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19 やっぱり胡散臭いんです

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     エドガーと無事に婚約破棄が出来たあの日からすでに数日。ここ最近では1番穏やかな日々を過ごしています。領民の方たちにも正式に私とエドガーの婚約破棄を発表すると、とても大喜びされました。

「どうだい?とりあえずは君の望み通り公爵家にダメージを与えずに婚約破棄が出来ただろう?まとめてやろうとするからややこしいことになるんだよ。こうゆうのはひとつずつ確実にやらなきゃね」

「えぇ、あなたのおかげです。ありがとうございました……」

     今まで胡散臭いなんて言って申し訳なかったわ。と反省し、これにはちゃんと感謝を伝えました。確かにジルさんが私を聖女に任命してくれなければここまでスムーズに婚約破棄できなかったかもしれませんから。もし問題があるとすれば、私と婚約破棄したせいでエドガーがもうアミィ嬢に貢ぎ物をできなくなくなった事に対してアミィ嬢がなにかしてくるかもしれないことくらいでしょうか。もしかしたらアミィ嬢がエドガーを助けようと動くかもしれないと一瞬だけ考えましたが……やはりそれは無いでしょう。アミィ嬢が今の座を蹴ってまでエドガーを助けようとするとは思えません。確かにエドガーはアミィ嬢に心酔していましたが、アミィ嬢もそうかと言えば違うでしょうから。

     それにしてもエドガーはあの日、なぜあんなに自信満々でやって来たのでしょう?私がエドガーとの婚約を破棄するはずがないと信じていたからこそあんなに強気だったのでしょう、どこからか情報を手に入れていたような感じでした。……もしかしたら誰かに入れ知恵されたのでは……とも思ってしまいます。

     いえ、もう考えるのはやめましょう。彼は遠い所へ行ったのですもの……。

 あの時はお母様に抱き締められた反動でさらに泣いてしまってお父様たちの会話はよく聞いてなかったのですが、後から確認したらエドガーは「もう2度と私の前に姿を見せられない場所」へ送られたそうです。もしかしたら国外へ追放されたのかもしれません。せめて命は見逃してあげて欲しいと願ったら「死にはしない場所だから大丈夫だ」と言われました。あんな婚約者でしたが、それでも死んで欲しいとまでは思ってませんから。

     たぶん、あんなに馬鹿にしていたレベッカ様と同じように修道院のような場所へ連れていかれたのでしょう。こんなことを言ったら性格が悪いと思われるかもしれませんが金品の強奪は犯罪ですし、あれほど私を罵倒したのですからお父様もとてもお怒りになったようでしたのでさすがに無罪とはいかないでしょう。……自業自得ですね。
     子爵家には申し訳なく思いますがアミィ嬢との浮気がさらに上乗せされればもっと大問題になっていたかもしれませんので、私のワガママだと言われても許して欲しいです。

     アミィ嬢との事も……もちろん許せませんが、今は公爵家を巻き込まずに婚約破棄出来た事に心からホッとしました。

「さて、じゃあ次はオレの方に協力してくれる?」

「それはもちろんですが……何をさせる気ですか?今度こそちゃんと事前に教えてください!」

     この腹黒ジルさんはいつもはぐらかして肝心な事を教えてくれないので困ります。今回の事だって結局教えてくれなかったせいで感情が爆発して泣いてしまったんですから。まさか、エドガーが乗り込んで来るのを確信して子爵家のおふたりを裏口から屋敷に招き入れてあのやり取りを見せていただなんて……。私にまで隠す必要ありました?

「なぁに、簡単なことさ」

     そう言って1枚の封書を私に手渡し、差出人のところを指差しました。

「こ、これは……!」

「そ。ロティーナ嬢宛の招待状。王女様からのね」

     そう。それは、この国の王女様からのお茶会の招待状だったのです。

「な、な、なんで私なんかに王女様からの招待状が届くんですか?!私と王女様は何の接点も無いし、私は伯爵令嬢で「今は・・、異国に選ばれた聖女様だ」えっ」

     またもやにんまりと笑うジルさん。もうこの顔は見飽きました。なんでそんなに楽しそうなんですか。

「ところで、ロティーナ嬢は王女様についてどのくらい知ってる?」

「えっ、そうですね。ご年齢と……その、」

「ワガママ三昧だって?ついでに時代遅れの縦ロールね」

「!……えーと、まぁ。ちょっと、ジルさん!誰かに聞かれたら不敬で捕まりますよ!それに、髪型は余程奇抜でない限り個人の自由ですわ!」

「まぁまぁ、さらに情報を追加するとかなりの珍しいもの好きなんだ。迷信とか占いとか……もちろん“聖女”にも興味津々なわけ。それで今ならその珍しい“聖女”が見放題触り放題ってなれば……どうなると思う?」

     そこまで言われて、あの時エドガーが言っていた「大使が王女に謁見」と言う言葉を思い出しました。というか、触り放題ってどんな謁見してきたんですか?私は珍獣じゃありません!

     私がジットリと疑いの目を向けるとジルさんはにんまりしたままそしらぬ顔で話を続けます。

「それで、なんとそのお茶会には現公爵令嬢も招待されてるんだ。君は“異国の聖女”として王女と公爵令嬢に堂々と会えるってわけ」

「……アミィ嬢が?」

「なんだかんだ言っても君もそこまでアミィ嬢について詳しいわけじゃないだろ?これはある意味チャンスだ。まずは近づかないとね。ついでに聖女として牽制してくるのもいいんじゃない?」

     確かに今までの私ではアミィ嬢に直接会うことも話すことも出来ませんでしたが、“異国の聖女”としてなら同等の立場で会えると言うことですね。上手く行けば、なにか聞き出せるかもしれません。

「……それで、今度は何を企んでるんですか?」

「ん~?企むなんて人聞きが悪いなぁ。王女様の願いを聞き入れて、君を無事に聖女として異国に連れ出したいだけさ。下手に反対されたらめんどくさいだろ?

     それに……オレは優しいから、誰かさんの願いもついでに・・・・叶えてやろうと思っているだけさ」

    誰かさんって誰の事でしょうか? 一体なにをする気で何を企んでいるのかさっぱりわかりません。

「結局詳しくは教えてくれないんですから……。まぁ、わかりました。どのみち王家からの招待状なら断れませんし。でも、私は王城へ行けるようなドレスなんて持ってませんよ」

「あ、それはこっちで色々としちゃうから大丈夫~。ちなみに使用人たちにはすでに通達済みなんだけど、君の楽しい侍女ちゃんや執事長さんが張り切ってたよ?なんかやっとオレの事を認めてくれたみたいでよかった~」

「いつの間にアニーやトーマスと仲良くなったんですか……」

「ん?なんかロティーナ嬢を聖女として見初めるとはその目だけは素晴らしい、神眼だ!とか、エドガーを追いやった手腕だけは認めてやるとか……。オレ、この目をそんなに褒められたの初めてだよ」

 なにやら楽しそうに思い出し笑いをしながら目を細めます。確かにジルさんの瞳は不吉な色だと言われていますから過去には色々と中傷されたのかもしれませんね。

「……あのふたりは、人の“色”など気にしませんわ」

「うん。伯爵家の人たちも、領地の人たちもみんな……ここは良いところだね」

「……ありがとうございます」

 私の大切な自慢の家族たちや領地が褒められて素直にお礼が言えました。ちゃんとわかってもらえたのが嬉しかったのです。やっぱりこの人は信頼出来る人なのかも知れないーーーー。少しだけジルさんに心の扉が開きかけたその時。


「いやぁ、これでオレも動きやすくなるなぁ。やっぱり人手は多いほうが仕込みがやりやすいんだよね。こっそりやるにも限界があるし。今なら堂々となんでも出来るなぁ。あれとこれとそれと~♪」

 ジルさんがいかにも悪巧みを企んでいるにんまり顔でサラッとそう言ったのを聞いて、開きかけた扉が勢い良く閉まります。



     あぁ、もう!やっぱり胡散臭いです!本当に何をする気なんですか?!
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