全否定男は異世界でも論破する

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転生

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 真っ白で周りには何もない。ただキーンと耳鳴りがしている。

 ここはどこだ……死んだのか俺は……。

『そう、君は死んだ。そして行くあてのない霊体として今ここにいる』

 まるでヘッドホンでも付けているように、俺の頭に直接誰かが話しかけてくる。心の声を聞かれているようだ。一体誰が……。

『僕は再生の神。死後の道先案内人とでも言おうか。ここではない神界から君に話しかけている』

 死後の道先案内人? ということはやっぱり俺は死んだのか。まあ、ゲーム(異世界夢想無双SP)をプレイ出来なかったことを除けばそれほどショックではないな。それで、俺を何処に案内するつもりだ? 異世界にでも転生させてくれるのか?

『察しがいいね。そう、君はカムイという異世界に転生して新たな人生を歩むんだ』

 カムイ? 俺が買ったゲーム(異世界夢想無双)の世界と同じ名。まさか――――。

『そう、神威かむいだ。やはり君は察しが良いね。神威は異世界夢想無双というゲームを基にして娯楽の神がお遊びで創った世界。時代設定も全てゲームの通りに創ってある。はずだ』

 お遊び? そんないい加減に世界は創られてるのか……。

『全ては神の気まぐれで成り立っている。そういうもんなのさ。それより君はこのゲームを熱心にプレイしていたようだから、神威に馴染むのは簡単だろうね。ただ一つ忠告しておくと、この世界はSP版を基にして創られている。だから通常版の難易度だと思っていると痛い目を見る事になるかもね』

 SP版だと? それはSP版をプレイせずに死んだ俺としては逆にありがたいことだ。

『君に細かい説明は不要だろうから、さっそく神威での生活に耐えられるよう君の身体をいじらせてもらうよ』

 いじる? キャラメイクの事か? それなら俺にさせてくれ。どうせなら別人としてやり直してみたい。

『勘違いしないでくれ。君は僕の手駒として神威に転生するんだ。だから君をキャラメイクするのはもちろん僕だ」

 手駒、だと?

『これは僕と娯楽の神のお遊びなんだよ。僕が作る手駒で娯楽の神が創った神威を攻略できるか、というね。ちなみに君が死んだとしても次の駒を探すだけだよ』

 ……お偉いさんは何処の世界でも、ろくでもない奴ばかりってことか。まあ、騒いだところで結果は変わらないんだろう。俺は俺なりに生きてやる。勝手に雲の上から眺めてろ。

『じゃあ始めるよ』

 光輝く無数の粒が空中を漂い俺の身体に入ってくる。
 頭痛、吐き気、悪寒、関節痛に筋肉痛。まるで風邪を引いたような症状が身体を襲う。

『よし、出来た。こんな感じでいいかな。新しい身体に慣れるまで少し辛かったと思うけど、もう治るから心配ないよ』

 ……ん、本当だもう何ともない。というか、これで何か変わったのか。実感は全く湧かないが。

『君にぴったりの特別な固有スキルを付与しておいたよ。これはSP版の予約特典として受け取ってくれ。それと加護は、僕と娯楽の神からの餞別だ。ステータスオープンと心で唱えれば君のステータスが表示される』

 予約特典……一体どんなスキルだ? とりあえずステータスオープン。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【名前】陰正いんせい
【種族】人 【性別】男 【年齢】18
【職業】――

【レベル】1
【HP】100/2,000
【MP】100/100
【身体能力値】10
【精神能力値】10

【スキル】
・空間収納「極」
・環境適応「極」
・言語理解「極」
・情報理解「極」
・鑑定「極」
・偽装「極」
・念話「極」

【固有スキル】
・言術 LV1

【加護】
・再生の神の加護 死亡時、一度だけ蘇生することができる
・娯楽の神の加護 有利に働くあらゆる確率を100%にする
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 神威では一般人の名は漢字二文字までだ。それで「陰正いんせい」か。いや、名前か苗字かのどっちかでいいだろ。18歳になってるのは神威での成人に設定したか。俺はまだ16だからな。まあ成人ならば出来る事の幅は広がるか。年齢によるボーナスポイントもちゃんと振り分けられてるし……って、これHPにポイント全振りじゃねえか、ド素人かよ。

『文句を言ってももう変えないぞ』

 でだ……固有スキルの「言術」ってのはなんだ? ゲームには存在しなかったスキルだが。それにこの加護っていうのも見たことないぞ。これらはSP版特有のものなのか? 特にこの娯楽の神の加護はチートと言ってもいいレベルだ。確率によって成否が決まる装備品の強化が、これじゃ無限に行えてしまうぞ。いいのか? これで。

『どうだい、気に入ってもらえたかな?』

 ふん、自分でキャラメイクして遊ぶのがこのゲームの醍醐味だ。他人が作ったもので気に入るわけがないだろ。それに、この「言術」とはなんだ? ゲームにはそんなスキルは存在していなかったぞ。

『君は生前からひねくれ者でよく悪態をついていたようだけど、それを活かせた事がなかっただろ? だから君が神威でそれを活かせるようにしてあげたのさ。詳しくは神威に降り立った後、このインテリジェンスソードに聞いてくれ。それと、旅の軍資金を空間収納に入れておいたよ』

 目の前に光の粒が集まり積み重なっていくと、光の塊は白色の鞘に入った短剣へと姿を変えた。
 鍔と柄部分がやけに豪華に装飾されている。
 買ったら一体いくらするんだ? もの凄く高そうだ。

『それは知恵、意思を持つ剣。ゲーム内にはないアイテムだ。神威の知識を持つ君には必要ないかもしれないが、寂しい時の話し相手にはなってくれるよ。ふはは。それじゃ健闘を祈るよ』

「――――うおっ」

 突然、足元にマンホール大の大きさの穴が開き、俺はそこに落ちていった。
 ただ真っ暗な暗闇の中を、風を切ることもなくひたすらに落ちる。内臓が浮いている気味の悪い感覚だけがあった。


   * * *


――――そして、暗闇の中を落ちた先。
 俺はゲームそっくりの世界、神威の地に足をつけた。
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