上 下
4 / 35

004_入学

しおりを挟む
 ■■■■■■■■■■
 004_入学
 ■■■■■■■■■■


 王立レイジング学園の試験結果が発表される日になったが、手続きは本人でなくていいから執事が学園に向かった。
 合格すると思っているが、まかり間違って不合格になった時は万歳三唱しちゃうかもしれない。
 執事が帰って来て俺の合格を告げた時は、ちょっと落ち込んでしまった。

「落ちていればいいと思っていただろ?」
「いやですねー、あの程度の試験問題で落ちるほうが難しいですよ……」
 残念だけど。

「まあいい。それとリーン様のことだがな」
「ん? 王女様がどうかしましたか?」
「お前、興味失うの早すぎだぞ」
「平民と王族は一生交わることのない存在ですよ」
 パパは深いため息を吐いた。幸運が逃げると言いますから、ため息を吐いたらダメですよ。

「国王陛下がお前に謝罪したいと言っている」
「意味が分かりません」
「陛下はお前とリーン様の婚約をこのまま進めたいと仰っているのだ」
「リーン様にその気がなく、俺のことを嫌っていそうな感じでした。それなのに婚約とか国王の頭は腐っているのですか?」
「間違っても陛下の前でそんな口はきくなよ」
「いやですねー。俺が二枚舌なのはパパも知っているでしょ」
「自分のことを二枚舌と言う奴は、お前くらいなものだ」
 目頭を揉みほぐす仕草が渋いですね。目薬を調合してあげますよ。

「とにかくだ。後日時間を作って直接謝罪すると仰っている。そのつもりでいるように」
「分かりました。そのつもりで心を殺して待っています」
「心を殺すような話か?」
「俺にとっては、とても大きなことです」
「まあ、陛下が謝罪するのだから、大きなことなんだがな……」
 パパが下がっていいと言うので、部屋に戻った。

 ・
 ・
 ・

 入学式の朝、俺はいつものようにミネルバに起こされた。
 ミネルバが額の上で跳ねるから、すぐに朝だと分かる。

 学園の入学式は、学園長の長い話に意識が飛びそうになった。
 あの白髪の学園長は、この国でも有数の魔法使いだ。昔は数々の戦場で敵や魔物を殺しまくったらしい。怖いよね~。
 そんな学園長も今は好々爺然とした雰囲気を纏った老人だ。

 入学式には国王やパパも来ている。
 国王が参列しているということは、リーン様はちゃんと合格して入学したことを示している。

 在校生代表からの言葉があり、次は新入生代表の言葉だ。
 舞台に上ったのは、あのリーン様だ。相変わらずの美少女で見ているだけなら目の保養になる。
 美人は手が届かないほうがいい。下手に届いてしまうと、その性格の悪さだとかが見えてしまうからね。

 入学式が終わったら、各教室で待機。
 だけど、俺だけ別室に連れて行かれた。
 そこで国王とパパがソファーに座っていたので、慇懃に挨拶した。

 国王は謝罪を口にした。国王が真剣に謝罪しているのは、その顔を見れば分かる。
 一国の国王がここまで頭を下げるんだから、謝罪を受け入れるのが筋なんだろう。いくら俺が奇人変人でもそれくらいは理解できる。
 ただその謝罪を受け入れてしまうと、婚約話が復活してしまう。どうしたものか。

「陛下がここまで仰っているのですから、今回のことは水に流すとしましょう」
 俺が考えていると、パパが謝罪を受け入れてしまった。しかも俺が言葉を発しようとすると、テーブルの下で足を踏んで来た。意外とそれ痛いから。

「お前はもう戻りなさい」
 厄介払いする気だな。ちっ、しょうがない。ここはパパの顔を立ててやるか。

 Sクラスは成績優秀な者が集められたクラスらしい。
 残念ながらリーン様もSクラスで、どうしても顔を合わせてしまう。
 俺は絶妙なタイミングで視線が合わないようにしている。俺は空気を読める奴なのだ。
 リーン様の周りに貴族たちが集まるが、俺が近づかない限りは向こうは何もしないだろう。

「王女様に挨拶をしなくて良いのですか」
 そう言ってきたのは、真っ赤な髪をした大柄なロックだ。
 ロックは騎士家の五男で、その騎士家は公爵家ウチに仕えている。
 俺とは幼馴染になり、幼い時から一緒に剣の稽古をしてきた仲だ。そのロックも俺と同じSクラスだ。まあ、従者枠だけどね。

 一応、貴族には従者枠がある。
 男爵家と子爵家の子供は1人、伯爵と侯爵は2人、公爵と王族は3人だ。
 従者も入学試験を受けて合格しないといけないが、成績が悪くても主人と同じクラスになる。
 逆に主人の成績が悪いと、Jクラスということもある。
 平民に従者枠はないが、成績が良ければSクラスに入ることができる。

 俺の従者枠は3枠あるんだが、使っているのはロック1人だ。
 俺は要らないと言ったんだが、パパがどうしてもと言うのでロックだけにしてもらった。

「王女様に話しかけないと約束したから大丈夫だ」
「でも、そこら辺の話は国王陛下から再考してほしいと言われているのでしょ?」
 再考どころか先ほど謝罪されて、パパが受けちゃったよ。はぁ……。

「陛下からそう言われていても、リーン様本人から言われてないから放置で問題なし」
 Sクラスの多くは貴族の子供で、リーン様に群がっている。
 その集団から離れているのは、俺とロック、他に数人が居る。この数人は平民なんだろう。王族や貴族に声をかけると、不敬だとか言われるからね。
 身分社会なんてこんなものだよ。

「当主様からスピナー様が問題を起こさないように、しっかりと監視するように言われているので問題は起こさないでくださいよ」
 従者のくせに、なんてこと言うんだよ。俺はこれでも清廉潔白な少年だぞ。問題なんか起こさないぞ。

「俺よりお前のほうが問題起こすなよ」
「いやだなー。俺はいつもスピナー様の命令で悪事に加担させられているんですよ。おかげでオヤジに何度鉄拳制裁されたか分かっているのですか?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。俺が悪党みたいじゃないか」
 まったくこいつは。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クモ使いだとバカにしているようだけど、俺はクモを使わなくても強いよ?【短編】

大野半兵衛
ファンタジー
 騎士や戦士、魔法使いなどの戦闘系加護がもてはやされる世の中で、クモのような下等な生き物を使役するスピナーは貴族たちからバカにされていた。  王立レイジング学園の六年生であるスピナーは、剣士の加護を持つナルジニアと決闘をすることに。だが、その決闘の条件は一対一でクモを使わないというものだった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...