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2: 結婚したくありません。

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私はシルヴィア・ベアネスト。子爵令嬢だけど、手に仕事がある。ドレスを作るのが大好きなのだ。運良く王族の専属お針子として王城の裁縫室に数年勤めていたのだけれど、この度そこを辞する事にした。

お城の仕事を辞めるのは、出入りのあった街のメゾンから声掛けがあったから。ドレスより簡易な服の需要が伸びて城下町の店は人手不足。そのため、お城より高給で、しかも責任のある仕事を任せてくれるという。
王族の専属お針子といえども、いつかは年齢的に厳しくなっていくだろう。それを思えば、今のうちに転職するのは妥当かと思った。しかしなんと、そのタイミングで。

「え、お父様……けっこん?ですか?私が?」
「そうだ、もうお前も20歳になる。そろそろ結婚しなくては、貰い手がなくなってしまう。」

突然、王都にやってきた両親からとんでもない提案をされたのである。寝耳に水だわ?!

「まだお相手は何件か打診中だが、お返事があり次第、お見合いをしてもらうからそのつもりでいるように」

一方的にそう告げられて呆然とする。両親はお見合いの段取りを終えたら、一度自領に戻るそうだ。私の話も聞く気はないらしい。

……ならば、こちらも聞く気はないと示さねばなるまい。

「問題は、どうやって諦めてもらうかよね」

仕事がある、は、言い訳にならない。ならば、純潔はどうだろうか。
曲がりなりにも我が家も子爵家、お相手はおそらく貴族だ。近年は価値観も緩んだとはいえ、婚約後に関係したというでなく、他人に純潔を散らされた令嬢をわざわざ欲しがる家は少ない。

「そうと決まれば、善は急げだわ!」

休みを利用して、街へと出かけた。次の就職に不利になるような相手は選べないし、友達や知り合いとかも気まずくなるのは嫌だなぁ……と、路肩に席のあるカフェで通りすがる人たちを見ながら長考していた。

「シルヴィアか?何してるんだ?」

と、そこに声をかけてきたのが、騎士姿の幼馴染、兄の友人のリカルドだ。リカルドは今度、その実力を買われて伯爵家に養子に行くことが決まったらしい。騎士エリート街道、まっしぐらだね。

「ちょっとね、考え事。リカルドは見回り?」
「そう、当番。あーでもお茶してぇな、休憩していい?」
「私に聞かれてもわからないけど、どうぞ?」

笑いながら、隣の席を勧めてみた。

「うん。あ、オーダーお願いします」

流れる様に座り、さっと店員を呼び止めてオーダーを通してしまった。仕事が早い。

「で?なんか悩み事か?珍しいな」
「珍しいって何よ。……うん、でもまあ。」
「ふーん。そろそろ実家帰れとか言われたか?」
「うっ」

当たらずとも遠からじ。

「図星か。お前もいい年だもんなぁ」
「……かまかけたわね。でも、仕事が好きだし帰る気はないの。リカルドだっていい年じゃない」
「俺は男だし、これから色々あるからな」

そうだ、伯爵家に養子に行くんだった。

「まぁ、こういう見回りも今月いっぱいかもな」
「あーそうか。そうだよね。はぁ、私はどうしよかな」
「ほんとに帰らねぇの?」
「あっ、私のクッキー」

勝手に紅茶に添えられていたクッキーを奪われてしまっている。

「ちょっとくらい、いいじゃん。心が狭いと彼氏に嫌われるぞ」
「そんな相手いないから、いいんです」
「針仕事を続けたいのか?」
「そうだねぇ。それが一番かな」

まぁ、お城は辞めるんだけどね。とは、言わない。

「じゃ、そういう相手探せば?」
「なかなかいないでしょ、妻が外に出て働いていいってお貴族様は。すでに私はとうが立ってるし」
「ふーん。あ、茶きた。これ取り替えて。俺、猫舌だし」
「ちょ!飲みかけだよ?」
「ほとんど口つけてねえじゃん。いいからいいから」

リカルドはそう言いながら、新しくサーブされたティーポットを私のものと入れ替えてしまう。正直、ぼんやりしてて冷めてしまったので、熱いお茶は嬉しい。

「で?まだ帰らずに続けられそうなのか?」
「うん……それで考えてる、事が」
「ん?」

ふと、冷めたお茶を美味しそうに飲んでる隣の騎士が目に入る。

「……リカルド、お願いがあるんだけど」
「なんだよ改まって」
「ちょっと、私の純潔をもらってくれない?」

ぷはっとお茶を吹いた。冷めてて良かったね。

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