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49 まさかとしか思えませんでした
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暖炉の中にあった隠し通路に押し込められ、ルーナ様と別れてしまってから数分。私たちは狭く薄暗い場所をひたすら真っ直ぐ進んでいました。
本当は今すぐ引き返したかった。けれど、ルーナ様が自分を犠牲にして私たちを逃がしてくれたのは息子であるジルさんを救うためだと思ったから……。ルーナ様は私にその想いを託してくれたのだと思ったから、私は進むことに決めました。
『……ただその意味はあなた様が考えていらっしゃる意味とまったく違う可能性があるのですわ』
確かにルーナ様はそうおっしゃった。
私は“聖女”とは“呪われた王子”を殺してしまう存在だと考えていたけれど、それと全く違う可能性があるのなら……それに賭けたいと思ったのです。
それに、私なんかよりもっと辛いはずの彼が振り返らずにいるのに……私がそんな事を出来るはずもありません。そう思っているのに、前に進む足が僅かに震えてしまいます。
「ロティーナ」
前方を歩くジルさんが足を止めることなく私の名前を呼びました。
「……母上なら大丈夫だ」
前を向いているジルさんの表情はわからなかったけれど、きっと私を安心させるために言ってくれているのでしょう。
「そうですよ、お嬢様!きっと大丈夫ですよ!」
「聖女様、ルーナ様を信じましょう。あの方はとても強いお方ですから」
後ろからアニーとターイズさんの声も聞こえてきました。私がこれ以上みんなに心配をかけてはいけないですね。
「はい、ルーナ様ならきっと……。それに、次にお会いした時にいっぱい抱きしめてもらいたいです!」
私はジルさんの服の裾を握り、笑顔で答えました。
「ああ、今度は邪魔しない。母上が喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
前を向いたままのジルさんが少し笑った気がして、ルーナ様にジルさんのことをいっぱい教えてもらおうと思ったのでした。
***
何て言うことでしょう。
狭い通路を通り抜けその先にあった見慣れぬ扉を開けると、眩しい光が差し込みました。
ずっと薄暗い所にいたからか目が眩み、それぞれがやっと周りが見えるようになったとき……私の視界に真っ先に見えた人物のその姿に驚きを隠せなかったのです。
だって、まさかこんなところにいるはずないって……脳が混乱してしまいました。
「どうして、ここに……?」
どうして?
異国の、“聖女”の秘密を知る人がいるはずの秘密の場所になぜ彼女がいるのか……。
忘れもしない輝く金髪と、海のような濃いブルーの瞳をしたその人物の姿に思わず涙が滲みます。あれから結局お手紙も出せずにいました。中途半端な報告は出来ないしどうせなら異国で仕事を見つけて落ち着いてからと思い直したもののこの騒ぎになり、忘れていたわけではないですがやはり何も書けませんでした。だって、どう書けばいいかわからなかったんです。
私は、私を見つめながらそっと微笑むその人を見てその名を口にしました。
「ーーーーレベッカ様。……本当にレベッカ様なんですか?!」と。
だって、私の大切な親友でアールスト国の王子のせいで修道院に送られてしまったはずのレベッカ様がーーーーそこにいたのですから。
本当は今すぐ引き返したかった。けれど、ルーナ様が自分を犠牲にして私たちを逃がしてくれたのは息子であるジルさんを救うためだと思ったから……。ルーナ様は私にその想いを託してくれたのだと思ったから、私は進むことに決めました。
『……ただその意味はあなた様が考えていらっしゃる意味とまったく違う可能性があるのですわ』
確かにルーナ様はそうおっしゃった。
私は“聖女”とは“呪われた王子”を殺してしまう存在だと考えていたけれど、それと全く違う可能性があるのなら……それに賭けたいと思ったのです。
それに、私なんかよりもっと辛いはずの彼が振り返らずにいるのに……私がそんな事を出来るはずもありません。そう思っているのに、前に進む足が僅かに震えてしまいます。
「ロティーナ」
前方を歩くジルさんが足を止めることなく私の名前を呼びました。
「……母上なら大丈夫だ」
前を向いているジルさんの表情はわからなかったけれど、きっと私を安心させるために言ってくれているのでしょう。
「そうですよ、お嬢様!きっと大丈夫ですよ!」
「聖女様、ルーナ様を信じましょう。あの方はとても強いお方ですから」
後ろからアニーとターイズさんの声も聞こえてきました。私がこれ以上みんなに心配をかけてはいけないですね。
「はい、ルーナ様ならきっと……。それに、次にお会いした時にいっぱい抱きしめてもらいたいです!」
私はジルさんの服の裾を握り、笑顔で答えました。
「ああ、今度は邪魔しない。母上が喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
前を向いたままのジルさんが少し笑った気がして、ルーナ様にジルさんのことをいっぱい教えてもらおうと思ったのでした。
***
何て言うことでしょう。
狭い通路を通り抜けその先にあった見慣れぬ扉を開けると、眩しい光が差し込みました。
ずっと薄暗い所にいたからか目が眩み、それぞれがやっと周りが見えるようになったとき……私の視界に真っ先に見えた人物のその姿に驚きを隠せなかったのです。
だって、まさかこんなところにいるはずないって……脳が混乱してしまいました。
「どうして、ここに……?」
どうして?
異国の、“聖女”の秘密を知る人がいるはずの秘密の場所になぜ彼女がいるのか……。
忘れもしない輝く金髪と、海のような濃いブルーの瞳をしたその人物の姿に思わず涙が滲みます。あれから結局お手紙も出せずにいました。中途半端な報告は出来ないしどうせなら異国で仕事を見つけて落ち着いてからと思い直したもののこの騒ぎになり、忘れていたわけではないですがやはり何も書けませんでした。だって、どう書けばいいかわからなかったんです。
私は、私を見つめながらそっと微笑むその人を見てその名を口にしました。
「ーーーーレベッカ様。……本当にレベッカ様なんですか?!」と。
だって、私の大切な親友でアールスト国の王子のせいで修道院に送られてしまったはずのレベッカ様がーーーーそこにいたのですから。
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