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ティナの場合
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ティナが目を覚まさないまま3日が過ぎた。
「まるで、眠り姫だな……」
シリウスの指先が眠ったままのティナの頬をそっと撫でる。あの王子がなにかしたのか記憶喪失の後遺症なのかはわからないままだが今もティナは眠り続けていた。
こんなことになるなら、あの王子をどんな目に合わせてでもティナに何をしたのか吐かせればよかった。精神が壊れていようと関係無い。
そんな考えが浮かんでは消える。
なぜ消えるかと言えば、たぶんティナならそんなこと望まないからだ。
「あらあら、お困りのようね」
「……!」
突然後ろから声をかけられ思わず身構えると、そこには見知った顔が並ぶ。
「死神令嬢か……驚かすなよ」
「ふふ、別に気配を消していたわけでもないのにこのわたくしに気付かないなんて、よっぽど深刻な事でもあったのかしら?」
「あの漆黒の魔法使いがやすやすと背後をとられるなんて、それはそれは深刻なのでしょう」
いつものことだが、この死神令嬢と執事はわかっているくせにわざとこうゆう言い方をする。
「なんのようだ」
「あら、助けてあげようと思ってわざわざ来たのにずいぶんね? あなたともあろう者が気付いていないの?」
「……なんだって?」
死神令嬢は、ティナはこの世界の影響を強く受けているという。この世界の悪役令嬢は名を変え姿を変え、同じ人生を繰り返す存在。
でも、ティナの存在がなにかを変えた。
「まず、漆黒の魔法使いの目を止まったわ」
「……あれは別に、気まぐれで」
「それまで気まぐれさえ起こさなかったあなたに、気まぐれを起こさせた存在だと言うことよ。 その子の存在は、この世界に変革を起こした。
断罪されるべき悪役令嬢たちが、ティナの存在によって運命を変えたことになるの。 すべてが気まぐれと偶然だとでも思ってるの? 違うわ……ティナの存在が必然だったのよ。
本当はわかってるはずだわ。 この世界に魔女は悪の象徴として必要な存在なの。 それなのにあなたは魔女を完全に消した。 物語の芯の部分を変えるなんて、あなたでも許されない……」
死神令嬢がティナを指差し、言った。
「この子は、次代の魔女よ。 この世界が前の魔女を切り捨て、新たな魔女としてこの子を選んだの。 だからあなたの目にとまり、気まぐれを起こさせ、悪役令嬢の運命から解き放った。
ティナは、これからこの世界の魔女として生きていく……新たな物語を作っていく運命なの」
「ティナが次代の魔女……? 魔女とは、恐れられ疎まれる存在のはずだ。
ティナが、そんな存在になるばずないだろう!」
ティナは優しい心の持ち主だ。 これまでだって悪役令嬢たちを救っていたのに、そんなティナが悪の象徴になるなんてあるはずがない。
「ほら、良く見て? 白い髪が銀色になってきている……さしずめ白銀の魔女ね。 ティナが眠ったままなのは、前の魔女が滅んだからその力を受け継ぎ体が魔女として変化しているせいよ。
まだ体が力に馴染めなくて負担がかかっているんだわ。 ……目が覚めたら、ティナは魔女になっているはずよ」
死神令嬢の言葉通り、ティナの髪が根本から銀色に変化していった。
「そんな……なぜティナが! だいたい、なんで僕がそれを知らない?!
僕は漆黒の魔法使いだ!この世界と悪役令嬢を見守ってきた僕が、魔女の理を知らないなんておかしいだろう?!」
「それも、この世界が仕組んだことよ。 世界は、漆黒の魔法使いも変化させようとしている。
もしかしたらこの世界は、新たな物語を作ろうとしているのかもしれないわ」
「死神令嬢は、なんでそんなことがわかるんだ!」
「……わたくしは、元々この世界の存在ではないのよ。 別の世界から来たって言ってもあなたにはわからないわよね。
とにかく、わたくしはこの世界の意思に干渉されない存在なのよ。 だからわかるの、あなたの変化もティナの変化も。 でも、だからこそ……あなたの心を救ってあげる」
「え……?!」
「言ったでしょ、助けに来たって。 こんなことしたら、たぶんわたくしはこの世界から弾かれて追い出されるだろうけど……ティナと一緒にいるあなたは面白いから特別よ。 わたくしが世界に干渉してあげる」
死神令嬢がシリウスの手を握ると、強い光に包まれた。
***
「よろしかったんですか?お嬢様」
「しょうがないわ。 この世界もけっこう楽しかったのだけど、情がうつったとかいうやつね。 それに、わたくしはアランが一緒なら別にどこでもいいのよ?」
「それは、光栄です」
「死神であるわたくしと、人間であるアランが永遠に同じ時間を過ごすためにはループする世界に居座るしかないけれど……やっぱりあの世界は追い出されちゃったし他の世界を探しましょう」
「“世界”は無限にありますからね」
不老不死である死神令嬢カリーナは、人間の執事と永遠に一緒にいるために色々な世界を渡っていた。
あの悪役令嬢の世界は今までで1番長居した世界であったが、“世界”に許可無く干渉して運命を変えたことにより追い出されてしまった。
“世界”は死神に害を与えることはなく、存在することを許すが勝手に干渉しないというのがルールなのだ。
ルールを破れば追い出される。 どうやら今回の干渉は“世界”を怒らせてしまったらしいが、死神が干渉した事柄を“世界”が無理に元に戻すなんてことはしない。
それだけ死神は特別な存在だとも言えるのだが。
「“世界”が作ろうとした世界とは、違う世界を作ってみなさい。 漆黒の魔法使い」
死神令嬢とその執事が姿を消し、“世界”が変わっていった。
***
「……シリウス様」
白銀の魔女となった、ティナ。
本来の魔女ならば、悪の象徴として漆黒の魔法使いとは敵対する存在になるはずだった。
でも、その漆黒の魔法使いの手をとり優しく微笑んでいる。
「ティナ……」
世界は、変わった。
悪役令嬢という存在がいなくなり、悪役令嬢と言われていた少女たちはその枷から解放されたのだ。
もうヒロインに振り回されることも、王子に断罪されることもない。普通の幸せを手に入れた。
そして、そんな世界を見守る魔法使いと魔女がいる。
もう負のループなど起こらない、優しい世界だった。
「まるで、眠り姫だな……」
シリウスの指先が眠ったままのティナの頬をそっと撫でる。あの王子がなにかしたのか記憶喪失の後遺症なのかはわからないままだが今もティナは眠り続けていた。
こんなことになるなら、あの王子をどんな目に合わせてでもティナに何をしたのか吐かせればよかった。精神が壊れていようと関係無い。
そんな考えが浮かんでは消える。
なぜ消えるかと言えば、たぶんティナならそんなこと望まないからだ。
「あらあら、お困りのようね」
「……!」
突然後ろから声をかけられ思わず身構えると、そこには見知った顔が並ぶ。
「死神令嬢か……驚かすなよ」
「ふふ、別に気配を消していたわけでもないのにこのわたくしに気付かないなんて、よっぽど深刻な事でもあったのかしら?」
「あの漆黒の魔法使いがやすやすと背後をとられるなんて、それはそれは深刻なのでしょう」
いつものことだが、この死神令嬢と執事はわかっているくせにわざとこうゆう言い方をする。
「なんのようだ」
「あら、助けてあげようと思ってわざわざ来たのにずいぶんね? あなたともあろう者が気付いていないの?」
「……なんだって?」
死神令嬢は、ティナはこの世界の影響を強く受けているという。この世界の悪役令嬢は名を変え姿を変え、同じ人生を繰り返す存在。
でも、ティナの存在がなにかを変えた。
「まず、漆黒の魔法使いの目を止まったわ」
「……あれは別に、気まぐれで」
「それまで気まぐれさえ起こさなかったあなたに、気まぐれを起こさせた存在だと言うことよ。 その子の存在は、この世界に変革を起こした。
断罪されるべき悪役令嬢たちが、ティナの存在によって運命を変えたことになるの。 すべてが気まぐれと偶然だとでも思ってるの? 違うわ……ティナの存在が必然だったのよ。
本当はわかってるはずだわ。 この世界に魔女は悪の象徴として必要な存在なの。 それなのにあなたは魔女を完全に消した。 物語の芯の部分を変えるなんて、あなたでも許されない……」
死神令嬢がティナを指差し、言った。
「この子は、次代の魔女よ。 この世界が前の魔女を切り捨て、新たな魔女としてこの子を選んだの。 だからあなたの目にとまり、気まぐれを起こさせ、悪役令嬢の運命から解き放った。
ティナは、これからこの世界の魔女として生きていく……新たな物語を作っていく運命なの」
「ティナが次代の魔女……? 魔女とは、恐れられ疎まれる存在のはずだ。
ティナが、そんな存在になるばずないだろう!」
ティナは優しい心の持ち主だ。 これまでだって悪役令嬢たちを救っていたのに、そんなティナが悪の象徴になるなんてあるはずがない。
「ほら、良く見て? 白い髪が銀色になってきている……さしずめ白銀の魔女ね。 ティナが眠ったままなのは、前の魔女が滅んだからその力を受け継ぎ体が魔女として変化しているせいよ。
まだ体が力に馴染めなくて負担がかかっているんだわ。 ……目が覚めたら、ティナは魔女になっているはずよ」
死神令嬢の言葉通り、ティナの髪が根本から銀色に変化していった。
「そんな……なぜティナが! だいたい、なんで僕がそれを知らない?!
僕は漆黒の魔法使いだ!この世界と悪役令嬢を見守ってきた僕が、魔女の理を知らないなんておかしいだろう?!」
「それも、この世界が仕組んだことよ。 世界は、漆黒の魔法使いも変化させようとしている。
もしかしたらこの世界は、新たな物語を作ろうとしているのかもしれないわ」
「死神令嬢は、なんでそんなことがわかるんだ!」
「……わたくしは、元々この世界の存在ではないのよ。 別の世界から来たって言ってもあなたにはわからないわよね。
とにかく、わたくしはこの世界の意思に干渉されない存在なのよ。 だからわかるの、あなたの変化もティナの変化も。 でも、だからこそ……あなたの心を救ってあげる」
「え……?!」
「言ったでしょ、助けに来たって。 こんなことしたら、たぶんわたくしはこの世界から弾かれて追い出されるだろうけど……ティナと一緒にいるあなたは面白いから特別よ。 わたくしが世界に干渉してあげる」
死神令嬢がシリウスの手を握ると、強い光に包まれた。
***
「よろしかったんですか?お嬢様」
「しょうがないわ。 この世界もけっこう楽しかったのだけど、情がうつったとかいうやつね。 それに、わたくしはアランが一緒なら別にどこでもいいのよ?」
「それは、光栄です」
「死神であるわたくしと、人間であるアランが永遠に同じ時間を過ごすためにはループする世界に居座るしかないけれど……やっぱりあの世界は追い出されちゃったし他の世界を探しましょう」
「“世界”は無限にありますからね」
不老不死である死神令嬢カリーナは、人間の執事と永遠に一緒にいるために色々な世界を渡っていた。
あの悪役令嬢の世界は今までで1番長居した世界であったが、“世界”に許可無く干渉して運命を変えたことにより追い出されてしまった。
“世界”は死神に害を与えることはなく、存在することを許すが勝手に干渉しないというのがルールなのだ。
ルールを破れば追い出される。 どうやら今回の干渉は“世界”を怒らせてしまったらしいが、死神が干渉した事柄を“世界”が無理に元に戻すなんてことはしない。
それだけ死神は特別な存在だとも言えるのだが。
「“世界”が作ろうとした世界とは、違う世界を作ってみなさい。 漆黒の魔法使い」
死神令嬢とその執事が姿を消し、“世界”が変わっていった。
***
「……シリウス様」
白銀の魔女となった、ティナ。
本来の魔女ならば、悪の象徴として漆黒の魔法使いとは敵対する存在になるはずだった。
でも、その漆黒の魔法使いの手をとり優しく微笑んでいる。
「ティナ……」
世界は、変わった。
悪役令嬢という存在がいなくなり、悪役令嬢と言われていた少女たちはその枷から解放されたのだ。
もうヒロインに振り回されることも、王子に断罪されることもない。普通の幸せを手に入れた。
そして、そんな世界を見守る魔法使いと魔女がいる。
もう負のループなど起こらない、優しい世界だった。
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