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混乱するしかないだろう。

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    私、死刑確定。

    まさかの王子を平手打ちして吹っ飛ばしてしまったのだ。もはや婚約者だろうが公爵令嬢だろうが関係ないだろう。

    首ちょんぱか、毒杯か……。王子の怒り具合によっては滅多刺しかもしれない……。

    チラリと辺りを見渡せばどうやら保健室にいる模様。なんとか記憶を辿るが気が遠くなったのは覚えている。……たぶん倒れちゃったのね。他のご令嬢たちと一緒にいたはずだけど私の他には王子しかいない。

    ……まさか王子がここまで運んでくれた?

    いや、でもそうか。こんな私でも婚約者だし、婚約者が倒れたとなれば嫌々であろうとも王子が呼ばれるだろう。やっぱり婚約破棄さえしていたらこんなことにはなっていなかったのに……!

    とにかく今は出来ることをしよう。と私はベッドから起き上がり未だ壁に張り付いている王子をひっぺがした。
    罰を受けるのは確定だが、せめて公爵家にはお咎めなしにしてもらえるように謝らねばなるまい。

    そして、出来れば……滅多刺しはやめて欲しい。

    ひっぺがした王子を軽々持ち上げる。案外がっちりしているのは驚いたが、体幹はしっかりしている方なので苦もなくベッドまで運ぶことが出来た。

    さっきまで私が寝ていたベッドは真ん中がほんのりへこんでいて、そのへこみにすっぽり王子の体が収まったのを見てなんとなく自分の体のフォルムの大きさにマットレスだけでなく私の精神もへこんだが。

    そして王子の手を握った。

「ハインリヒト殿下……(公爵家には手を出さないと約束するまでは)死なないで下さい……!」

    ついでに私と婚約破棄してくれて、出来れば死刑じゃなくて国外追放にしてくれたら一生ハインリヒト殿下のいる方角には足を向けて寝ません!

「んっ……」

    王子がピクッと反応を見せる。よかった!生きてた!もしもあの衝撃で死んじゃってたら確実に公爵家ごと潰されちゃうとこだったぁ!

「ハインリヒト殿下「あーっ!こんなところに隠れてたんですね?!やっと見つけたぁ☆……はっ!公爵令嬢が王子様をベッドに押し倒して襲ってますよ?!なんたるハレンチ!最低です!」……なんでこんな忙しい時に……」

    扉が突然に荒々しく開かれた途端に漂うビーフシチューの香りにげんなりする。

    未だビーフシチューまみれのヒロインは私と王子の姿を目撃して大騒ぎをしだしたのだ。一体彼女はいつになったらその滴るビーフシチューを拭うのか。

「王子様を手篭めにしようとするなんて、とんでもない人ですね!いくら王子様があたしに夢中であなたに見向きもしないからってそんな横暴に出るなんて……!やっぱりあなたは王子様の婚約者には相応しくありません!ワガママ言わずに今すぐ婚約破棄して王子様を解放してあげてください!」

    そしてギャーギャーとひとしきり騒いだと思ったら体の向きを変え廊下に向かってまたもや叫びだした。

「みなさーん!聞いてくださぁーい!
なんと公爵令嬢が王子様をあの手この手で辱しめていますよーっ!現行犯逮捕してくださぁーい!!」

    その騒ぎに駆けつけた教師たちも大騒ぎだし、ヒロインが「あたしは見たんです!公爵令嬢が王子様のあれやこれやをなんやかんやしてましたぁ!学園内の保健室でまさかこんな事をするなんて学園から追い出すべきです!」とか言うもんだから生徒たちも集まってしまった。

    私はと言うと、王子の手を握ったまま固まってしまっている。

    なに?何事??何がどうなってるの?!

「は?なんだ、倒れている王子を公爵令嬢が介抱しているだけじゃないか」

    固まったままの私を見て、集まってきた人たちは肩の力を抜いた。確かにあれやこれやの最中ならもっと際どい格好をしていると思われていたのだろう。実際はベッドに寝ている王子の手を握っているだけである。

「んんっ……?あれ、僕いつの間にベッドに……?」

「ハインリヒト殿下よかった、お目覚めになられて……」

    むくりとベッドから体を起こしたハインリヒト殿下は周りの人間の多さに驚いたものの教師から今の状況について説明され、にっこりと微笑み私の手を握り返す。あ、手を離すの忘れてた。このまま王子を殴り飛ばした罪で断罪されてしまうのか……。

「あぁ、ココ。僕が足を滑らせて倒れたのを心配してベッドに運んでくれたんだね?君のようなか弱いレディには大変だっただろうに……。しかも目覚めるまで手を握っていてくれたなんて、僕は感激したよ!」

    ……へ?

    私が状況を飲み込めずに呆然としていると、ハインリヒト殿下は目を潤ませながら芝居がかった口調で語り出す。

「ココが倒れたと聞いて保健室に駆けつけたんだが、ココが目を覚ます瞬間、喜びすぎて椅子に足をもつれさせて勢い良く倒れてしまったようなんだ。たぶん頭を打ったのか気絶してしまった僕を心配したココがわざわざベッドに運んで介抱してくれたんだね……」

    うるうると瞳を潤ませる王子の姿に周りの人間たちは「なるほど」「さすがはヴォルティス公爵令嬢」と納得の様子を見せた。

    へ?え?えぇ??

「で、でも!あたしは本当に公爵令嬢が王子様を襲おうとしているところを見たんです!それに、令嬢がおいそれと男性の体に触れるなんていけない事だって言ってたじゃないですか!」

    興奮気味に反論するヒロインだが、動く度にビーフシチューが飛び散るのでみんながソーシャルディスタンスしている。いい加減に頭を拭いて欲しい。

「確かにそうだけど……でも婚約者同士なんだから別に問題ないじゃないか?
    それに、目の前で倒れている人をそんな理由で放置する方が人としておかしいだろ」

「おふたりはこんなに想い合ってるんだから、多少のスキンシップも許されるだろう」

「ヴォルティス公爵令嬢が目覚めたのが嬉しすぎて足をもつれさせて倒れるなんて……王子様も可愛らしいところがあるのね」

「まさにお似合いのカップルですわ!ほら、あんなに手を握りしめあって……愛し合っておられるのね」

    ざわざわとお祝いムードの周りの雰囲気に全くついていけない私は硬直していて手を離すタイミングを失ってしまっただけなのだが。

「僕としては、ココに奪われたなら喜ばしい限りだけどね」

    と、王子がウインクなんかするものだから「きゃーっ!意味深ですわぁ!」と見知ら令嬢が黄色い声をあげた。いや、なんもしとらんがな!奪ってないから!

「ちょっと!皆様落ち着いて下さいませ!」

「そうですわ!ヴォルティス公爵令嬢は先ほど倒れられたばかりですのよ、あまり刺激なさらないで!」

「わたくしたちがこの場を離れたばかりに……これも王子がわたくしたちを保健室から追い出したのが原因でしてよ?!
    だいたいフルーレ男爵令嬢も何を騒いでいますの?!前から思っていましたけれど、あなたは思考が下品だわ!」

「ひ、ひどぉーい!あ、そうか!あなたたちはこの人に脅されてそう言えって言われてるんですね?!」

「「「違います!」」」


    こうして、クラスメイトの令嬢たちが人の合間を掻き分けて私の側に来てくれて詳しく事情を説明してくれたからなんとか収まったが……ヒロインは納得していない顔つきで「絶対にあなたの悪事を暴いて見せます!」と捨て台詞を吐いて立ち去ってしまった。その前に今度こそそのビーフシチューをどうにかしてくれ。保健室まで臭いが染み付いてビーフシチューくさいよ。

    ……あれ?そういえば王子は自分で転んだと思ってる?もしかして打ち所が悪くて記憶を失ったのだろうか。

    なにはともあれ、即座に死刑は免れたようだが……状況はさらにややこしくなった気がした。








******

(ハインリヒト視点)
    その頃のハインリヒトは……。

    ……ココったら、目が覚めて僕を見た途端に赤面して恥ずかしさのあまりあんなことをするなんて……。

    なんて可愛い……!あーもう、好き!あの悲鳴も超絶可愛い!可愛すぎて悶え死にそう!

    ココが僕だけに見せる可愛い表情や行動を他の誰かに教えるなんてもったいない事出来ないよ……!この頬の痛みは僕だけの宝物さ。

    ココ!好きだーっ!



    殴られた事にとても喜んでいたそうな。その姿がちょっと変態っぽかったと彼の執事が後に語ることになる。




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