上 下
55 / 58

王子の権力は伊達じゃない

しおりを挟む
    翌日、なんだか大変な事になっていた。

 まず昨日人面花になってしまい塵と消えたクラスメイトのレイラだが、いつの間にか転校したことになっていたのだ。
 しかもなぜか私との事も勘違いや誤解があったが和解したみたいになってて他のクラスメイトたちが私を見つけると慌てて寄ってきて「誤解しててごめんね」と謝ってくる。
 私的には一体感何がどうなってるのやらわけがわからない。

「ふーん、たぶん妖精の仕業じゃない?」

 ずしりと頭の上に重みがくる。ニコラスが私の後ろからのし掛かってきた。
 ええい、頭の上に顎をのせるな!密着するんじゃない!

「あ~、リリーの髪から甘い匂いが……ぐげっ!」

 すんすんと鼻を動かし匂いを嗅ごうとしたニコラスが首根っこを掴まれた鶏のような声を出した。

「お行儀が悪い犬ですね?」

 ……あ、実際にセバスチャンに首根っこを掴まれているわ。

「本日のアイリ様の髪の香りでしたら、ミルキーローズのシャンプーの香りです。ちなみに石鹸はラベンダーハーブオイル入り。
 香水などの類いは禁止しておりますのでほのかに香る程度なのですが、さすが発情期の犬は匂いに敏感ですね?」

「ええい、離せ!なんで陰険執事がそんなこと知ってるんだよっ」

「もちろん私が用意したからです」

 セバスチャンはニコラスを私からひっぺがすと、ぽいっと投げ捨てた。……壁に向かって。(ちょっとめり込んでるけど、壁は大丈夫なのだろうか?)

「アイリ様、どうやらその他の妖精どもが色々と記憶などを微調整したようです。妖精王の魂がやらかしたことなので後始末をした。ということでしょう」

「でも、ルーちゃんの事はそのままだよ?」

 ルーちゃんはいまだに私をいじめるために王子の権力を使って国外追放された。となっているのだ。

「それはさすがに規模が大き過ぎて下級の妖精の力ではどうにもならないのでしょう。あの妖精どもにはせいぜいこの学園の中の人間の記憶を改竄するのが限界です」

「そっか……」

 私が残念に思いうつむくと、いつの間にかニコラスが私の横に立ち手を握ってくる。

「安心しなよ、リリー。ルチアって子はちゃんと俺の国で客人として優遇してるからさ!
 時期王位継承者の婚約者の親友ってことで、それはそれは大事にしてるよ?」

「う、うん。それはありがたいんだけど……」

 なんか顔が近いので思わずのけ反ってしまった。

「リリーの唇は柔らかそうだね?味見していふぼっ!」

 さらにニコラスの顔が近づいた瞬間、セバスチャンはニコラスの顔に蛸を押し付けた。えっ、なぜ蛸?どこから蛸?

「いてててて?!生きてる?!吸盤吸い付いてる?!かまっ噛まれるって!」

「とれたて新鮮ですから軟らかいですよ?」

「俺は生臭いの嫌いなんだよ――――っ!」

「さぁ、アイリ様。こんな犬は放っておいて行きましょうか」

 セバスチャンはいつもの執事スマイルで私を教室に促した。

「うん……蛸大丈夫なの?」

「問題ありません」

 セバスチャンが問題無いと言うので、蛸が顔から剥がれず悪戦苦闘しているニコラスを放置して教室に行くことにした。

 そして教室にはいると、さらに大変な事になっていた。
 黒板には“アイリさん婚約おめでとう”と大きく書かれていて、クラスメイトたちが祝福の言葉をかけてくれる。後ろの方でカルディナが悔しそうにハンカチを噛んでいた。

「アイリさん!あの異国の王子と婚約したって学園中の噂だよ!」

「あのミルク色の髪のワイルドな王子でしょう?!ファンも多いんだって!」

 女子生徒達が口々に「羨ましい!」「お似合いだよ!お幸せに!」と言ってくる。
 するとカルディナが女子生徒たちを押し退けて私の前に来た。

「……いつの間にあの異国の王子をたぶらかしましたの?アイリ・ルーベンスに今後何かしたら異国の王家が許さないと脅されたと、我が大国から連絡が来ましたわ」

「私は何もしてないわよ。だいたいあなたが勝手に私に嫌がらせをしてたんでしょ?」

「ふん、そんな証拠が、どこに――――」

「あんたが俺のリリーをいじめてた真犯人?」

 私の背後にニコラスが生えた。

「……いつの間に来たの?蛸は?」

「俺は1分1秒リリーと離れたくないと思っているんだよ?」

 ニコラスの顔にはうっすら吸盤の丸い跡がついている。

「ひっ……、そのミルク色の髪はっ」

 カルディナがニコラスを見て怯えた。
ニコラスは目を細め、笑顔でカルディナを見たが、カルディナの顔色はどんどん悪くなっていった。

「俺の大切な婚約者に、そんなことしていいと思ってるんだ?
そうかー、大国の皇女は異国の王家との関係なんかどうなってもいいわけだ」

「そっ、それは……」

「俺が王位を継げはリリーは異国の王妃なのに、そんなことするんだ?」

 まるで脅してるみたい……うん、完全な脅迫である。いや、結婚する気はないんだけど。

「し、知りません!あたくしはなにもしてないし、これからも致しません!ル、ルチアのことも関係ありませんからね!あたくしはなにもしていませんからね!!」

 そう叫ぶとカルディナは教室から出ていった。ニコラスはニッと笑うと小声で耳元に囁く。

「とりあえず、これでいじめは完全に無くなるんじゃない?」

「うん……」

 ルーちゃんの冤罪が晴らせないのは悔しいがあの嫌がらせがなくなるならそれはそれでありがたい。しかし、ニコラスの権力的なものの威力の大きさに驚いている。あのカルディナが真っ青になって逃げたのだから、相当なものだ。

「リリーの為ならなんでもするよ」

 そしてに抱き締めようと腕を伸ばしてくる。クラスメイトの女の子たちが「きゃあー!」と黄色い声をあげるが、その腕が私に触れる前にニコラスはセバスチャンに首根っこを掴まれて連れていかれた。

「用が済んだのなら自分の教室に帰りなさい。役に立てて良かったですね?」

「はーなーせー!」

 セバスチャンがやたらとニコラスにかまうせいか、ニコラスに最初に抱いていた警戒心がだいぶ薄れていた。婚約者っていうのはやはりお断りだが、ルーちゃんも助けてもらったし悪い人ではないのはわかる。

 ……とりあえずはお友達かな?

 ニコラスが私の中で、ストーカー痴漢男から男友達にランクアップしたのだった。









    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーの男キャラに転生しました

さき
恋愛
乙女ゲームのプレイ中に気を失って、気づいたら乙女ゲームの世界の住人に転生していた。でも転生した先は主人公じゃない。攻略対象の男のフリをして(男装)、その他の攻略対象や、乙女ゲーム主人公に振り回されながらハッピーエンドを目指すお話。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

【完結】ヒロインはラスボスがお好き第二部 ~ラスボスのお気に召すまま~

As-me.com
恋愛
乙女ゲームのヒロインに生まれ変わったアイリは最愛の推しである吸血鬼(ラスボス)に観賞用のペットまたは夫になってもらうため、攻略対象者たちのありとあらゆるフラグやイベントを叩き潰してまわった。 そして無事にハッピーエンドを迎えたはず……だったのだが。 皆様、お久しぶりです。 私はアイリ様の専属執事のセバスチャンと申します。 前回契約の1年が終わり、アイリ様から熱望された観賞用のペットになるのも夫になるのもお断りしたのですが色々事情があり契約の延長を申し出ました。 え?なぜかって? それは……色々です。 まぁそんなわけで執事兼恋人となり、アイリ様の側にいることを選んだのですが何かにつけて犬が邪魔です。 アイリ様に叱られるので人狼(ワーウルフ)を滅ぼさないように努力しようとは思います……。 今日もなんだかムカつくことばかりです。 ※注意※セバスチャンが主人公の話です。 さきに「ヒロインはラスボスがお好き」をお読みください。

転生妹(ヒロイン)はラスボスお兄様のものなので、王子様はお断りしております!

夕立悠理
恋愛
前世の記憶を唐突に思い出した、公爵令嬢のセレスティア。前世によるとこの世界はロマンス小説の世界で、このままだと義兄であるキルシュがラスボスになって自殺してしまうらしい。 って、そんなのいやー!!! 大好きなお兄様に死んでほしくない!! そう思ったセレスティアは、キルシュが闇落ちしないようにあの手この手を使おうとするが、王子様(ロマンス小説のヒーロー)に興味を持たれてしまう。 「私はお兄様が大事なので! 王子様はお断りです!!」 ラスボス義兄×ヒロイン妹×ヒーロー王子の三角関係 ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...