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あたしがやらなきゃ!(ヒロイン視点)

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 アレから1週間。

 いつもと変わらない爽やかな朝。あたしはなぜか今朝も無性にカレーライスが食べたくなり、もう完成していた朝食を作り直してもらった。そのせいで時間がかかり今日も遅刻だ。

 ただ、やっぱりカレーを食べながら学園に向かっているとあの先生に出会ってしまう。

 さすがに毎回カレーを食べながら走っていると出会うので顔も名前も覚えてしまった。

 彼の名前はアルフレッド・エンデアイ。


 紺色の髪にダークブルーの瞳をしたミステリアス感いっぱいな格好いい大人の男性で、あたしのクラスの担任だ。

「あ、せんせ「また出たァァァァァ!!!」あ、行っちゃった……」

 なぜか出会う度に逃げられてしまうのだが、やたらと先生が気になって仕方ない。やだ……あたしったら王子様婚約者という人がいながら、この浮気者☆

 でも、目が合う度に恥ずかしがって逃げ出してしまう様子が、年上の大人の男性なのにウブでかわいいと思ってしまうのだ。

「もしかして……先生はあたしのカレーの王子様なの?」

 王子とルージュココさんが学園を休みだしてもう1週間も過ぎてしまった。全く学園に来る気配がないのだ。だが、生徒会長は相変わらず優しいけれどルージュココさんの退学手続きがうまくいかなくて困っている。きっと権力を使って学園の先生たちに圧力をかけているんだわ。もう王子様の婚約者ではないのに、どこまで傲慢な人なのだろうか。これだけ休んでるなら、いっそ辞めても変わらなくない?と思うのだけど。授業料の無駄だよね~。

「……素直に謝ってくれれば、あたしだってここまでしなかったのに」

 あたしはただ、学園の平和を守りたかっただけだ。みんなが平等なはずの学園内で権力を振りかざしてクラスメイトを従わせるなんて間違っている。確かに学園追放はやり過ぎかもしれないけど、ルージュココさんは公爵令嬢なんだから学園に通わなくてもどうとでもなるはずだ。なによりも、平民のお針子さんたちに無理な労働をさせたり身分の低い令嬢たちを無理矢理取り巻きにしている態度が許せなかったのだ。

 それに……政略結婚ってなんか嫌だ。結婚って、愛し合った人同士がするものだもの。さらに言えば愛の無い婚約者なのに、王子様の権力を勝手に振りかざすのも許せなかった。だってそれって、王子様を利用してるってことでしょう?

「あたしなら、そんなことしない」

 あたしの心は王子様のものだもの。最近ちょっぴり先生に運命を感じたのは、王子様が忙しいからってあたしを放ったらかしにしているせいよ!こんなの許容範囲内よね?

 うーん、それにしても……最近のあたしってカレー臭すごくない?ちゃんも髪も洗ってるのにほのかに漂うカレー臭…。こんなに美味しそうな匂いをしてるなんて年頃の男の子に狙われちゃわないかしら?まぁ、あたしは王子様一筋だけどね!















***









「あら、なんだか臭いますわ。急に臭くなりましたわね」

「本当に!刺激臭かしら……食欲がなくなりそうですわね」

「わたくし、カレーが嫌いになりました。ここは臭いですから中庭に行きましょう」

 その日の食堂で、ルージュココさんの取り巻きだった令嬢たちがあたしを見ながら鼻をつまんでいた。あの人たちったら、ルージュココさんが学園にいなくてもまだ洗脳されてるのね。と思ったらかわいそうになり、つい憐れんだ視線を向けてしまう。それとも本当にカレーが嫌いなのかな?美味しいのに。

「……あの方をあれほど追い込んだくせに、よくも学園に来れますわね!」

 視線に気づいたのか、3人組のひとりが額に青筋を立ててまさにカレーを食べようとしていたあたしの前にやってきてテーブルを叩いてきた。

「え?なにがですか?」

 言っている意味がわからなくて首を傾げると、その人はイライラした様子で再びテーブルを拳で叩いた。

「きゃっ!カレーがこぼれちゃうから、やめてくださいよぉ。クラスメイトなんだから、もっと仲良くしませんか?」 

 出来れば喧嘩なんかしたくない。仲良くしたいと思っていたのでわざと軽い口調でそう言うと、ものすごい顔で睨まれてしまった。

「わたくしは、あなたなんか大嫌いですわ!」

「え」

「あんなに優しくて慈悲深いヴォルティス公爵令嬢を……ルージュココ様をあんな酷い目にあわせておいて、よくもヘラヘラとしてられますわね?!あなたは自分のしたことを本当にわかっていますの!?」

「な、なにを……」

 意味がわからずその人に手を伸ばすが、その指先をパシリとはらいのけられた。

「ルージュココ様は、これまであなたがした数々の無礼を許してこられましたわ!いくら学園が自由だからって許される事には限りがありますのよ?!それなのに、あなたは図に乗ってルージュココ様を追い詰め、ましてや婚約破棄なんて……!王命である殿下と公爵令嬢の婚約をこんなことにして、下手したら男爵家ごと取り潰し……いえ、反逆罪で使用人まで巻き込んで死罪になるのですよ?!それを、ルージュココ様が裏で手を回し何事もないように取り繕って下さっているというのに、あなたは恩を仇で返すような事ばかり……!まさか本気で自分のしたことが全て正しいとでも思ってらっしゃるの?!

 わたくしは、ルージュココ様の意思を汲み取りイジメなんて卑怯な事などいたしません。それでも、個人の感情としてあなたなんか大嫌いですわ!わたくしはルージュココ様と楽しい学園生活を送りたかったのに、あなたがそれを奪ったのです。しかもルージュココ様を退学に追いやろうとしている人となんて仲良くするつもりはありませんわ!!わたくしたちの敬愛する方を返して!」

 そう言って、残りのふたりも「よくぞ言って下さいました」と頷き、その令嬢の背中をさすりながら食堂から出ていってしまった。

 ……なんで、あたしは責められているのだろう?と再び首を傾げる。だって、意味がわからない。


 え?あたしがやっている事って、そんなにヤバいことだったの?だから、ずっとお義父様や使用人がソワソワしていたの?

「そんな……」

 だって、生徒会長は「大丈夫だよ」って言ったわ。あたしがすることは正しくて、全部みんなのためになるって……。



 王子様が学園にこなくなってから、上履きがゴミ箱に捨てられていたり教科書が破かれたり嫌味を言われたり嫌がらせをたくさんされた。でもそれは、ルージュココさんに洗脳されたあの3人組の令嬢が率先してやっているんだと思っていたのだ。だから、操られてかわいそうな人たちだなって。

 え、あの人たちじゃなかったの?じゃあ、誰があたしを虐めてるの?あの人たちじゃないなら……あたし、本当に嫌われてるの?



「なんで……?」


 あたしは正しいことをしたのに。

 あたしはかわいいから、なんでも許されるはずなのに。

 あの3人組じゃないなら、今のあたしはどこのだれかともわからないが人に恨まれて嫌がらせされてるってことーーーー?






        





 これは、緊急事態だわ。と、あたしはカレースプーンを握りしめた。



 きっとルージュココさんは、学園以外でも悪の組織を結成しているに違いない!公爵令嬢と王子の元婚約者の地位と権力を使って、とんでもない悪事に手を染めようとしているのだ!

「……あたしが止めなきゃ!」

 いくら憎き悪役令嬢だとしても、あたしに嫌がらせをするために大きな組織を作っている人を放ってはおけない!それはいずれ世界規模になってしまう可能性だってあるのだ。

「あたしが、あなたを救ってみせるわ!ルージュココさんーーーー!」

 食堂で、カレースプーンを天高く掲げながらそんなことを叫ぶ彼女に注がれる視線は「こいつ、またなにかするつもりでは?」という、不審な視線だったみたいだが、本人がそれに気付くことはなかった。
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