上 下
30 / 74

30 その勝利は確定する(アミィ視点)

しおりを挟む
「よし、これで大丈夫だ。後はオレに任せておいて。今夜迎えに来るから、またここで落ち合おう」

 ジルはにっこりと笑みを浮かべながらあたしがなんとか書き終えた書類を懐にしまった。それにしても貴族の書類ってなんでこう小難しいのかしら?養女になる時の書類も実は何が書いてあるかわからなかったのよね。まぁ、ゲームのストーリー通りあたしが幸せになるってわかってたからチャチャッとサインしたんだけど。それと同じで今回の書類も小難しい羅列が並んでるようにしか見えなかった。ジルが説明してくれたから特に読もうとも思わなかったけどね。いつものことだけどこの世界の文字って読み方書きしにくいんだもの。どうせなら日本語を共通語にしてくれたらいいのに、気の利かない乙女ゲームよね!

 あたしは勢い良くジルに抱き付き、さり気なく胸を押し付けた。

「ちゃんとその女を始末した証拠を持ってきてよね?でなきゃ、ジルの聞いてあげないんだからっ」

 そうして、そのまま上目遣いで首を傾げてみせた。こうしてみせれば大概の男は大喜びするのだ。ほら、ジルだってこんなに笑顔だもの。

「わかってるよ。今から始末してくるから待ってて」

    ジルは優しい手つきであたしの頬を撫でてきた。大丈夫、この男はあたしに夢中だわ。これなら絶対に裏切らない。他の男たちとは違う……この男だけがあたしを愛してくれるんだわ。

    これであたしは聖女になれるんだと思ったらニヤニヤが止まらない。だって聖女になれば今度こそ全てが思いのままにできるんだもの。

    まず、聖女だから王族より強い権力を持つ事ができるわ。ジルのおかげで後から公爵家があたしに金をせびりにこないように完全に縁も切れた。そもそも公爵家のジジイとババアのことは大嫌いなのだ。だってあたしは元公爵令嬢が虐めた可哀想な令嬢で、それを償いたいって言うから公爵令嬢になってやった・・・・・・のよ?それなのにあたしに平伏もせずなんだか卑屈な目で見てくるし、あたしが養女になった途端に体調を崩したなんて当てつけのように寝込むし、そんなのまさに嫌がらせでしょ?鬱陶しいったらありゃしないわ。散々あたしに嫌がらせしといて、あたしが聖女として活躍した後に「あの時、養女にしてやったんだから」なんて言いがかりつけられたら嫌だもの。

「名残惜しいけど、また後でね」

 そっとあたしの体を離すと、いまだに意識を失ったまま倒れている桃毛女をジルが乱雑に抱き上げる。ふん、優しくされて勘違いしたんだろうけどあたしに勝とうなんて身の程知らずなのよ。

「うふふ、いい気味だわ。底辺の女のくせに、あたしに聖女だってことを見せびらかしたりするからこんな目に合うのよ」

    憂さ晴らししてやろうと、みっともない桃毛をひと房掴んで引っ張ってやったがピクリとも動かない。この薬ってめちゃくちゃ効果あるみたいね。どうせなら泣きわめいて絶望する顔が見たかったが、まぁいいか。

「それじゃぁ、いってくるよ」

    不吉な灰眼であることを除けばジルはいい男だと思う。せっかくだし念押しも込めて首に腕を巻き付け軽快なリップ音と共に頬に口付けしてやれば嬉しそうに微笑んできた。

「ええ、待ってるわ」

    とにかくこの男を捕まえておけばあたしの幸せは確定される。他の男が急に冷たい態度になったのはジルと結ばれるためなのかもしれないと思った。きっとそうゆう仕様のストーリーなのだろう。隣国の王子との婚約をどうするかは聖女になって地位と権力を手に入れてからゆっくり考えればいいわ。

    なんといっても“異国の聖女”だもの。隣国だって今まで以上の宝石を持って「どうか女王になってください」と頭を下げてくるかもしれない。

    ゾクゾクとした快感が体中に走る。やったわ!あたし、最強ね……!

    ジルが名残惜しそうに目を細めて屋敷を出た後、あたしは打ち合わせ通りこっそりと公爵家に戻ると、置き手紙を残して身を隠した。

『あたしは聖女様と出会い心を入れ換えました。
    これまでの自分の所業を省みて決めた事です。公爵家と完全に縁を切ってこの国から消えます。どうか探さないで下さい』

    うん、こんなものね。ジルに言われた通りに書いたけど本当に大丈夫かしら?だいたいあたしの所業ってなにかしたっけ?とも思うけど、あの賢い男がこう書けば大丈夫だと言うのだから信じよう。彼は絶対にあたしを裏切らないだろうから。

    それにしても『探さないで下さい』なんて書いても、みんな血眼になってあたしを探そうとするでしょうけどね。公爵家も男たちもあたしがいなくなってから後悔しても遅いのよ!

「くすくすくす……」

    さぁ、あたしの新たな人生の始まりよ。きっとその先はウルトラハッピーエンドで決まりなんだから!


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

処理中です...