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わかりやすい事がいい事とは限らない

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縦ドリルに絡まれた翌日から、わかりやすくいじめらしき事が始まった。

 まず、私の机の上に菊の花がわんさか咲いた植木鉢が3つ置かれている。この世界に菊の花があったなんてことも新しい発見だったが、よく見たらガーベラや薔薇っぽい花も混じっていたので、これで花束作ったら綺麗かも?と思った。

 そして椅子を見ると、座面にこれまたわんさかと画鋲が山盛りに乗せられていた。さすがにこれにうっかりとは座らないだろう。下手に触ったら痛そうだけど。
 視線を感じてチラリと廊下を視ると、扉の影から金の縦ドリルがチラチラと見え隠れしていた。私の反応を伺っているようだ。まぁ、そんなの無視してセバスチャンに頼んで全部片付けてもらったが。

 昼休みには開放ロビーでルーちゃんとお昼御飯を食べた。すでに縦ドリルのことを知っていてものすごく心配されたが、セバスチャンもいるし、何かあったら相談するからとしばらく様子を見てもらうことにしたのだ。

 縦ドリルは一応大国の皇女だし、あの色黒王子の元婚約者だと言っていたからルーちゃんが動くとまた色々言ってくる可能性があるからね!
 ちなみに双子王子はなんか急に「お城に戻って王位継承者になるための勉強を始めたい!」とか言い出したのでしばらく学園には来ないそうだ。静かになるしいいことだと思うのだが、ルーちゃんはあの王子たちがそんなこと言い出すなんて天変地異の前触れだと不気味がっていた。

 教室に戻ると、私は思わず「おぉー」と呟いてしまう。

 机の中に入れてあったノートがとてもわかりやすくズタズタに切り裂かれて机の上に置いてあったのだ。また廊下の端の方に金の縦ドリルがチラチラ見えていたが、その縦ドリルに見えない位置にいるクラスメイト数人が複雑な表情をしていた。私と目が合うと申し訳なさそうに視線を反らしている。

 どうやら縦ドリルは自分ではやらずにクラスメイトたちを脅していじめを実行しているようだ。クラスメイトたちとは普通に仲良くしているので、たぶん逆らえない事情があるのだろう。

 またある時は裏庭を歩いていたら突然水が降ってきたこともあった。でも私は濡れなかったが。
 忘れていたが私には人魚から与えられた海の加護があるので、悪意を含んだ水を跳ね返すらしい。つまり、雨とかプールとかは普通に濡れるけど、こうやって誰かが悪意を持って水をかけたりしようとするとその悪意に反応して跳ね返してしまうそうなのだ。人魚が自慢気に「あたしの愛の証よぉ」と尾ビレを動かしていたのを思い出す。
 まぁそんなことを数日の間、繰り返していたわけで……。


 さらに次の日、黒板にこんな落書きをされていた。

“アイリ・ルーベンスは自分の執事を誘惑していかがわしい関係になっているとんでもない女”

 と黒板いっぱいに書かれていて、私はそれを見てちょっとテンションが上がった。いや、爆上がりだ。

「これって、私とセバスチャンの交際宣言でいいのかしら?!それとも結婚宣言?!どっち?!」

「……どちらも違うと思いますが」

 ちなみにクラスメイトたちはみんないるが何も言わない。私がセバスチャンとラブラブ目指して誘惑してることはほとんどの人が知っている。そしてセバスチャンがそれを華麗にスルーしていることも知っているし、たまに応援もされてる。知らないのは縦ドリルくらいだ。
 また数人が気まずそうに視線を反らす。その後ろで縦ドリルがこちらを睨んでいるのが見えたのでそう言うことなのだろう。

「この黒板をそのまま保存してお父様に見せたらどんな反応するかしら?」

「……たぶんよくやったとアイリ様を散々誉めたあと、これを証拠にして私に結婚を承諾するように責めよってくると思われます」

「嬉々としてやりそうだわ」

 私としてはセバスチャンの口から私と結婚したい(またはペットになりたい)と言われてからがいいので、ちょっともったいないがこれは消すことにした。どのみちこのままでは授業が出来ないしね。
 しかし私が黒板消しに手を伸ばした時、静かだったクラスメイトのひとりが立ちあがり私の前まで来ると、私の両手を握りしめて目を潤ませた。
 その子は、以前ルーちゃんとお茶をしてるときに彼シャツのおまじないの話をしてきた子だった。

「アイリさん、こんな中傷に負けてはいけないわ」

「え?」

 その子はクラスメイトたちに顔を向け、涙を浮かべながら叫ぶ。

「みんな酷いわ!アイリさんはクラスの仲間なのにこの間から酷いいじめをしているのはわかってるのよ!」

 みんなが「はぁ?!」って顔をする。実行してるのは確かにクラスメイトたちだが、それをさせてるのは縦ドリルだとみんな知ってるはずだ。もちろんこの子も。

「しかもこんな誹謗中傷まで……!この執事がアイリさんなんか眼中にもなく相手にしていないことくらいご存知でしょう?!
 だいたいアイリさんみたいな幼児体型の子供相手にこんな大人の男性を誘惑することなんか到底無理よ!見ればわかることじゃない?!」

 ……ん?もしかしなくても、私、ディスられてる?馬鹿にされてる?

 そこへ担任がやって来て、さらに混乱することになった。

「一体これは何の騒ぎだ?」

「先生!アイリさんがクラスのみんなからいじめられてるんです!証拠もあります!
 机に花が飾られてたり、椅子に画鋲が仕込まれてたり、ノートが切り裂かれてたり、水をかけられたり!それにこの落書きもです!」

 担任が黒板を見てから私に視線を動かす。

「ルーベンスさん、本当かい?」

「えぇ、まぁ……」

 その時、ふと違和感に包まれた。あれ?水をかけられたことをなんで知ってるだろう。私は結局濡れなかったし、誰にもそのことは言ってない。私とセバスチャン以外でそれを知ってるのは……。

「このいじめをおこなっている真犯人も知っています。クラスメイトたちにいじめをするように脅迫出来る権力の持ち主……」

 クラスメイトたちの視線が縦ドリルに向いた。縦ドリルは一瞬ビクリと体を震わせたが、次の言葉を聞いて安堵の顔をする。

「それは、この国の王子たちの婚約者候補である、ルチア・ノアベルト様です!あの方は自分の権力を使ってこのアイリさんを学園から追い出そうとしているんです!」

 それを聞いていたクラスメイトたちが再び「はぁぁぁあぁ?!」という顔になった。

 ちょっ……なんでルーちゃんの名前がでてくるのよ?!ルーちゃんは私の親友なんだぞ!!!?

 そのあと私がどんなに違うと言っても聞く耳を持たず、その子はルーちゃんがどれだけ悪いかを担任に訴え続けたのだ。

 そしてこれはさらにとんでもない事態に発展するのである……。



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