬がナバービを見つめ、「どうか燃やさないでっ!」と叫んだ。
ナバービは、しばらくだまっていた。だがやがて、「誰にでも悩みはありますわ」と、バーンズのくちばしに手
をかざしたのだ。
「あたしもケイティに会えず、ずっと泣いているもの。だからあたしは、自分と同じように悩める者を、燃やすこ
となんてできないわ」
「なんだと!」
目を赤くしたバーンズの脇をすり抜け、ナバービが2頭の馬のもとへ歩いていく。
ナバービが、短足の馬の背を優しくなで始めた。
「あなたは足が短いことを悪いことだと思っているのね。けれど、それは間違いなの」
「ま、間違いですと?」
「ええ。だって背が低いおかげで、誰よりも大地のお花の美しさが見れるじゃないの」
「お花の、美しさ?」
笑顔でうなずくナバービに、今度はノッポの馬も目を丸くする。
「では、わたしの考えも間違っているのですか? 足が長いことには何の意味がっ?」
「それはね、誰よりも太陽のにおいを感じられるの」
「太陽のにおい……な、そうだったとは!」
ナバービの言葉に、2頭の馬の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ううぅ……ナバービさんっ、わたしたちが間違っていました、うぅ」
その様子を見ていたバーンズは、「ぐわああ」と、大地を揺るがすほどの叫び声をあげた。
そして次の瞬間、バーンズの体が完全に炎に包まれたのだ。
「ぐわあっ! ぐわあああ――――」
うめき声はどんどん小さくなっていく。やがて、塵と化したバーンズは、大地の風に吹かれて消えてしまったの
だ。
★ ★ ★
「やったぜ!」
「今度こそ、本の完成でやんす!」
おれはすぐにヘンリを抱きかかえ、ハシゴの段の本に目を通す。
「うんうん。よし、どのページも文章が埋まってる……あ、ちょっと待てっ!」
ところが、最後のページを見た瞬間、おれは思わずため息をついてしまった。
「なんでだ! どうして最後のページだけ白紙なんだよ? もうバーンズは消えたのにっ」
「そういえばまだ、ケイティとナバービが、再会してないでやんすっ」
「そうだった……」
本の完成まであと少しだというのに、おれはまた難問を抱えた気がする。
「ケイティは雲の上……ナバービは魔法も使えないしな」
「2人が再会するには、空でも飛ばなきゃ無理でやんす」
おれたちはそろって「はぁ」と、肩を落としてしまう。
ドンドンっ、ドンドンドンっ!
そのとき、誰かが山小屋の扉をノックした。
「誰だよ、こんなときに?」
「ノックの音が激しいなり。ティム、早く行ったほうがいいでやんす!」
しかたなく、おれはヘンリを連れて煙突の中から飛びだした。
途中で観測を切り上げて、いそいで山小屋の扉を開けにいく。
「サリーじゃねえかっ! どうしたんだよっ?」
扉を開けると、額に大粒の汗を浮かべたサリーが立っていた。
「ティム、大変よ! またインモビリアール社がアルダーニャにやってきたのっ。ドン・フィッチが、ハリスさんの本を差しだせば雇ってやるって、広場で大騒ぎしてるの!」
そうまくし立てたサリーが、おれの肩にいるヘンリを見て、今度は叫び声をあげた。
「きゃあっ。タキシード姿の、こうもり男っ!」
「どうも、サリーさん」
「ひいいっ、しゃべったぁ……しかも、私の名前まで知ってるぅ……」
驚きで倒れそうになるサリーの腕を、おれが「おっと!」と、あわててつかんだ。
おれはもう慣れたけど、普通はしゃべるこうもり男を見れば、誰だってびっくりする。
(だけど、今はそれどころじゃねえんだ)
「サリー、ヘンリの説明は下山しながらだ! 今からいそいで町に戻る! もうこれ以上、町のみんなを混乱させてたまるかよっ!」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
僕がどこにいても、君をいちばん愛してる
彩柚月
児童書・童話
子供の頃のちょっとした事件で距離を置いてしまった幼馴染の2人。ほんのちょっと気になっていたのに、突然の彼の死によって気持ちは宙に浮いてしまう。
奇跡が起きて、彼が生きている世界にパラレルシフト?その世界では私の方が死んでいて——。
※ちょっと、ルビがいい加減になってしまっています。名前が読みにくいかと思って付けたつもりだったのに、気がついたら抜けている箇所がチラホラと……。すみません。順次、直……すつもりですが、いつになるか不明です。
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
わたしたちの恋、NGですっ! ~魔力ゼロの魔法少女~
立花鏡河
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました!
応援して下さった方々に、心より感謝申し上げます!
「ひさしぶりだね、魔法少女アイカ」
再会は突然だった。
わたし、愛葉一千花は、何の取り柄もない、フツーの中学二年生。
なじめないバスケ部をやめようかと悩みながら、掛けもちで園芸部の活動もしている。
そんなわたしには、とある秘密があって……。
新入生のイケメン、乙黒咲也くん。
わたし、この子を知ってる。
ていうか、因縁の相手なんですけどっ!?
★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★
わたしはかつて、魔法少女だったんだ。
町をねらう魔物と戦う日々――。
魔物のリーダーで、宿敵だった男の子が、今やイケメンに成長していて……。
「意外とドジですね、愛葉センパイは」
「愛葉センパイは、おれの大切な人だ」
「生まれ変わったおれを見てほしい」
★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★
改心した彼が、わたしを溺愛して、心をまどわせてくる!
光と闇がまじりあうのはキケンです!
わたしたちの恋愛、NGだよね!?
◆◆◆第1回きずな児童書大賞エントリー作品です◆◆◆
表紙絵は「イラストAC」様からお借りしました。
お隣さんと暮らすことになりました!
ミズメ
児童書・童話
動画配信を視聴するのが大好きな市山ひなは、みんなより背が高すぎることがコンプレックスの小学生。
周りの目を気にしていたひなは、ある日突然お隣さんに預けられることになってしまった。
そこは幼なじみでもある志水蒼太(しみずそうた)くんのおうちだった。
どうやら蒼太くんには秘密があって……!?
身長コンプレックスもちの優しい女の子✖️好きな子の前では背伸びをしたい男の子…を見守る愉快なメンバーで繰り広げるドタバタラブコメ!
魔女ネコのマタ旅
藤沢なお
児童書・童話
灰色の毛並みが美しい、猫のメラミは王女様。
パパは黒猫国の王様で、ママは白猫国の女王様。
黒猫国は剣士の国。白猫国は魔法の国。
メラミに黒と白どちらの国を継がせるのか、
パパとママはいつもけんかばかり。
二人に仲良くしてもらいたいと思うメラミは、
剣士の訓練と魔法の勉強に毎日励んでいた。
メラミの誕生日パーティーが催されたその日、
パパとママからもらったチョコレートがきっかけで、
メラミはある決心をすることに…。
優しい魔女ネコ「メラミちゃん」の、
心があったかくなる冒険ファンタジー。
ほんのひとときでもお楽しみ頂ければ嬉しいです。
表紙イラストは、もん様(https://kumasyumi.com/)に
描いて頂きました。ありがとうございます!
妖精の靴
チゲン
児童書・童話
妖精に会いたくて、入ったら必ず迷うという妖精の森に足を踏み入れた女の子。そこで運良く妖精と出会い、自分の靴と引き換えに妖精の靴を手に入れます。しかしそのことが怖い女王の耳に入り、女の子は王宮に召しだされてしまいました。
2018年執筆(書き下ろし)。
小説投稿サイト『小説家になろう』にて同時掲載中。
わたし雑草がぼうぼうと生えているおばあちゃんの家にお邪魔します!(猫と不思議な生き物が住みついています)
なかじまあゆこ
児童書・童話
猫好きな小鳥浜ことりが最近気になるのは雑草がぼうぼうに生えているおばあちゃんの家だ。
その家に大好きな猫が通っているのを見かけめちゃくちゃ興味を持っていた。
そんなある日、猫と遊んでいると、その家に住むおばあちゃんに声を掛けられて。
小鳥浜ことり小学五年生と幼なじみの紫美紀香と町田結太におばあちゃんと猫。それからちょっと不思議なあやかしの物語です。
よろしくお願いします(^^)/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる