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第十五章
宇宙船がやってきた!
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ドンドンッ、カッシャーン、ピーピロピロッ!
頭上から、にぎやかな音楽が聞こえてきたのです。
それは、太鼓にタンバリン、そして縦笛のような楽器の音でした。
(これは、アナウンスなんかじゃない……生演奏だ)
アカネは鼻をすすりながら、真っ青な空に目をやりました。
「あっ」
なんと、アカネの視界に三隻の気球が見えたのです。白と黄色の縦じま模様の気球が、ゆっくりとアカネたちのいる、遊園地の広場へとやってきたのです。
(もしかして……)
ドキドキドキ。
「カレンちゃん!」
気球をよく見ると、それは大きな宇宙船だったのです。
「パパ、ママ、星のオーケストラだよ!」
アカネは興奮して、無口のパパとママの肩をゆすりました。
「ほら、小さいけど、宇宙でモーツァルトの曲を演奏してた、あの宇宙船だよっ」
アカネの言葉に、パパとママがふと空を見あげました。
「おおっ」パパが大きく目を見開くと、「まあっ」とママも思わず口を開けたのです。
「きっとあの気球に、タクトをもったカレンちゃんがいるんだよっ」
アカネはそう確信して、力強く言いました。
ボオオオッ。
宇宙で渋滞したときに見た、あの星のオーケストラたちの宇宙船が、ちょうどアカネとパパとママが腰をおろすベンチの上空に、ピタリととまりました。
宇宙船はガラスばりになっていて、そのなかで楽器を演奏する人たちがたくさん見えました。アカネは必死に、彼らの姿を一人ずつ目でおっていきました。
するとふと、タクトをもって立つ女の子の後ろ姿が見えたのです。
「あっ、マエストロ!」
アカネはハッとしてさけびました。
宇宙船のなかは、円形劇場のような舞台になっていました。
演奏家たちの中央に、黒い服を着て、軽快にタクトをふる指揮者がいたのです。
そのとき、指揮者の横顔がチラリと見えました。
「やっぱり!」
その女の子は、カレンちゃんでした。
カレンちゃんは舞台のまんなかに立ち、ピッコロやクラリネット、そしてドラムやトランペットの演奏家にむかって、見事な指揮をとっていたのです。
大きく腕をふって、メロディの渦に流れをつくったかと思うと、こんどは野原に舞う蝶のように、両手が宙を華麗に舞っていったのです。
カレンちゃんも演奏家たちも、みんなが楽しそうに笑顔をつくっています。
シャーン、タタッターン、ピーパッ、シャーン!
「わあ、『ディスコキッド』だ!」
曲が変わると、アカネはすぐに「ディスコキッド」という曲だとわかったのです。それはカレンちゃんの大好きな曲で、いつかアカネ自身も聴かせてもらったとき、その軽快でアップテンポなリズムに、とても気分をよくした思い出があるからでした。
星のオーケストラの合唱は、印象的なトランペットの音にあわせて、あっというまに遊園地の広場全体を包みこんでいったのです。
「まあ、なんだか楽しくなってきたわ」
ママがベンチから立ちあがりました。
「なんだか、胸が躍りだしそうだなあ」
つづいてパパも立ちあがって、曲にあわせて手拍子をとりだしたのです。
それをチャンスに、アカネは笑顔で二人の手をとったのでした。
「パパ、ママ、いっしょに踊ろう!」
アカネたち三人は、「ディスコキッド」のリズムにあわせて、ステップをふみました。
「パパ、踊れなくたって、大丈夫だよ。ほら、みんなの前で指揮をしているカレンちゃんを見て! ああやって、音にあわせて自由に踊っていいんだよ」
アカネは、パパとママに白い歯を見せて言いました。
「……ようし、わかった」
はじめは照れくさそうにしていたパパも、リズムにあわせて体を動かしました。
「ママはもう、気持ちよくなっちゃったわ」
リズムを味方にしたママは、とっても軽快なステップをふみました。
「パパとママ、ダンス上手だね!」
「家族でダンスも、楽しいなあ!」
「こう見えて、ママはダンスが得意なんだから!」
ようやくパパとママも、アカネに白い歯を見せてくれたのです。
いつしか広場は、星のオーケストラの演奏にあわせて、園内のみんながダンスを楽しんでいました。いまのこの瞬間、さっきまでのイライラや悲しみは、もう広場のどこにも見当たりませんでした。
パッパッパッ、パーン、シャーン!
「わー、すっごくよかったわ!」
パチパチパチパチ!
曲が鳴りやむと、広場にいるみんなが笑顔で拍手をしました。
シュウイイイィィン――。
そこへ気球型の宇宙船が、広場の空いたスペースにゆっくりと着陸してきたのです。
プシュー、とドアが開くと、、宇宙船のなかから楽器をもった演奏家の人たちが、お辞儀をしながら一人ずつ降りてきました。
ありがとう、いい演奏だったわ、と周囲のみんなが歓声をあげるなか、最後に宇宙船のなかから登場したのは、タクトをもったカレンちゃんだったのです。
それを見たアカネは、とっさに宇宙船へと駆けよっていきました。
(カレンちゃん、ずっと、ずっと会いたかったんだよ)
息せき切って走ってくるアカネに、カレンちゃんもハッと気がついたようです。
「アカネちゃん!」
「ハァ、ハァ、ハァ……カレンちゃん」
「ほんとうに、地球にきてくれたんだ」
久しぶりに再会したカレンちゃんは、いつものように笑顔で、両手をひろげてアカネをむかえてくれたのです。
アカネは、なりふりかまわず、カレンちゃんの胸に飛びこもうとしました。
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
しかし、前に言ってしまったその言葉をとつぜん思いだし、アカネはカレンちゃんのすぐ目の前で立ちどまったのでした。
「アカネちゃん?」
「カレンちゃん……ハァ、ハァ、ハァ」
アカネは肩を弾ませながら、じっとカレンちゃんを見つめました。
ドキドキドキ。
「アカネちゃん、元気そうだね――」
「ごめんねっ」
アカネは頭をさげて、カレンちゃんの言葉をさえぎったのでした。
「……アカネ、ちゃん?」
「カレンちゃん、あのときは、あのときはごめんなさいっ!」
アカネはじっと頭をさげたまま、静かに肩で息をしました。
いろいろと伝えたいことがあったはずなのに、いざカレンちゃんを目の前にすると、アカネの頭は真っ白になってしまったのです。
(言い訳をするつもりなんてないよ……。あたしは嫌われたっていいよ……。こうしてカレンちゃんが、夢にむかって歩いているすがたを見れて、あたしは、あたしは――)
トン。
そのとき、カレンちゃんの手がアカネの肩に触れたのでした。
「アカネちゃん、もういいんだよ」
「――え?」
「だから、ちゃんと顔を見せて」
その声に、アカネはドキドキしながら顔をあげました。
「あたしは、あんなにひどいことを……」
「ううん。わたしね、怒ってないんだよ」
カレンちゃんは、やさしい目でアカネを見つめました。
「……カレンちゃん」
「あのとき、アカネちゃんがきつく言ってくれたから、タクトをふれたんだよ」
その言葉を聞いて、アカネはカレンちゃんの手をギュッとにぎったのです。
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
「カレンちゃん、ウソだからね」
アカネは心のなかの声を、ブンブンと頭をふって追いはらったのです。
「カレンちゃんのことが大キライだなんて、ゼッタイにウソだからね!」
するとようやく、ずっと言いたかった言葉が、アカネの口から飛びだしたのです。
「あたしね、カレンちゃんが地球に行っちゃうって聞いて……もうさみしくって……悲しくって、どうしていいのか、わからなかったの」
アカネの目から大きな涙がこぼれ落ちていきました。
「……友だちなら、ひっく……カレンちゃんを、もっともっと、応援してあげなきゃいけないのに……うぅ」
「もういいよ。アカネちゃん、ありがとうね」
ギュッ――。
「えっ……」
そのとき、カレンちゃんがアカネを抱きしめたのでした。
「わたし、アカネちゃんに感謝してるよ。ホントはわたしだって、アカネちゃんとケンタくんと離れたくなんてなかったよ」
「うぅ、ごめんね……うわあぁん」
カレンちゃんにギュッと包まれたアカネは、もう涙をとめることができませんでした。
「アカネちゃんが言ったこと、どこかでウソだって気がついてたよ」
「うわぁぁん……でも、ヒック、でもぉ」
「でも、そうしてまでしてくれたんだよね。アカネちゃんが、無理をしてまでわたしを突き放してくれたんだって、わたしはしってるよ」
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
「あんなにヒドいこと、言ったのにぃ……」
「そのおかげで、指揮者になれたんだよ。いま、わたしはとっても幸せ。それもこれも、全部アカネちゃんがいてくれたおかげなんだよ。だから、ありがとうね」
「ヒック……ホントに、ホントにぃ?」
「ホントだよ!」
アカネは、ようやくカレンちゃんの目を見つめることができました。
キラキラとしたカレンちゃんの茶色い瞳には、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった、アカネ自身のすがたが映っていました。
「……あたしの顔、ぐしゃぐしゃだぁ」
「うふふ、そうだね。でも、あたしの大好きなアカネちゃんだよ」
カレンちゃんの笑顔に、思わずアカネも笑い声をあげました。
「うふふ、あはは」
「アハハ、ププッ」
アカネとカレンちゃんは、しばらくおたがいの顔を見つめながら、なんども声をあげて笑いました。笑って、照れて、また笑っているうちに、しだいにアカネの胸も晴れわたっていったのです。
「ママ、そのぉ……ごめんね」
そのとき、とつぜん声がして、アカネはふとパパをふりかえりました。
「暑くて……つい。アカネを見てたら、自分もちゃんとしなきゃって」
照れくさそうに頭をかきながら、パパがママにあやまっていたのです。
すると今度は、ママがうつむきながら言いました。
「パパ、こっちこそ、ごめんなさい」
ママも照れくさそうに、パパにあやまったのでした。
だからアカネも、パパとママにちゃんと言いました。
「パパとママ、あたしもごめんなさい」
「アカネちゃん、あたし、まだごめんなさいしか聞いてないよ、うふふ」
カレンちゃんにツッコまれ、しまった、とアカネはすぐに手で口をふさぎました。
「やっとカレンちゃんと再会できたのに……あたし、あやまってばっかりだ!」
「アッハッハッハ」
三人は、アカネのバツの悪そうな顔を見て、またまた大声で笑ったのでした。
ようやく、桜木家にいつもの元気がもどりました。
すると、
「そうだ! これからみんなで、オーロラでも見にいかないか?」
とパパが提案したのです。
「うん、いいね。カレンちゃんは、どお?」
「行きたい! あたしもずっと、オーロラを見にいきたいって思ってたんだ」
「じゃあ、決まりだね!」
「ようし、これが地球最後のアトラクションだ! みんなで思いっきり楽しむぞ!」
そうしてアカネたちは、あと少しで地球を旅立つまえに、カレンちゃんをつれてオーロラを見にいくことにしたのでした。
頭上から、にぎやかな音楽が聞こえてきたのです。
それは、太鼓にタンバリン、そして縦笛のような楽器の音でした。
(これは、アナウンスなんかじゃない……生演奏だ)
アカネは鼻をすすりながら、真っ青な空に目をやりました。
「あっ」
なんと、アカネの視界に三隻の気球が見えたのです。白と黄色の縦じま模様の気球が、ゆっくりとアカネたちのいる、遊園地の広場へとやってきたのです。
(もしかして……)
ドキドキドキ。
「カレンちゃん!」
気球をよく見ると、それは大きな宇宙船だったのです。
「パパ、ママ、星のオーケストラだよ!」
アカネは興奮して、無口のパパとママの肩をゆすりました。
「ほら、小さいけど、宇宙でモーツァルトの曲を演奏してた、あの宇宙船だよっ」
アカネの言葉に、パパとママがふと空を見あげました。
「おおっ」パパが大きく目を見開くと、「まあっ」とママも思わず口を開けたのです。
「きっとあの気球に、タクトをもったカレンちゃんがいるんだよっ」
アカネはそう確信して、力強く言いました。
ボオオオッ。
宇宙で渋滞したときに見た、あの星のオーケストラたちの宇宙船が、ちょうどアカネとパパとママが腰をおろすベンチの上空に、ピタリととまりました。
宇宙船はガラスばりになっていて、そのなかで楽器を演奏する人たちがたくさん見えました。アカネは必死に、彼らの姿を一人ずつ目でおっていきました。
するとふと、タクトをもって立つ女の子の後ろ姿が見えたのです。
「あっ、マエストロ!」
アカネはハッとしてさけびました。
宇宙船のなかは、円形劇場のような舞台になっていました。
演奏家たちの中央に、黒い服を着て、軽快にタクトをふる指揮者がいたのです。
そのとき、指揮者の横顔がチラリと見えました。
「やっぱり!」
その女の子は、カレンちゃんでした。
カレンちゃんは舞台のまんなかに立ち、ピッコロやクラリネット、そしてドラムやトランペットの演奏家にむかって、見事な指揮をとっていたのです。
大きく腕をふって、メロディの渦に流れをつくったかと思うと、こんどは野原に舞う蝶のように、両手が宙を華麗に舞っていったのです。
カレンちゃんも演奏家たちも、みんなが楽しそうに笑顔をつくっています。
シャーン、タタッターン、ピーパッ、シャーン!
「わあ、『ディスコキッド』だ!」
曲が変わると、アカネはすぐに「ディスコキッド」という曲だとわかったのです。それはカレンちゃんの大好きな曲で、いつかアカネ自身も聴かせてもらったとき、その軽快でアップテンポなリズムに、とても気分をよくした思い出があるからでした。
星のオーケストラの合唱は、印象的なトランペットの音にあわせて、あっというまに遊園地の広場全体を包みこんでいったのです。
「まあ、なんだか楽しくなってきたわ」
ママがベンチから立ちあがりました。
「なんだか、胸が躍りだしそうだなあ」
つづいてパパも立ちあがって、曲にあわせて手拍子をとりだしたのです。
それをチャンスに、アカネは笑顔で二人の手をとったのでした。
「パパ、ママ、いっしょに踊ろう!」
アカネたち三人は、「ディスコキッド」のリズムにあわせて、ステップをふみました。
「パパ、踊れなくたって、大丈夫だよ。ほら、みんなの前で指揮をしているカレンちゃんを見て! ああやって、音にあわせて自由に踊っていいんだよ」
アカネは、パパとママに白い歯を見せて言いました。
「……ようし、わかった」
はじめは照れくさそうにしていたパパも、リズムにあわせて体を動かしました。
「ママはもう、気持ちよくなっちゃったわ」
リズムを味方にしたママは、とっても軽快なステップをふみました。
「パパとママ、ダンス上手だね!」
「家族でダンスも、楽しいなあ!」
「こう見えて、ママはダンスが得意なんだから!」
ようやくパパとママも、アカネに白い歯を見せてくれたのです。
いつしか広場は、星のオーケストラの演奏にあわせて、園内のみんながダンスを楽しんでいました。いまのこの瞬間、さっきまでのイライラや悲しみは、もう広場のどこにも見当たりませんでした。
パッパッパッ、パーン、シャーン!
「わー、すっごくよかったわ!」
パチパチパチパチ!
曲が鳴りやむと、広場にいるみんなが笑顔で拍手をしました。
シュウイイイィィン――。
そこへ気球型の宇宙船が、広場の空いたスペースにゆっくりと着陸してきたのです。
プシュー、とドアが開くと、、宇宙船のなかから楽器をもった演奏家の人たちが、お辞儀をしながら一人ずつ降りてきました。
ありがとう、いい演奏だったわ、と周囲のみんなが歓声をあげるなか、最後に宇宙船のなかから登場したのは、タクトをもったカレンちゃんだったのです。
それを見たアカネは、とっさに宇宙船へと駆けよっていきました。
(カレンちゃん、ずっと、ずっと会いたかったんだよ)
息せき切って走ってくるアカネに、カレンちゃんもハッと気がついたようです。
「アカネちゃん!」
「ハァ、ハァ、ハァ……カレンちゃん」
「ほんとうに、地球にきてくれたんだ」
久しぶりに再会したカレンちゃんは、いつものように笑顔で、両手をひろげてアカネをむかえてくれたのです。
アカネは、なりふりかまわず、カレンちゃんの胸に飛びこもうとしました。
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
しかし、前に言ってしまったその言葉をとつぜん思いだし、アカネはカレンちゃんのすぐ目の前で立ちどまったのでした。
「アカネちゃん?」
「カレンちゃん……ハァ、ハァ、ハァ」
アカネは肩を弾ませながら、じっとカレンちゃんを見つめました。
ドキドキドキ。
「アカネちゃん、元気そうだね――」
「ごめんねっ」
アカネは頭をさげて、カレンちゃんの言葉をさえぎったのでした。
「……アカネ、ちゃん?」
「カレンちゃん、あのときは、あのときはごめんなさいっ!」
アカネはじっと頭をさげたまま、静かに肩で息をしました。
いろいろと伝えたいことがあったはずなのに、いざカレンちゃんを目の前にすると、アカネの頭は真っ白になってしまったのです。
(言い訳をするつもりなんてないよ……。あたしは嫌われたっていいよ……。こうしてカレンちゃんが、夢にむかって歩いているすがたを見れて、あたしは、あたしは――)
トン。
そのとき、カレンちゃんの手がアカネの肩に触れたのでした。
「アカネちゃん、もういいんだよ」
「――え?」
「だから、ちゃんと顔を見せて」
その声に、アカネはドキドキしながら顔をあげました。
「あたしは、あんなにひどいことを……」
「ううん。わたしね、怒ってないんだよ」
カレンちゃんは、やさしい目でアカネを見つめました。
「……カレンちゃん」
「あのとき、アカネちゃんがきつく言ってくれたから、タクトをふれたんだよ」
その言葉を聞いて、アカネはカレンちゃんの手をギュッとにぎったのです。
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
「カレンちゃん、ウソだからね」
アカネは心のなかの声を、ブンブンと頭をふって追いはらったのです。
「カレンちゃんのことが大キライだなんて、ゼッタイにウソだからね!」
するとようやく、ずっと言いたかった言葉が、アカネの口から飛びだしたのです。
「あたしね、カレンちゃんが地球に行っちゃうって聞いて……もうさみしくって……悲しくって、どうしていいのか、わからなかったの」
アカネの目から大きな涙がこぼれ落ちていきました。
「……友だちなら、ひっく……カレンちゃんを、もっともっと、応援してあげなきゃいけないのに……うぅ」
「もういいよ。アカネちゃん、ありがとうね」
ギュッ――。
「えっ……」
そのとき、カレンちゃんがアカネを抱きしめたのでした。
「わたし、アカネちゃんに感謝してるよ。ホントはわたしだって、アカネちゃんとケンタくんと離れたくなんてなかったよ」
「うぅ、ごめんね……うわあぁん」
カレンちゃんにギュッと包まれたアカネは、もう涙をとめることができませんでした。
「アカネちゃんが言ったこと、どこかでウソだって気がついてたよ」
「うわぁぁん……でも、ヒック、でもぉ」
「でも、そうしてまでしてくれたんだよね。アカネちゃんが、無理をしてまでわたしを突き放してくれたんだって、わたしはしってるよ」
――夢をあきらめるカレンちゃんなんて、大っ嫌い!
「あんなにヒドいこと、言ったのにぃ……」
「そのおかげで、指揮者になれたんだよ。いま、わたしはとっても幸せ。それもこれも、全部アカネちゃんがいてくれたおかげなんだよ。だから、ありがとうね」
「ヒック……ホントに、ホントにぃ?」
「ホントだよ!」
アカネは、ようやくカレンちゃんの目を見つめることができました。
キラキラとしたカレンちゃんの茶色い瞳には、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった、アカネ自身のすがたが映っていました。
「……あたしの顔、ぐしゃぐしゃだぁ」
「うふふ、そうだね。でも、あたしの大好きなアカネちゃんだよ」
カレンちゃんの笑顔に、思わずアカネも笑い声をあげました。
「うふふ、あはは」
「アハハ、ププッ」
アカネとカレンちゃんは、しばらくおたがいの顔を見つめながら、なんども声をあげて笑いました。笑って、照れて、また笑っているうちに、しだいにアカネの胸も晴れわたっていったのです。
「ママ、そのぉ……ごめんね」
そのとき、とつぜん声がして、アカネはふとパパをふりかえりました。
「暑くて……つい。アカネを見てたら、自分もちゃんとしなきゃって」
照れくさそうに頭をかきながら、パパがママにあやまっていたのです。
すると今度は、ママがうつむきながら言いました。
「パパ、こっちこそ、ごめんなさい」
ママも照れくさそうに、パパにあやまったのでした。
だからアカネも、パパとママにちゃんと言いました。
「パパとママ、あたしもごめんなさい」
「アカネちゃん、あたし、まだごめんなさいしか聞いてないよ、うふふ」
カレンちゃんにツッコまれ、しまった、とアカネはすぐに手で口をふさぎました。
「やっとカレンちゃんと再会できたのに……あたし、あやまってばっかりだ!」
「アッハッハッハ」
三人は、アカネのバツの悪そうな顔を見て、またまた大声で笑ったのでした。
ようやく、桜木家にいつもの元気がもどりました。
すると、
「そうだ! これからみんなで、オーロラでも見にいかないか?」
とパパが提案したのです。
「うん、いいね。カレンちゃんは、どお?」
「行きたい! あたしもずっと、オーロラを見にいきたいって思ってたんだ」
「じゃあ、決まりだね!」
「ようし、これが地球最後のアトラクションだ! みんなで思いっきり楽しむぞ!」
そうしてアカネたちは、あと少しで地球を旅立つまえに、カレンちゃんをつれてオーロラを見にいくことにしたのでした。
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