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《3》従者はほのかに想いを馳せる。(ルーク視点)

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 とある麗らかな晴れたある日。カーウェルド公爵家の執務室ではこんなやり取りがされていた。





「あのボケナス(元)王子の頭を叩き割ってきてもいいですか?」

「うむ、個人的には賛成だがあまり堂々と人間を殺害したらさすがにヤバいからこっそりとバレないようにね?」


 フフフ………、ハハハ……。

 にっこりと、それはもうニッコリと。ルークとカーウェルド公爵が1枚の手紙の内容について全く笑ってない目をしながら微笑み合っていた。










***










 オレには大切に思っている女性がいる。

 燃え上がるような紅い髪と、同じく紅いがこちらは宝石のルビーのような輝きをした少し吊り上がった瞳。

 あの日、オレが腹違いの妹を殺してやろうと振りかざしたナイフを自身の胸で代わりに受け止めオレを憎むどころか優しく微笑んでみせたエメリア。

 その微笑みにオレは心を奪われたのだーーーー。







 オレが“御主人様”と呼び、一生側にいると心に決めた女性……エメリア・カーウェルド。実は彼女はこの世界で希少だと言われる治癒師である。だが、本人は自分がそうであるとは未だに知らない。それはオレが彼女と周囲を騙して彼女の代わりに治癒師だと偽っているからなのだが……。だが、それは彼女を守る為だ。婚約破棄騒動に巻き込まれ、さらに体に消えない傷を負った令嬢はどんな理由があっても「キズモノ令嬢」と蔑まれる。そんなか弱い令嬢が希少な力を持っているとわかったら弱味に漬け込んだ王族が彼女をどんな目に合わすかなんて想像するだけで吐き気がしそうになる。

 だから、その全ての厄災をオレが引き受けようと決めたのだ。

 あの日、オレの中にあった闇の力と憎悪を消し去り希望の光を与えてくれた彼女を守るために……。






 そんなエメリア婚約者を裏切り、オレの腹違いの妹と浮気してさらにはエメリアの暗殺計画まで立てていた元王子の存在を覚えていたくはないが忘れることも出来ずにいつかヤッてやろうと企んでいたのだが。



 その例の元王子からエメリア宛にとんでもない手紙が届いたと発覚した日。オレの奴への殺意は確かなものへと確立した。





「あのボケナス男、確かもう王位継承権も剥奪されてるんですよね?」

「そうだ。王位継承権も無い、ギリギリ王族の端っこにギリ引っかかっているだけの何の価値も無い男に成り下がったボケナスだ」

 そんなエメリアにとって黒歴史にしかならないような男から公爵家に手紙が届いた。エメリア宛ではあったが送り主がそいつだと判明したので中身を確認してみたらとんでもない内容だったのでオレとカーウェルド公爵で緊急会議を開いたわけだ。

「まさか、エメリアとの復縁を企んでいたとは……」

「やっぱり今すぐ殺しましょう。こんな下心しか感じない手紙を送りつけてくるなんて狂気の沙汰の成れの果てですよ。ギリギリ王族なだけに何を仕出かしてくるかわからないので……毒殺と刺殺と絞殺と、惨殺と斬殺と微塵切りと小間切れにして畑に撒くか、すり潰して底なし沼に沈めるのと……どれがいいですかね?」

 出来るだけ穏便に済まそうと思いつくままに提案してみたが、よく考えればどれも全く穏便ではなかった。まぁ、カーウェルド公爵も特に反対する雰囲気ではなかったし「バレないように」と言われただけだったのでバレなければどんな手を使ってもいいと言う暗黙の了解であると理解することにした。 

 なにせ手紙の内容がどうにも気持ち悪い。学園にいた頃はあれだけエメリアを蔑んでいたくせに今は未練タラタラで、本当はエメリアを愛しているとか、浮気してたくせにその浮気相手に騙されただけとか……エメリアだってまだ自分の事を愛しているんだろ?とか。エメリアが望むならヨリを戻してやってもいい。みたいな上から発言がどうにも気持ち悪いのだ。だってエメリアがそんなことを望んでいないのはオレが1番よく知っている。

 あの日、エメリアから治癒の力と共にオレの中に流れてきたエメリアの気持ち。

 エメリアがどれだけオレが好きで、どれほどオレを想っているか。それを全身で感じ取ってしまったオレは恥ずかしいやら嬉しいやらで大変だったが……なによりも彼女の好意は心地良く、オレの事を細胞レベルで変化させた程だ。

 つまり、エメリアはものすごくオレを愛しているのだ!

 まるで自意識過剰な思い上がった男だと言われても仕方がないが、彼女に触れて時折治癒の力を吸収するとその度に彼女がどれだけオレを好きかと言う気持ちまで一緒に流れ込んでくるのだから過剰に反応するのも仕方ないのである。

 オレは彼女の身代わりになるべく“治癒師”として力を見せつけるために彼女に触れて治癒の力を分けてもらっている。もちろん彼女にはそんな意識はないし、オレが治癒師だと信じているのだ。だから何故触れられているのか知らないし、その度に自分の気持ちがオレに知られている事も知らないでいるのだが……とにかく可愛い。

 溢れんばかりにオレを愛してくれるエメリア。

 感情豊かで全部表情に出てるのにバレてないと思っているエメリア。

 何をするにも不器用だが一生懸命なエメリア。

 物を大切にしていてちゃんと領民の事を考えているエメリア。

 料理なんかしたことないのにオレの為にヴァイオレットシチューを製造しちゃうエメリア。

 何もない所で転けて誰にも見られていないか確認しながら真っ赤になってあたふたしているエメリア。


 なんにせよ、エメリアに触れる度に「もう、めっちゃルーク好きぃ!好き好き大好きぃ!同じ空間の酸素を吸えるだけで幸せ過ぎる……!好きすぎてヤバいくらい好きぃ!!」といった彼女の気持ちが隠すことなく流れ込んでくるのだから、たまったものではない。

 最初の出会いで心を奪われ、彼女の気持ちを理解してからはだんだんと絆され……。





 ……今では、オレもエメリアを少なからず想っているわけなのだが。




 だって、可愛いすぎないか?!なんか、とにかく可愛いし!こんなに好意を直球で投げつけられるなんて生まれて初めてだし!


 とにかく、エメリアが可愛くて仕方がないんだぁ!!

 彼女のちょっとした仕草が可愛くて可愛くて……愛おしくて愛らしくて……あ、ヤバい。やっぱり好き。

 どうやらオレは、エメリアが好きみたいなんだ……!





「……とにかく、バレなければ良いということで……。色々やっちゃいますね!」

「後始末なら任せろ!」



 こうしてカーウェルド公爵の許可も得たので、オレは色々とやってしまうことにした。


 あ、もちろん本当に殺しはしない。そんなことしたら心優しいエメリアが気にするかもしれないからだ。例え死んだ後だとしてもエメリアの記憶に残ったりお悔やみの言葉を呟かれたり、さらには過去の過ちを許されたりしたら血管切れそうだと思ったからであるのだが。

 ただ、もう二度とエメリアにちょっかいをかけれないようにしてやろう。そう思っただけである。





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