上 下
6 / 35

006_派閥

しおりを挟む
 ■■■■■■■■■■
 006_派閥
 ■■■■■■■■■■


 発表後、金属カードを受け取った俺は、足取り軽く元の席に戻る。
 貴族がありがたがる戦闘系の加護じゃない。だが、俺にとっては最高の加護だ。

「スピナー様。皆さん、残念がってますよ」
 ロックがにやけた口を手で隠している。傍から見たら、主の俺が残念な加護を得たから悲しんでいる従者に見えるんだろうな。

「構わん。放っておけ」
「そう言うと思ってました」
 ベニック公爵を窘めた国王とパパは平然とした顔をしているが、他の貴族や生徒、そして先生たちは俺を侮ったような顔をしている。
 国王がこれで俺のことを諦めてくれればいいのだが……。

 ポケットからミネルバを出した。
「ミネルバ……俺と契約するか?」
 手の上でミネルバが跳ねる。

「よし、今からミネルバは俺の眷属だ」
 何かが俺の中に流れ込んでくる。これはミネルバの歓喜の感情か。
「嬉しいんだな。俺もだぞ」

 その後、Sクラス全員の【神威の儀】が終わった。
 俺の従者のロックの加護は【騎士】だった。この【騎士】は【戦士】の上位加護で、ナルジニアが得た【剣王】と同等のものだ。
 騎士家の男子としては、良い加護を得られたのだろう。

「可哀想に」
 俺は心からそう思うよ。
「そう言うのはスピナー様だけですよ」
 ロックは憮然としてそう言った。

 聖堂から教室に戻る途中、【剣王】を授けられたナルジニアが大声で自慢していた。
 その周りには数人の子供が集まっている。
「この時期に腰巾着を作るとか、さすがは公爵家の嫡子だな」
「スピナー様も公爵家のお方なんですけどね」
「ふんっ。いざと言う時に役に立たない有象無象など不要だ」
「そんなこと言ってますと、お家に関係する子弟の反感を買いますよ」

 公爵家ともなると、分家や分家の分家、はたまた支流の家や寄子よりこなど多くの家を傘下に収めている。
 俺は四男なので社交界に顔を出したことはない。四男ということを盾にして、パーティーやお茶会などの誘いをパパに断ってもらっている。
 必然的に俺がパーティーやお茶会を主催することもない。だから、ボルフェウス公爵家傘下の家の子供でさえ、俺のことをほとんど知らない。逆もまたしかりだ。

「スピナー様は騎士団の稽古に出ている奴しか知り合いが居ませんからね」
「どうせ成人したら平民なんだから、いいじゃないか」
「平民になるとしても、知り合いは多いほうがいいと思いますよ」
「付き合う奴は選んでいる。さっきも言ったが、いざと言う時に役に立たない有象無象の知り合いなど不要だ」
 ロックが頭を抱えた。俺、正論を吐いているよな?

「僕の【剣王】はマイナーな【クモ使い】などよりも有用だ。君たちも付き合う生徒を選ぶべきだぞ」
 ナルジニアは俺を引き合いに出して派閥を大きくしようとしている。
 将来はベニック公爵を背負って立つだけあって、自己顕示欲が強い。

「あんなこと言ってますよ」
「子供の言うことに、いちいち目くじらを立てていたら疲れるだけだろ」
「スピナー様もその子供ですよ」
「俺は精神年齢のことを言っているんだ」
 ナルジニアは親に似ているな。貴族は神とでも思っているような目をしている。

 教室に到着して、担任のメルリッチ先生から今後の案内があり、副担任のグロリア先生が印刷物を配る。

 今日は【神威の儀】の後にホームルームをして終了だ。授業は明日からになる。
「5月に前期試験、11月に後期試験があります。この前後期試験で優秀な成績を残せなかった生徒は、AクラスやBクラスと言ったクラスに落ちますからがんばってください」
 そこで名も知らぬ男子生徒が手を挙げ質問したのは、授業に出なくてもいいのかというものだ。いい質問だ。

「当学園は実力主義です。課題を提出し、前後期試験で優秀な成績を収めれば、授業への参加は自由になっております」
 実力があれば課題と試験だけでいいらしい。これはいいことを聞いた。

「しかし、学園では学問や戦闘を学ぶだけではありません。友達を作ったり、将来なりたい職業を見つけたりするのもいいでしょう」
 貴族に友達という存在は滅多にない。他者とはライバルだったり、従うものだったり、従わせるものだからだ。
 それができない貴族は社交界から淘汰されていく。俺は淘汰されたいのだが、淘汰されないでいる。困ったものだ。

 ホームルームが終わり、先生たちが教室を出ていった。
 俺もすぐに立ち上がって教室を出る。俺についてくる気配はロックだけだと思ったが、他の気配もあった。面倒臭そうなので足早に教室を出た。

「王女様が何か言いたそうでしたよ」
 廊下を歩いていると、ロックが囁いてきた。

「だから急いで教室を出たんだ。王侯貴族に関わるということは、俺の将来設計にないからな」
「不敬だと思うのですが?」
「王女のほうが話しかけるなと言ったんだ。俺は王女との約束を遵守しているだけさ」
 どやっとロックの顔を見たが、残念な奴を見るような顔をしていた。なぜだ?

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クモ使いだとバカにしているようだけど、俺はクモを使わなくても強いよ?【短編】

大野半兵衛
ファンタジー
 騎士や戦士、魔法使いなどの戦闘系加護がもてはやされる世の中で、クモのような下等な生き物を使役するスピナーは貴族たちからバカにされていた。  王立レイジング学園の六年生であるスピナーは、剣士の加護を持つナルジニアと決闘をすることに。だが、その決闘の条件は一対一でクモを使わないというものだった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...