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ひとまず車をディーラーへ預け、代車を借りることになった。
「……あの、大丈夫ですか?」
社用車で顔なじみのディーラーの担当者が、黒塗りの高級車とそこから降りてきてフロアでお茶を飲んでいる怪しげな二人連れに視線を送る。
「ああ、はい……多分、大丈夫かなと」
車も保険に入っていたし、会社はありそうだし、何よりお金は持っている……らしいし。
「何かございましたら、またご連絡ください」
「ありがとうございます、修理よろしくお願いします」
と、代車のキーを渡され……なんだこの高級そうなスマートキー?
「代車の方ですが、あちらの方からのご要望で、現在うちで出せる最高級の車両です」
「な……なんで?」
入口に回されたのは、普段であれば乗らないようなレジャー用のワンボックスだった。「あちらから」って、バーのカウンター以外でもあるんだ……。
「ああ、いえ……はい、ありがとうございます」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
はい、と呆然としながら返事をし、二人の元へ向かう。
「代車、出ました。行きましょうか」
「はい。ああ、ありがとう。御馳走様でした」
とお茶のカップを回収にきた女性にアディルさんが微笑む。女性は真っ赤になってしどろもどろにカップを下げていった。
「それでは、今度はこちらの車についてきてください」
「はい、わかりました」
乗り慣れないワンボックスで黒塗りの高級車の後ろをしばらく走り、小さなビルの地下駐車場へといざなわれる。ビルにはちょっとおしゃれな雰囲気で「neco」の表示がある。自社ビルらしい。どうか怖いことがありませんように、と願いながら車を降りた。
きれいなエレベーターで3階へと向かい、フロアに出ると、そこには……たくさんの、ねこ。いくつかの壁で仕切られた空間の中で、いろんなねこが自由に過ごしている。
「にゃ」
ドアを開けたところのカウンターで、きれいなオッドアイの白猫がお出迎えをしてくれた。おっ!と思いつつも、初対面だしな……と手を出さずに瞬きをした。と、白猫が立ち上がり、こちらに額をすりつけてくる。
「いいこだね」
額を撫ぜながらそう声をかける様子を見て、アディルさんが「へぇ」と声を漏らす。
「やはり、ねこに好かれるタイプのようですね」
「はぁ…」
それはそう、なんだけど。見渡す限りねこのためのフロアに、かなり度肝を抜かれているところだ。
「こちらへどうぞ」
ねこたちも事務の人も興味深そうにこちらを眺める中で、打合せスペースのようなテーブルに通される。
「では、改めまして。私はこういう者です」
アディルさんが日本式に名刺を差し出すのを受け取る。会社名と役職…案の定、CEO。ソファに腰かけると、待ってましたとばかりにねこが膝に乗ってくる。落ちないように膝に力を入れた。
「出身は中東の国です。現在の自宅もそちらにあります」
「中東……ですか」
装束でそうだろうなとは思っていました。
「日本だとよく、石油王ですかと声をかけられますが、弊社はオイルマネーで潤沢なわけではありません」
「はぁ」
と、いつの間にか消えていたカシムさんがお茶を出してくれた。もうひとつの椅子に座りながらアディルさんを掌で差し、こう言う。
「佐藤さん、社長は王族なのです」
「え?」
おうぞく。王族?
「現在の王様の末弟にあたります」
話が大きくなりすぎてません?
「……あの、大丈夫ですか?」
社用車で顔なじみのディーラーの担当者が、黒塗りの高級車とそこから降りてきてフロアでお茶を飲んでいる怪しげな二人連れに視線を送る。
「ああ、はい……多分、大丈夫かなと」
車も保険に入っていたし、会社はありそうだし、何よりお金は持っている……らしいし。
「何かございましたら、またご連絡ください」
「ありがとうございます、修理よろしくお願いします」
と、代車のキーを渡され……なんだこの高級そうなスマートキー?
「代車の方ですが、あちらの方からのご要望で、現在うちで出せる最高級の車両です」
「な……なんで?」
入口に回されたのは、普段であれば乗らないようなレジャー用のワンボックスだった。「あちらから」って、バーのカウンター以外でもあるんだ……。
「ああ、いえ……はい、ありがとうございます」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
はい、と呆然としながら返事をし、二人の元へ向かう。
「代車、出ました。行きましょうか」
「はい。ああ、ありがとう。御馳走様でした」
とお茶のカップを回収にきた女性にアディルさんが微笑む。女性は真っ赤になってしどろもどろにカップを下げていった。
「それでは、今度はこちらの車についてきてください」
「はい、わかりました」
乗り慣れないワンボックスで黒塗りの高級車の後ろをしばらく走り、小さなビルの地下駐車場へといざなわれる。ビルにはちょっとおしゃれな雰囲気で「neco」の表示がある。自社ビルらしい。どうか怖いことがありませんように、と願いながら車を降りた。
きれいなエレベーターで3階へと向かい、フロアに出ると、そこには……たくさんの、ねこ。いくつかの壁で仕切られた空間の中で、いろんなねこが自由に過ごしている。
「にゃ」
ドアを開けたところのカウンターで、きれいなオッドアイの白猫がお出迎えをしてくれた。おっ!と思いつつも、初対面だしな……と手を出さずに瞬きをした。と、白猫が立ち上がり、こちらに額をすりつけてくる。
「いいこだね」
額を撫ぜながらそう声をかける様子を見て、アディルさんが「へぇ」と声を漏らす。
「やはり、ねこに好かれるタイプのようですね」
「はぁ…」
それはそう、なんだけど。見渡す限りねこのためのフロアに、かなり度肝を抜かれているところだ。
「こちらへどうぞ」
ねこたちも事務の人も興味深そうにこちらを眺める中で、打合せスペースのようなテーブルに通される。
「では、改めまして。私はこういう者です」
アディルさんが日本式に名刺を差し出すのを受け取る。会社名と役職…案の定、CEO。ソファに腰かけると、待ってましたとばかりにねこが膝に乗ってくる。落ちないように膝に力を入れた。
「出身は中東の国です。現在の自宅もそちらにあります」
「中東……ですか」
装束でそうだろうなとは思っていました。
「日本だとよく、石油王ですかと声をかけられますが、弊社はオイルマネーで潤沢なわけではありません」
「はぁ」
と、いつの間にか消えていたカシムさんがお茶を出してくれた。もうひとつの椅子に座りながらアディルさんを掌で差し、こう言う。
「佐藤さん、社長は王族なのです」
「え?」
おうぞく。王族?
「現在の王様の末弟にあたります」
話が大きくなりすぎてません?
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