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025_ダイジョンブと模擬戦

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 025_ダイジョンブと模擬戦
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「お前、スピナーとか言ったな!」
 いきなりお前呼ばわりされた。
 昨日のワイバーンクビチョンパを見ているから絡んでこないと思ったが、俺の予想はハズレたようだ。
「人に名前を聞く時は、最初に自分の名前を名乗るものだ。その程度の礼儀も知らないのか?」
「なっ!? お前は教師をバカにしているのか!?」
 教師だからなんだ。
 俺が教師と認めたわけじゃないのにデカい顔をするなよ、オッサン。
「気に入らないなら、すぐに退学にしてくれて構わないぞ」
 そのほうが俺にとって好都合だ。無駄な時間を有意義な時間にできる。
「その物言い、あまりにも傲慢! その長く伸びた鼻をへし折ってやる! 前に出ろ!」
「ダイジョンブ先生。冷静になってください」
「ハイガッター先生は黙っていてもらおう。これは主任教師である俺が決めたことだ」
 いつかの魔法使いの女性教師が止めたが、髭面の主任教師ダイジョンブは収まらない。
 こんなに簡単に挑発に乗る教師が居てくれて助かる。
 そもそもこの教師は俺に戦闘を教えることができるのだろうか?

「なあ、あんたはワイバーンよりも強いのか?」
「教師に向かってその口のききかたは、なんだ!? まあいい、お前に俺の力を語って聞かせてやる!」
「簡潔に頼むぞ」
「俺は冒険者としてAランクになったのだ! ワイバーンなど俺にかかれば瞬殺だ。がははは」
「Aランクってことは、ドラゴンゾンビを倒せないよな」
「ドラゴンゾンビだと? お前は何を言っているんだ、あんなのは災害級の魔物だ。聖職者が何百人も必要になる化け物だ」
 それでよくも俺に戦いを挑んだな。もっとも俺がドラゴンゾンビを討伐したことあるということは誰も知らないんだが。

「まあいいや。無駄な時間だけど、相手をしてやる。さっさと武器を構えろ」
「なんだ今日はあの小汚いクモは使わんのか?」
「ミネルバと戦いたいのか? まあいいが……ミネルバ」
「キュ」
「あのオッサンが相手してほしいんだとさ」
「キュ?」
「殺してもいいのかって? 腕の1本くらいはいいが、殺したらダメだぞ」
「キュ~」
 分かってくれたようだ。あんな奴でも教師という身分はあるからな。殺すと後始末が面倒だ。

「がははは。俺を殺すだと!? そんな小汚いクモ如きに殺されるわけないだろ! がははははははは」
 ドラ声で高らかに笑うダイジョンブだが、その1分後には顔面蒼白になって許しを請うことになる。

「さあ、来い! このアッタマ・ダイジョンブ主任教師様がクモを退治してやる!」
 いや、退治って……生徒がテムしている魔物を殺したらダメだろ。
 俺を傷つけると問題になるから、ミネルバを殺して見せしめにする気か。それがどれほど浅はかなことか、思い知ることになるんだがな。

「ミネルバ、殺さない程度にボコれ」
「キュッ!」
 鎌足以外の6本の足で歩いていくミネルバに、ダイジョンブは戦斧を向け顔を歪めて笑う。
「こんなクモなんざ、ぶち殺してやる!」
 殺意を隠しもしない。クソだな。
「うりゃぁぁぁっ! 死ねやクソクモがっ!」
 戦斧を振りかぶったダイジョンブが地面を蹴る。
 戦斧がミネルバに向かって振り下ろされた。
 ドンッと音がして土煙が立ち上る。

「がははは! クモなんざ、こんなもんよっ!」
 ダイジョンブが大笑いしているが、何がそんなにおかしいのか?
「キュゥ?」
「なっ!? このクソクモめ、まだ生きていやがったかっ!?」
 生きているも何も、あんな遅い攻撃がミネルバに当たるわけないだろ。しかも攻撃が当たったどうかくらい、手応えで理解しろよな。
 元Aランク冒険者と言っていたが、本当にAランクだったのか? 怪しすぎるぞ、その経歴。

「うりゃっ」
「せいっ」
「とりゃーっ」
「ちょこまかと逃げ回りやがって」
「死ねやっ」
「逃げるなクソクモッ」
 ミネルバはまったく本気を出してないが、ダイジョンブはどんどん疲れて行く。
「はぁはぁ……逃げ回れば殺されないと思っているんだろうが、そうはいかないからな。はぁはぁ……」
 肩で息をしてまだあんなことを言っている。

「いい加減、自分の実力が大したことないと認めたらどうだ?」
 あまりの見苦しさに、俺は反省を促した。
「はあ? Aランク冒険者だった俺の実力がないだと? スピナー、貴様、何様だ!?」
「現実を見ろと言っているんだ。ミネルバが手加減しても、お前程度の雑魚だと死ぬぞ。それでもいいのか?」
「がははははははは。この俺を殺すだと!? 面白くない冗談だ! もっと冗談のセンスを磨けよ、スピナァァァァァァァァァァッ」
 おっと、俺に攻撃をしてきやがった。
 そこら辺の生徒だったら、危険だったぞ。

「ちょ、ダイジョンブ先生! スピナー君に何をするんですか!?」
「うっせっんだよっ。黙っとけ、行き遅れ魔女がっ」
「なっ、行き遅れですって!?」
 魔法使いの女性教師に暴言を吐いた。もはや冷静さは1ミリも見えない。

「ミネルバ。もう飽きた。終わらせてやれ」
「キュッ」
 何か面白いことをしてくれるかとほんの少しだけ期待をしてみたが、まったく見るべきものはない。教師なら俺の身になるような面白いことを教えてほしいものだ。

 魔法使いの女性教師と口論しているダイジョンブに、ミネルバが近づいてふくらはぎ辺りを鎌足で突っつく。
 攻撃しているのではなく、今から攻撃するからという意思表示だ。
「このクソクモが、ウゼーんだよっ」
 ウザいのはお前だぞ、ダイジョンブ。

 戦斧を振るが、ミネルバはそれを余裕で躱す。
 右、左、さらに左、右と避けるミネルバにダイジョンブは攻撃をしかける。
 もちろんダイジョンブの攻撃はミネルバに当たらない。当たるほど素早い動きでもないし、フェイントも稚拙。こんな奴に戦闘の何を学べと言うのか?
「ちょこまか逃げやがってっ」
 そこでダイジョンブの動きがピタリととまる。
「な、なんだ? 体が……?」
 ダイジョンブは体を動かそうとするが、動かない。

 キラリと光る細い糸。ダイジョンブを拘束しているのは、ミネルバの糸だ。
 ダイジョンブはミネルバの糸に絡み取られ身動きが取れない。
「おい、クソクモッ。これを何とかしろっ。スピナー。早くこれをなんとかするんだ」
「お前はバカか。クモが糸を使って獲物を狩るくらい、子供でも知っているぞ。それをまったく警戒もせずにバカの1つ覚えのような稚拙な攻撃をして、俺に無駄な時間を使わせやがって。ミネルバ、やれ」
「キュッ」
「ちょ、止めろ。おい、スピナー。止めさせるんだ」
「お前が教師を辞めるなら、考えてやる」
「そんなことっ。あぁぁぁぁっ」
 ダイジョンブの頭髪、髭、そして身につけている装備。ミネルバはそれら全てを微塵切りにした。
 しまったな、むさくるしいオッサンの全裸など目に毒だった。女生徒たちが悲鳴をあげている。

「ちょ、ダイジョンブ先生! あなたはなんてことを!?」
「お、俺じゃない! このクあへっ……」
 もういいと思った俺は、ダイジョンブの顎を殴りつけて脳を揺らした。まったく最後まで見苦しい奴だ。

 ダイジョンブは貴族の息女が居る前で全裸になったことから、1カ月の謹慎処分になった。
 俺? 俺は何もお咎めなしだよ。俺、何も悪いことしてないもん。つっかかってきたのはダイジョンブのほうだし、俺は降りかかる火の粉を払っただけだもん。

「ロック。俺はしばらく休むから、後は頼むぞ」
「またですか!?」
「この学園に通って、俺のためになることが1つでもあるか? あるなら言ってみろ」
「………」
「そんなわけで、しばらく家にも帰らないからパパによろしく言っておいてくれ」
「それは自分で言ってくださいよ! それと俺も連れて行ってください。このままじゃ、親父に殺されます」
「ふむ……可愛い従者の頼みだ。ドルベヌスには俺から話をつけてやる」
「ありがとうございます!」
 2人で平民街にある工房へ向かった。
 電信でパパとドルベヌスに連絡すると、パパがまたかと言った。またですみませんね、パパ。

 
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