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〈20〉楽しそうでなによりだけど

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「おねーさま。ほら、あーん♡」

「あ、あーん……」

 パクリ。

 やたら笑顔で差し出されたクッキーを口に押し込まれ咀嚼する。焼きたてなのかまだ温かいそれは、アーモンドの香りが口いっぱいに広がって香ばしくとても美味しい。美味しいのだが……。

「おねーさま、美味しい?」

「美味しいけど……」


 エリオットが転生者仲間だと発覚した翌日。まるで人が変わったように私に懐くエリオットの姿に屋敷の中は騒然としていた。

 あれから中身が女の子だとわかったエリオットと女子トークに花を咲かせ、私達はすっかり打ち解けたのである。社会人になってからは全然だったけど、学生時代の思い出にも浸れてとても楽しい時間だった。いや、もちろん今後の対策を相談していたのたが……私の知らない若人の流行りの情報はやっぱり興味が湧いてしまった。

 そして、私に対して完全に心を開いてくれたエリオットは私の事を「おねーさま」と呼び、こうして朝からべったりとくっついているのだった。

「……いきなり仲良くなってたら、逆に不審じゃないの?」

 小声でそう言うとエリオットは「わかってないなぁ、おねーさまは」と人差し指を左右に振った。

「よく考えてごらんよ。ヒロインは誰も相手を選んでないはずなのになぜかイベントが起きてるでしょう?つまりそれは、この世界の強制力がなにがなんでもゲームを開始させるために動いているってことだと思うんだ。
 それならば、ヒロインが攻略対象者の1人エリオットと急接近したとなれば必ず何かイベントが起こるはずだよ。しかしイベントが起きても僕とヒロインがゲームのストーリーに反してばかりいたら、もしかしたら……」

「……もしかしたら痺れを切らした強制力が、別のルートを開くかもしれないってこと?」

「さすがおねーさま。「むぐっ」そーゆーわけで……」

 最後の1枚になったクッキーを再び私の口に押し込み、エリオットは私にウインクをした。

「一緒に街にお出かけするよ!」

「……へ?」

 こうして戸惑う私をよそにテキパキとお出かけ準備を始めるエリオットは実に楽しそうである。

 もちろん、ルーファスとジェンキンスは難しい顔をしてこちらを見ているが黙ったままだ。果たしてこれで本当に救済ルートが開くのかどうかはわからないが、確かにやってみる価値はありそうである。なによりも私ひとりじゃこんな作戦できないから、エリオットに感謝しかない。

 そう、感謝しかない。でも。

「……エリオット、私の着る服をここまでこだわる必要あるかしら?」

 クローゼットから引っ張り出され山積みにされたワンピースの前で私は首を傾げた。

「だって、おねーさまはなんでも似合うから選ぶの楽しくって!街でもおねーさまの新しい服買いましょうね!」

 ワンピースを選び出してからすでに1時間。いつも不機嫌そうだったエリオットがこんなに楽しそうな笑顔を向けてくれるのは嬉しいのだが、この着せ替え人形時間はいつ終わるのだろうか?



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