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003_良い理由でしょ
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003_良い理由でしょ
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入試が終わってすぐにパパのところに向かった。嬉しい話だから、足取りが軽い。スキップしそうだ。ルンルン。
「スピナーです」
「入りなさい」
パパは書類の処理をしていた。貴族家の当主として毎日多くの書類が、パパのところに集まる。大変なことだ。
長兄も手伝っているけど、公爵家の書類仕事は膨大だ。2人ともがんばれ。俺は応援しているぞ。
パパの書類仕事の切りがいいところまで、ソファーに座って待つ。
あれ以来俺に懐いているクモも一緒だから、手の上でクモが運動するのを見ている。
このクモは俺が屋敷内に居る時は肩の上で待機して、外に出かける時はポケットの中でじっとしているんだ。可愛くてお利巧なクモなんだよ。
俺はこのクモにミネルバと名づけた。なんとなくメスのような気がしたんだ。
「待たせたな」
パパの書類仕事がひと段落ついたようだ。
「今日の入試はどうだったのだ?」
「まあ、受かっていると思いますよ。あの程度の問題、考える前にペンが走ります」
「ふっ、スピナーらしいな。で、話はそのことではないのだろ?」
さすがはパパ。よく分かってらっしゃる。
「入試会場でリーン様にお会いしました」
「うむ、姫もお前と同じ年だからな」
パパは出された紅茶を口に持っていく。
「そこで婚約は承知してないから、婚約者面しないようにと言われました」
「ブフッ」
「汚いですね。かけないでくださいよ」
ミネルバにはかかってないな。良かった。
ハンカチを取り出して、かかった紅茶を拭く。
「す、すまぬ……。それでお前はなんと返事したのだ? 喧嘩を吹っかけたなんて言わないだろうな」
「嫌ですね。俺がそんな子供のようなことをすると思いますか」
「お前ならやりかねん」
「失礼な! ちゃんと、承知しましたよ。これからは顔を見ても声をかけないように心がけると言っておきました」
パパが頭を抱えている。どうしたの? 仕事のしすぎで頭痛がするの?
肩こりが酷くなると頭痛がすると言うから、少しは休んでくださいね。
「これで婚約の話は断れますね。うん。良かった、良かった」
「はぁ……。スピナーよ」
「なんですか?」
「お前、分かっていて承知したんだろ」
「当然じゃないですか。こんなチャンスを逃すなんて勿体ないこと、俺はしませんよ」
「胃がキリキリ痛む」
今度はお腹を抱えてしまった。胃薬を調合しましょうか? 俺の胃薬は効きますよ。
「リーン様が僕を嫌っているのですから、この話はなかったことにしてくださいね。いい理由が向こうから転がり込んできたのだから、利用しない手はないですよ」
「あー、分かった。分かったから、そうまくしたてるな」
「分かってくださったようで、俺はとても嬉しいです」
パパの部屋を出てすぐに顔がだらしなく緩むのが分かった。
これで王家の紐つきになることは避けられた。
あとは、無事に学園を卒業するだけだ。それで俺は晴れて平民になって、冒険者として活動できる。
「今度ある【神威の儀】でマイナーな加護を得られたら、言うことなしなんだけどな~」
【神威の儀】で戦士系や騎士系、魔法使い系のような戦闘系加護を得たら最悪だ。
冒険者になるのだから本当はそれなりに戦える加護が欲しいが、そういった加護がなくても強くはなれるはずだと俺は思っている。
「神様というのが本当に居るのなら、マイナー加護にしてくれよ」
ミネルバも俺の肩の上で跳ねている。
「お前も俺のマイナー加護を祈っててくれるのか。ありがとうな」
ミネルバの応援があれば、百人力だ。いや、億万力だな。
003_良い理由でしょ
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入試が終わってすぐにパパのところに向かった。嬉しい話だから、足取りが軽い。スキップしそうだ。ルンルン。
「スピナーです」
「入りなさい」
パパは書類の処理をしていた。貴族家の当主として毎日多くの書類が、パパのところに集まる。大変なことだ。
長兄も手伝っているけど、公爵家の書類仕事は膨大だ。2人ともがんばれ。俺は応援しているぞ。
パパの書類仕事の切りがいいところまで、ソファーに座って待つ。
あれ以来俺に懐いているクモも一緒だから、手の上でクモが運動するのを見ている。
このクモは俺が屋敷内に居る時は肩の上で待機して、外に出かける時はポケットの中でじっとしているんだ。可愛くてお利巧なクモなんだよ。
俺はこのクモにミネルバと名づけた。なんとなくメスのような気がしたんだ。
「待たせたな」
パパの書類仕事がひと段落ついたようだ。
「今日の入試はどうだったのだ?」
「まあ、受かっていると思いますよ。あの程度の問題、考える前にペンが走ります」
「ふっ、スピナーらしいな。で、話はそのことではないのだろ?」
さすがはパパ。よく分かってらっしゃる。
「入試会場でリーン様にお会いしました」
「うむ、姫もお前と同じ年だからな」
パパは出された紅茶を口に持っていく。
「そこで婚約は承知してないから、婚約者面しないようにと言われました」
「ブフッ」
「汚いですね。かけないでくださいよ」
ミネルバにはかかってないな。良かった。
ハンカチを取り出して、かかった紅茶を拭く。
「す、すまぬ……。それでお前はなんと返事したのだ? 喧嘩を吹っかけたなんて言わないだろうな」
「嫌ですね。俺がそんな子供のようなことをすると思いますか」
「お前ならやりかねん」
「失礼な! ちゃんと、承知しましたよ。これからは顔を見ても声をかけないように心がけると言っておきました」
パパが頭を抱えている。どうしたの? 仕事のしすぎで頭痛がするの?
肩こりが酷くなると頭痛がすると言うから、少しは休んでくださいね。
「これで婚約の話は断れますね。うん。良かった、良かった」
「はぁ……。スピナーよ」
「なんですか?」
「お前、分かっていて承知したんだろ」
「当然じゃないですか。こんなチャンスを逃すなんて勿体ないこと、俺はしませんよ」
「胃がキリキリ痛む」
今度はお腹を抱えてしまった。胃薬を調合しましょうか? 俺の胃薬は効きますよ。
「リーン様が僕を嫌っているのですから、この話はなかったことにしてくださいね。いい理由が向こうから転がり込んできたのだから、利用しない手はないですよ」
「あー、分かった。分かったから、そうまくしたてるな」
「分かってくださったようで、俺はとても嬉しいです」
パパの部屋を出てすぐに顔がだらしなく緩むのが分かった。
これで王家の紐つきになることは避けられた。
あとは、無事に学園を卒業するだけだ。それで俺は晴れて平民になって、冒険者として活動できる。
「今度ある【神威の儀】でマイナーな加護を得られたら、言うことなしなんだけどな~」
【神威の儀】で戦士系や騎士系、魔法使い系のような戦闘系加護を得たら最悪だ。
冒険者になるのだから本当はそれなりに戦える加護が欲しいが、そういった加護がなくても強くはなれるはずだと俺は思っている。
「神様というのが本当に居るのなら、マイナー加護にしてくれよ」
ミネルバも俺の肩の上で跳ねている。
「お前も俺のマイナー加護を祈っててくれるのか。ありがとうな」
ミネルバの応援があれば、百人力だ。いや、億万力だな。
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