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013_ドラゴンゾンビ

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 013_ドラゴンゾンビ
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「うりゃっ」
 エンチャントフレイムによって炎を纏った剣でドラゴンゾンビを斬りつけると、追加効果として傷口が燃え上がる。
「ギャオォォォォォォォッ」
 ドラゴンゾンビは炎に半身が包まれて絶叫する。

 俺は絶賛戦闘中だ。相手は天災級の魔物のドラゴンゾンビ。ヤバいやつだ。

「キューッ」
 存在進化を繰り返したミネルバは40センチまで大きくなり、アトラク・タランという危険度がAランクの魔物に進化している。
 ミネルバの超高速立体機動にドラゴンゾンビはまったくついていけず、その腐肉は切り刻まれていく。

「グラァァァァァァァァァァァッ」
 大きな口を開く。4重に並ぶ鋭い歯が数百本も見える。それだけで噛まれたらただでは済まないのが分かる。
 喉の奥から黒紫の粒子がこみ上げてきて、ドラゴンゾンビの口内を禍々しいものに彩る。

 ───腐食ブレス。
 触れたくもないどす黒いブレスが、吐き出される。
「マナシールド」
 魔力を物理的なシールドに変え、俺自身を包み込むように展開する。
 木々や草花が枯れていき、朽ち果てる。
 生命溢れる大地が、腐食ブレスによって死の大地へと変貌していく。
 ドラゴンゾンビを中心に、弧状に腐臭漂う毒の沼地へと変わってしまった。

「ミネルバは大丈夫だな」
「キューッ」
 ドラゴンゾンビの後方に居たミネルバは、腐食ブレスの影響なく元気一杯だ。
 俺もマナシールドで自分の身を護ったから、ダメージはない。ただ、俺の周囲は酷い状態だ。

「この大地を元の緑溢れるものに再生するのに、何百年かかることか」
 変貌した大地を見渡してため息を吐く。
 俺との戦いでこの大地が汚染されたように見えるが、ドラゴンゾンビが存在するだけで大地は腐っていく。
 だから、ドラゴンゾンビこいつを放っておくわけにはいかないんだ。

「エンチャントホーリー」
 聖属性を剣に付与する。
 ゾンビ系の魔物は、総じて聖属性が弱点になる。

「皆の迷惑になるような死に方をしやがって!」
 ジャンプしてドラゴンゾンビの首を斬る。傷口から浄化されて、腐肉が消滅していく。

「ギャオォォォォォォォッ」
「うるさいんだよ!」
 背中に剣を突き立てて、尻尾に向かって走る。
 腐肉が浄化されていき、その下にある骨や腐った内臓が見える。

 ドラゴンゾンビは尻尾を振って俺を叩き潰そうとするが、ミネルバの糸によって絡み取られる。
 ミネルバの糸は絹のような手触りの良いものから、鋼鉄よりも高い強度を持つものまで色々と出せる。

 糸が腐肉にめり込む。腐った体液が飛び散る。
「ギャオォォォォォォォッ」
「キューッ!」
 ドラゴンゾンビに糸が絡みついていく。グルグル巻きにされたドラゴンゾンビだが、咆哮一発で糸をちぎった。

「さすがは最強種のドラゴンだ。ミネルバではやや力不足か」
「キュー……」
「落ち込むな。相手は災害級だ。ミネルバが弱いわけではなく、ドラゴンゾンビが強過ぎるんだよ」
 これ以上時間をかけていると、俺たちのほうが負ける。ここで一気にケリをつけるか。

「エンチャントセイクリッド」
 剣に強力な聖属性を付与し、大上段に振り上げる。

「いぃぃぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、セイクリッドスラッシュ!」
 渾身の力を込めた、セイクリッドスラッシュを放つ。
 腐った大地を斬り裂きながら、聖なる斬撃が飛翔する。

 ゴゴゴゴッ。スバンッ。
 ドラゴンゾンビを真っ二つに斬り裂き、その切り口から一気に浄化する。
 眩い浄化光を放ち、ドラゴンゾンビの腐肉が消滅していく。

「ふー。俺、魔力はそこまで多くないんだよ」
【クモ使い】の加護を得た俺の魔力は、【神威の儀】前後で変化はない。俺の魔力は【魔女】を得たリーン様の2割もない。
 魔法を効率的に使うために自分自身に付与したり、剣などの防具に付与するのが戦い方になる。
 魔力を出来る限り省エネ仕様で使わないと、すぐに魔力切れになってしまう。

 ドラゴンゾンビの腐肉と内臓は消え去った。残ったのは骨と魔臓器だけ。
「キューッ!」
 ミネルバが魔臓器を持ってきた。ズシリと重たいどころのものではない。
 拳大の大きさなのに、その重さは50キロくらいありそうだ。
「キュッキュッ」
 元はアースドラゴンだったためか、魔臓器は黒色に少しだけ茶が混ざっている。

「アースドラゴンは大地の守護者だと言うが、ゾンビになってしまったら森を腐らせる害獣でしかないか」
 なんとも皮肉な結末だ。

 アースドラゴンだけじゃなく、ドラゴンには寿命がないと聞く。
 誰かがアースドラゴンを倒さない限り死なないのに、なんでゾンビ化したんだろうか?
 人間が倒したら、その素材を持ち帰るのが普通だ。30メートル級の巨体だから、全部持ち帰ることができなくても魔臓器くらいは持って帰るだろ。

「他の魔物と縄張り争いでもしたか?」
 ドラゴン同士は滅多なことでは争わないから、他の災害級の種族と戦い負けた可能性は否めない。だがその場合は勝った魔物がアースドラゴンを食ってゾンビ化しないはずだ。

「分からん。この森で何が起きているんだ?」
「キュウキュウ」
「ん、この魔臓器を食べるのか? 茶が混ざっているが、いいのか?」
「キュー」
 いいと言うので、魔臓器をミネルバにあげた。

 災害級の魔臓器を食ったミネルバは、近くの木に繭を作った。さすがに40センチにもなると、俺の肩の上では厳しい。

 孵化したミネルバは、体長50センチの黒地に赤色の縞がある大きなクモになった。
 俺と出逢った頃の色合いだが、大きさはまったく違う。
 鎌の足は健在だが、以前よりも小さくなった感じがする。いや、鎌の大きさは変わらずに、体が大きくなったからそう見えるのか。

「何はともあれ、そろそろ帰ろうか」
「キュー」
 今のミネルバの種族名は不明。危険度ランクも不明。ただし、元がAランクだったから、最低でもSランクになっていると思う。

 
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