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いつも通りの出勤、に、なるはずだった火曜日の朝。
赤信号で止まっているところに、『ドスッ』と衝撃を受ける。なんと、黒塗りの高級車が俺の車に突っ込んでいた。
急ブレーキをかけた程度の軽い衝撃ではあったものの、これは事故だ。
衝撃に現状を把握できず、「え?」と思っていると、後ろの車がハザードランプを付けてドライバーが下りてきた。
ドアミラーでそれを確認し、自分もギアをパーキングに入れてハザードを点ける。降りてきたのは車同様に、真っ黒で上等なスーツを着た上背のある男性だ。さらに呆然としていると、窓をのぞき込んでくる。日本人ではなさそうだった。念のため、窓を少し開けると、サングラスの下で少しほっとしたように見える。
「すみません、追突してしまいました。対応の相談をさせていただけますか」
「はあ…ええと、警察に電話ってしました?」
「いいえ、まだです。すみません、通報の仕方を教えてください」
そこからか。と思いながらも、流ちょうな日本語に少し安心して車を降りた。相手のスマホから警察に連絡を入れ、交差点名を知らせて到着を待つ。
「ありがとうございます、こちらはこういう者です」
相手が胸ポケットから取り出した名刺のようなカードを受け取る。
英語ではない海外の言語で書かれたらしい名刺を裏返すと、日本語の表示があった。
「株式会社neco…」
「はい、ねこです」
屈強そうな真っ黒いスーツをきた男性から出る「ねこ」の単語。なんともちぐはぐな印象だ。
株式会社ねこさんは、ここからほど近い場所に会社があるらしい。
「ええと、すみません自分は名刺とかないので…佐藤です。とりあえず警察が来るまで、車体の傷の確認していいですか」
「そうですね、お願いします」
横を過ぎていく後続車に頭を下げながら、車の後ろに向かう。軽く当たった程度だと思っていたが、相手の車の強度がすごかったせいなのか、自分の軽自動車は思ったよりもへこんでいる。
「あー…これ、開くかな…」
ハッチのドアノブが歪んでいて、結構な事故だな、と思う。案の定、ハッチは開かなくなっていた。念のため写真を撮る。
「すみません、ちょっと会社に遅れる連絡させてもらいます」
「はい」
職場へ事故に遭ったこと、今から処理が始まることを連絡した。以前一度貰い事故をしたからわかるのだが、ここから3時間はかかるだろう。上司の小言のような言葉にうんざりしながら電話を切ったところに、警察がバイクで到着した。
「あー、衝突事故ですね」
「はい」
「はい」
「通報ではけが人はいないとのことでしたが、間違いないですか」
「はい、ありません」
「今からパトカーが一台くるので、もうちょっと待ってください。その間に免許と保険の確認をします」
「わかりました」
黒スーツの男性も車両へと戻っていき、必要書類を持ってきた。互いの書類を確認される間にパトカーも到着し、事故の確認が取れる。警官を通して連絡先を改めて知らされたのは、先ほど受け取った名刺とは別の連絡先だった。どうやら個人の携帯のようだ。
「事故の手続きについてはこれで終了です。内容について確認したい時はここに連絡をください」
そう言って、警官は小さな紙をこちらに差し出した。事故の記録が簡単に書かれている。
「お互いにけが等がないようであれば、車両の修理についてお話合いということでいいですか」
「はい、かまいません」
そういいながら相手を見た。
「わかりました」
男性も素直にそれを承諾した。
「車両が動くようであれば移動をお願いします」
「はい、あー、じゃあええと、その先のスーパーの駐車場でいいですか」
「わかりました、ついていきます」
「よろしくお願いします」
海外の人みたいだけど、日本語が流暢で助かった。あとはねこの皮を被った反社とかではないことを願うばかりだった。
赤信号で止まっているところに、『ドスッ』と衝撃を受ける。なんと、黒塗りの高級車が俺の車に突っ込んでいた。
急ブレーキをかけた程度の軽い衝撃ではあったものの、これは事故だ。
衝撃に現状を把握できず、「え?」と思っていると、後ろの車がハザードランプを付けてドライバーが下りてきた。
ドアミラーでそれを確認し、自分もギアをパーキングに入れてハザードを点ける。降りてきたのは車同様に、真っ黒で上等なスーツを着た上背のある男性だ。さらに呆然としていると、窓をのぞき込んでくる。日本人ではなさそうだった。念のため、窓を少し開けると、サングラスの下で少しほっとしたように見える。
「すみません、追突してしまいました。対応の相談をさせていただけますか」
「はあ…ええと、警察に電話ってしました?」
「いいえ、まだです。すみません、通報の仕方を教えてください」
そこからか。と思いながらも、流ちょうな日本語に少し安心して車を降りた。相手のスマホから警察に連絡を入れ、交差点名を知らせて到着を待つ。
「ありがとうございます、こちらはこういう者です」
相手が胸ポケットから取り出した名刺のようなカードを受け取る。
英語ではない海外の言語で書かれたらしい名刺を裏返すと、日本語の表示があった。
「株式会社neco…」
「はい、ねこです」
屈強そうな真っ黒いスーツをきた男性から出る「ねこ」の単語。なんともちぐはぐな印象だ。
株式会社ねこさんは、ここからほど近い場所に会社があるらしい。
「ええと、すみません自分は名刺とかないので…佐藤です。とりあえず警察が来るまで、車体の傷の確認していいですか」
「そうですね、お願いします」
横を過ぎていく後続車に頭を下げながら、車の後ろに向かう。軽く当たった程度だと思っていたが、相手の車の強度がすごかったせいなのか、自分の軽自動車は思ったよりもへこんでいる。
「あー…これ、開くかな…」
ハッチのドアノブが歪んでいて、結構な事故だな、と思う。案の定、ハッチは開かなくなっていた。念のため写真を撮る。
「すみません、ちょっと会社に遅れる連絡させてもらいます」
「はい」
職場へ事故に遭ったこと、今から処理が始まることを連絡した。以前一度貰い事故をしたからわかるのだが、ここから3時間はかかるだろう。上司の小言のような言葉にうんざりしながら電話を切ったところに、警察がバイクで到着した。
「あー、衝突事故ですね」
「はい」
「はい」
「通報ではけが人はいないとのことでしたが、間違いないですか」
「はい、ありません」
「今からパトカーが一台くるので、もうちょっと待ってください。その間に免許と保険の確認をします」
「わかりました」
黒スーツの男性も車両へと戻っていき、必要書類を持ってきた。互いの書類を確認される間にパトカーも到着し、事故の確認が取れる。警官を通して連絡先を改めて知らされたのは、先ほど受け取った名刺とは別の連絡先だった。どうやら個人の携帯のようだ。
「事故の手続きについてはこれで終了です。内容について確認したい時はここに連絡をください」
そう言って、警官は小さな紙をこちらに差し出した。事故の記録が簡単に書かれている。
「お互いにけが等がないようであれば、車両の修理についてお話合いということでいいですか」
「はい、かまいません」
そういいながら相手を見た。
「わかりました」
男性も素直にそれを承諾した。
「車両が動くようであれば移動をお願いします」
「はい、あー、じゃあええと、その先のスーパーの駐車場でいいですか」
「わかりました、ついていきます」
「よろしくお願いします」
海外の人みたいだけど、日本語が流暢で助かった。あとはねこの皮を被った反社とかではないことを願うばかりだった。
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