2 / 74
2 口は災いの元と言いますでしょう
しおりを挟む
「アミィはとにかく素晴らしい女性だ。もはや彼女は女神の化身としか思えない。彼女からはこの世のものとは思えない夢のような甘い香りがするんだ」
先程からうっとりとした顔をしてご機嫌な様子でアミィ嬢の魅力とやらを語りだしているそこの男の名は私の婚約者であるエドガーです。エルサーレ子爵家の次男ですわ。
まったく、もうここから離れようかと思っていたのにまだ話は続くようですね。 そして、さらに饒舌になったエドガーはとんでもない事まで暴露しだしたのです。
「今だから言うがロティーナに渡した婚約指輪はアミィの使い回しなんだ」
ニヤニヤと笑いながら「内緒だぞ」と人差し指を口元にあてるエドガー。その指をへし折ってやろうかと思いました。
「なんだそれ。どういうことだよ」
「いや、実はアミィが隣国の王子と婚約するって聞いた時に思いきってプロポーズしたんだ。でも断られてしまったから、その時の指輪が勿体無くてな」
「なるほど。好きな順序も2番目なら、指輪の使い道も2番目と言うわけか。悪い男だなー」
ゲラゲラと下品な笑いが酒場に響きます。周りの人間たちも話が聞こえたのかジロジロと見てきていますが楽しそうなエドガーは気づく様子も無いようですね。
「倹約家だと言えよ。あの指輪高かったんだぜ。ロティーナだって物は大切にしろってよく言ってるんだからそれに従ったまでさ」
「おい。それだと、お前はロティーナ嬢と交際中にアミィ嬢にプロポーズしたのか?」
「奇跡でも起きなきゃ無いとは言え、もしアミィ嬢が王子を捨ててお前の所に来たらどうする気だったんだよ?」
「どうするもなにも、結局俺はアミィにフラれてロティーナと結婚するんだからなにも問題は無いだろう?」
つまり、もしもその奇跡が起きていたら交際中の私を捨ててアミィ嬢と結婚していた。と言うことでいいのでしょうか。そしてアミィ嬢にフラれたから私にプロポーズしたのですね。
ふと、このアホ面をしたエドガーがプロポーズしてきて時のことを思い出しました。
さわやかな笑顔で「一生大切にする。この指輪は君の為に特別に作らせたんだ」と指輪を見せられたんでした。まさか私との将来を真剣に考えていてくれたなんて……と感動して流したあの時の涙を返して頂きたいです。
へぇ?本当はアミィ嬢のために作らせて、アミィ嬢が断ったから使い回したんですか。
まぁ、倹約家だったんですね?初耳です。普段は新しい物好きで、どんなに物を大切にって言っても「俺たち貴族が金を使って経済を回さないと平民が潤わないだろう」と偉そうにしていましたのに。
なるほど、よくわかりました。
ねぇ、婚約者様……やっぱりあなたはお酒を飲まない方がいいと思います。それ以上その口を開かれても不快になるだけですもの。
「お客様、飲み過ぎではないですか?」
つい、目の前にいる婚約者に声をかけてしまいました。ですが残念が服を着ているような彼は私に気付きません。
「あぁ?!なんだ、俺は貴族だぞ?!ちゃんと金も払っているんだ!どれだけ飲もうが俺の勝手だろうが!」
横柄な態度で悪態をつく姿はとてもではないが紳士には見えません。貴族だと言うのならば同じく飲んでいる平民の方たちに舌打ちされるような横柄な態度はやめるべきだと思いますけれど。
「それは失礼致しました。ですが、あまり良い酔い方をしてらっしゃるようには見えませんでしたので……」
ばしゃ!!
出来るだけ落ち着かせるような口調で言ったつもりでしたが、言い終わる前に冷たい酒を顔面にかけられてしまいました。
もうすぐ結婚するはずの婚約者の顔にも気づかない彼は、空になったグラスを音を立ててテーブルに乱暴に叩きつけ「平民の分際で生意気な事を言いやがって!」と唾を吐きます。
「いいか?!俺はもうすぐ伯爵家を継ぐ男だ!この伯爵領内で俺に逆らってまともに商売が出来ると思うなよ!」
そう言い捨て、結局金を払わずに戸惑う友達を連れて店から出ていってしまったのでした。
***
「お嬢様!大丈夫ですか?!」
散らかった店内の掃除を他の店員に任せ店の奥へと引っ込むと、酒でびしょ濡れになってしまった私に事情を知る者たちが慌ててタオルを渡してきてくれました。
「平気よ。それより無銭飲食されてしまったわね、代金は私が払うわ。迷惑かけてごめんなさい」
タオルで顔を拭い濃い茶色のウィッグを取ると、中から出てきた淡い桃色の髪がふわりと靡きます。両親は鮮やかな赤毛なのに、私の髪は生まれつき色素が薄くてこんな色のため目立つからここでは隠しているのです。
しかし顔は別に変えていないのに、この髪を隠し服装を変えただけで彼は私だと気付かなかったようですね。いくら酔っていたとはいえ結婚間近の婚約者の顔がわからないなんて呆れた男ですわ。
改めまして、私の名はロティーナ・アレクサンドルト。アレクサンドルト伯爵家のひとり娘ですわ。
そして学園を卒業した私は将来この領地を継ぐために社会勉強中なのです。
そのために身分を隠して時々ですがこうして働かせて頂いているのですわ。もちろん私のことを知っているのは一部の人間だけですが……ここでは男装して「ロイ」と言う名でバーテンダーをしております。けっこう人気ありますのよ?
「ふぅ……」
いつもならもう少し仕事をしていくのですが、これは早く帰らねばなりませんわね。まさか私がバーテンダーをやっている日にエドガーが店にやって来るなんて驚きました。しかも私の目の前のカウンターに座って私に酒を注文したのに、微塵も気づかないんですもの。さらにはあんな暴露話まで堂々としていくなんて……多少どころかとんでもなく頭が悪かったようです。
私は仕事中もちゃんと指につけていた婚約指輪を見てそっと外しました。もうこれをつけている意味はなくなりましたもの。
かなり衝撃的なことを聞いてしまったはずなのに意外と冷静な自分にも驚きつつ、その指輪をそっと外したのでした。
先程からうっとりとした顔をしてご機嫌な様子でアミィ嬢の魅力とやらを語りだしているそこの男の名は私の婚約者であるエドガーです。エルサーレ子爵家の次男ですわ。
まったく、もうここから離れようかと思っていたのにまだ話は続くようですね。 そして、さらに饒舌になったエドガーはとんでもない事まで暴露しだしたのです。
「今だから言うがロティーナに渡した婚約指輪はアミィの使い回しなんだ」
ニヤニヤと笑いながら「内緒だぞ」と人差し指を口元にあてるエドガー。その指をへし折ってやろうかと思いました。
「なんだそれ。どういうことだよ」
「いや、実はアミィが隣国の王子と婚約するって聞いた時に思いきってプロポーズしたんだ。でも断られてしまったから、その時の指輪が勿体無くてな」
「なるほど。好きな順序も2番目なら、指輪の使い道も2番目と言うわけか。悪い男だなー」
ゲラゲラと下品な笑いが酒場に響きます。周りの人間たちも話が聞こえたのかジロジロと見てきていますが楽しそうなエドガーは気づく様子も無いようですね。
「倹約家だと言えよ。あの指輪高かったんだぜ。ロティーナだって物は大切にしろってよく言ってるんだからそれに従ったまでさ」
「おい。それだと、お前はロティーナ嬢と交際中にアミィ嬢にプロポーズしたのか?」
「奇跡でも起きなきゃ無いとは言え、もしアミィ嬢が王子を捨ててお前の所に来たらどうする気だったんだよ?」
「どうするもなにも、結局俺はアミィにフラれてロティーナと結婚するんだからなにも問題は無いだろう?」
つまり、もしもその奇跡が起きていたら交際中の私を捨ててアミィ嬢と結婚していた。と言うことでいいのでしょうか。そしてアミィ嬢にフラれたから私にプロポーズしたのですね。
ふと、このアホ面をしたエドガーがプロポーズしてきて時のことを思い出しました。
さわやかな笑顔で「一生大切にする。この指輪は君の為に特別に作らせたんだ」と指輪を見せられたんでした。まさか私との将来を真剣に考えていてくれたなんて……と感動して流したあの時の涙を返して頂きたいです。
へぇ?本当はアミィ嬢のために作らせて、アミィ嬢が断ったから使い回したんですか。
まぁ、倹約家だったんですね?初耳です。普段は新しい物好きで、どんなに物を大切にって言っても「俺たち貴族が金を使って経済を回さないと平民が潤わないだろう」と偉そうにしていましたのに。
なるほど、よくわかりました。
ねぇ、婚約者様……やっぱりあなたはお酒を飲まない方がいいと思います。それ以上その口を開かれても不快になるだけですもの。
「お客様、飲み過ぎではないですか?」
つい、目の前にいる婚約者に声をかけてしまいました。ですが残念が服を着ているような彼は私に気付きません。
「あぁ?!なんだ、俺は貴族だぞ?!ちゃんと金も払っているんだ!どれだけ飲もうが俺の勝手だろうが!」
横柄な態度で悪態をつく姿はとてもではないが紳士には見えません。貴族だと言うのならば同じく飲んでいる平民の方たちに舌打ちされるような横柄な態度はやめるべきだと思いますけれど。
「それは失礼致しました。ですが、あまり良い酔い方をしてらっしゃるようには見えませんでしたので……」
ばしゃ!!
出来るだけ落ち着かせるような口調で言ったつもりでしたが、言い終わる前に冷たい酒を顔面にかけられてしまいました。
もうすぐ結婚するはずの婚約者の顔にも気づかない彼は、空になったグラスを音を立ててテーブルに乱暴に叩きつけ「平民の分際で生意気な事を言いやがって!」と唾を吐きます。
「いいか?!俺はもうすぐ伯爵家を継ぐ男だ!この伯爵領内で俺に逆らってまともに商売が出来ると思うなよ!」
そう言い捨て、結局金を払わずに戸惑う友達を連れて店から出ていってしまったのでした。
***
「お嬢様!大丈夫ですか?!」
散らかった店内の掃除を他の店員に任せ店の奥へと引っ込むと、酒でびしょ濡れになってしまった私に事情を知る者たちが慌ててタオルを渡してきてくれました。
「平気よ。それより無銭飲食されてしまったわね、代金は私が払うわ。迷惑かけてごめんなさい」
タオルで顔を拭い濃い茶色のウィッグを取ると、中から出てきた淡い桃色の髪がふわりと靡きます。両親は鮮やかな赤毛なのに、私の髪は生まれつき色素が薄くてこんな色のため目立つからここでは隠しているのです。
しかし顔は別に変えていないのに、この髪を隠し服装を変えただけで彼は私だと気付かなかったようですね。いくら酔っていたとはいえ結婚間近の婚約者の顔がわからないなんて呆れた男ですわ。
改めまして、私の名はロティーナ・アレクサンドルト。アレクサンドルト伯爵家のひとり娘ですわ。
そして学園を卒業した私は将来この領地を継ぐために社会勉強中なのです。
そのために身分を隠して時々ですがこうして働かせて頂いているのですわ。もちろん私のことを知っているのは一部の人間だけですが……ここでは男装して「ロイ」と言う名でバーテンダーをしております。けっこう人気ありますのよ?
「ふぅ……」
いつもならもう少し仕事をしていくのですが、これは早く帰らねばなりませんわね。まさか私がバーテンダーをやっている日にエドガーが店にやって来るなんて驚きました。しかも私の目の前のカウンターに座って私に酒を注文したのに、微塵も気づかないんですもの。さらにはあんな暴露話まで堂々としていくなんて……多少どころかとんでもなく頭が悪かったようです。
私は仕事中もちゃんと指につけていた婚約指輪を見てそっと外しました。もうこれをつけている意味はなくなりましたもの。
かなり衝撃的なことを聞いてしまったはずなのに意外と冷静な自分にも驚きつつ、その指輪をそっと外したのでした。
140
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました
あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。
自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。
その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる