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第4章 呪われた王子の章
〈50〉その微笑みは毒を含む(ルーナ視点)
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異国に聖女を迎えたはずの翌日。いるはずの聖女の姿は部屋になく、辺りは騒然とした。
聖女の為の部屋には争った形跡がありボロボロになっていて、誰かが聖女を襲ったのは明白であった。
そして王太子が聖女を襲ったのだと知れ渡り、異国の国民は怒りをあらわにすることになるのだが……。
「どうなっているんだ!聖女をどこにやった?!」
「あ、あの女は……僕の誘いを断ったとんでもない女なんです!せっかく僕が妻にしてやろうと……!」
異国の国王が額に青筋を立てて自身の息子であるアヴァロン王太子を怒鳴り付けていた。
やっと手にいれた聖女が行方不明となれば仕方ないかもしれないが、アヴァロン王太子の言い訳も酷いものである。
「そして逃げられたのか!お前が急遽聖女との婚約式をするなどと言ったせいで人手が集められ警備が手薄になったのだぞ!いつの間にかジーンルディにまで逃げられた!この責任をどうとるつもりだ?!
さらに……お前はルーナのところへ行ったな?」
国王の地を這うような低い声に王太子の体がビクリと揺れる。国王が1番怒りを感じているのは聖女やジーンルディを逃がしたことじゃない。
「見たのか、ルーナの体を。あれほど近寄るな言ったはずだぞ」
そう、わたしの体を見たことだ。
「そ、それは……。違うんです!誤解で……」
父王のその気迫に本気で怒っているのがわかったのかアヴァロン王太子の顔色がだいぶ悪い。いくら執着しているとは言え、まさかここまでとはきっと思っていなかったのだ。たかが愛妾だからと深くは考えていなかったのだろう。
「えぇ、王太子はわたしの体を見ましたわ。陛下にしか見せたことのない生まれたままのわたしの体を隅々まで見たのですわ」
「ル、ルーナ……!」
部屋の隅で様子を窺っていたわたしはそっとふたりに近づいた。国王がわたしの姿を見て「おぉ、ルーナ!ルーナ!」と手を伸ばす。
わたしに異常なまでの執着を見せる憎いだけの男だが、最後くらいはわたしの息子の為に活用しようと思ったのだ。
昔、国王が「まるで月の女神の化身のようだ」と言ったあの頃を再現するかのように、わたしはふわりと微笑んで見せた。
そんなわたしの姿を見て王太子と国王は目を見開く。いつもは愛想笑いすらしないわたしが微笑んだだけで国王は頬を染めたが、次の言葉にその表情を堅くする。
「王太子は就寝中のわたくしの体に覆い被さり、わたしを慰みものにしようとなさりました。わたしが只の愛妾だから、父の物は自分の物だとおっしゃりました。以前からわたしの体に興味があり欲しくて気が狂いそうだったとも。
女に飢えてらっしゃったみたいですわね。そして、わたしの一糸纏わぬ姿をご覧に成られたのです。わたしとても怖かったですわ」
妖艶な笑みと共に国王にしなだれかかって見せる。ここへ連れてこられてから初めて国王に甘える態度を見せてやった。
その姿に挑発されていると感じた王太子が思惑のままに口を開いた。
「あんな爛れた化け物のような体の女など誰が……!」
だがそれは間違いである。わたしの体の秘密を知るのは国王のみ。毒を盛った王妃ですらわたしの体にどんな変化が起きたかは知らないのだから。只、毒が上手く効かなくて死ななかった。としか認識していなかったのだ。
それなのに、王太子はわたしの体の秘密を知っていた。それは、わたしの言葉が真実であると言う確信たる証拠でもあった。
「……アヴァロン、きさまぁ……!」
「ひぃぃぃ!!」
国王がここまでわたしに執着するのは、王妃の毒の効果だと知ったらここの王族はどんな顔をするかしら?
国王は元々わたしにご執心だったがここまでじゃなかった。だがあの毒の香りに1番あてられたのは国王なのだ。本格的な症状が出る前に他の毒で相殺したけれどあれから国王は異様なまでにわたしに執着している。
わたしの体に触れていいのは自分だけだと。月の女神のような微笑みを見せてくれるならなんでもすると。そう懇願するほどに。
毒の症状は酷くはならないが良くもならない。その独占欲は我が子でもあるジーンルディの存在に嫉妬するほどだ。
だから、もうひとりの息子だって例外じゃない。
ジーンルディを守る手段が見つかった今、もう薬が手に入らなくてわたしの体が朽ち果てようとかまわない。生き続ける目標は達成されたのだから。
すべてはこの日のために。
だからわたしは国王の耳元で悪魔の囁きを口にした。
「ねぇ、陛下。わたし、王太子の存在が怖いわ……わたしを守って下さい。ーーーーアヴァロン王太子を殺して?」と。
聖女の為の部屋には争った形跡がありボロボロになっていて、誰かが聖女を襲ったのは明白であった。
そして王太子が聖女を襲ったのだと知れ渡り、異国の国民は怒りをあらわにすることになるのだが……。
「どうなっているんだ!聖女をどこにやった?!」
「あ、あの女は……僕の誘いを断ったとんでもない女なんです!せっかく僕が妻にしてやろうと……!」
異国の国王が額に青筋を立てて自身の息子であるアヴァロン王太子を怒鳴り付けていた。
やっと手にいれた聖女が行方不明となれば仕方ないかもしれないが、アヴァロン王太子の言い訳も酷いものである。
「そして逃げられたのか!お前が急遽聖女との婚約式をするなどと言ったせいで人手が集められ警備が手薄になったのだぞ!いつの間にかジーンルディにまで逃げられた!この責任をどうとるつもりだ?!
さらに……お前はルーナのところへ行ったな?」
国王の地を這うような低い声に王太子の体がビクリと揺れる。国王が1番怒りを感じているのは聖女やジーンルディを逃がしたことじゃない。
「見たのか、ルーナの体を。あれほど近寄るな言ったはずだぞ」
そう、わたしの体を見たことだ。
「そ、それは……。違うんです!誤解で……」
父王のその気迫に本気で怒っているのがわかったのかアヴァロン王太子の顔色がだいぶ悪い。いくら執着しているとは言え、まさかここまでとはきっと思っていなかったのだ。たかが愛妾だからと深くは考えていなかったのだろう。
「えぇ、王太子はわたしの体を見ましたわ。陛下にしか見せたことのない生まれたままのわたしの体を隅々まで見たのですわ」
「ル、ルーナ……!」
部屋の隅で様子を窺っていたわたしはそっとふたりに近づいた。国王がわたしの姿を見て「おぉ、ルーナ!ルーナ!」と手を伸ばす。
わたしに異常なまでの執着を見せる憎いだけの男だが、最後くらいはわたしの息子の為に活用しようと思ったのだ。
昔、国王が「まるで月の女神の化身のようだ」と言ったあの頃を再現するかのように、わたしはふわりと微笑んで見せた。
そんなわたしの姿を見て王太子と国王は目を見開く。いつもは愛想笑いすらしないわたしが微笑んだだけで国王は頬を染めたが、次の言葉にその表情を堅くする。
「王太子は就寝中のわたくしの体に覆い被さり、わたしを慰みものにしようとなさりました。わたしが只の愛妾だから、父の物は自分の物だとおっしゃりました。以前からわたしの体に興味があり欲しくて気が狂いそうだったとも。
女に飢えてらっしゃったみたいですわね。そして、わたしの一糸纏わぬ姿をご覧に成られたのです。わたしとても怖かったですわ」
妖艶な笑みと共に国王にしなだれかかって見せる。ここへ連れてこられてから初めて国王に甘える態度を見せてやった。
その姿に挑発されていると感じた王太子が思惑のままに口を開いた。
「あんな爛れた化け物のような体の女など誰が……!」
だがそれは間違いである。わたしの体の秘密を知るのは国王のみ。毒を盛った王妃ですらわたしの体にどんな変化が起きたかは知らないのだから。只、毒が上手く効かなくて死ななかった。としか認識していなかったのだ。
それなのに、王太子はわたしの体の秘密を知っていた。それは、わたしの言葉が真実であると言う確信たる証拠でもあった。
「……アヴァロン、きさまぁ……!」
「ひぃぃぃ!!」
国王がここまでわたしに執着するのは、王妃の毒の効果だと知ったらここの王族はどんな顔をするかしら?
国王は元々わたしにご執心だったがここまでじゃなかった。だがあの毒の香りに1番あてられたのは国王なのだ。本格的な症状が出る前に他の毒で相殺したけれどあれから国王は異様なまでにわたしに執着している。
わたしの体に触れていいのは自分だけだと。月の女神のような微笑みを見せてくれるならなんでもすると。そう懇願するほどに。
毒の症状は酷くはならないが良くもならない。その独占欲は我が子でもあるジーンルディの存在に嫉妬するほどだ。
だから、もうひとりの息子だって例外じゃない。
ジーンルディを守る手段が見つかった今、もう薬が手に入らなくてわたしの体が朽ち果てようとかまわない。生き続ける目標は達成されたのだから。
すべてはこの日のために。
だからわたしは国王の耳元で悪魔の囁きを口にした。
「ねぇ、陛下。わたし、王太子の存在が怖いわ……わたしを守って下さい。ーーーーアヴァロン王太子を殺して?」と。
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