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絶望と消失が襲いかかる

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 ーーーーーーーーっ!?



 目が覚めた。動悸と息切れが酷く、汗で前髪ががびっちょりと額に張り付いている。

 窓から差し込む暖かい光と小鳥のさえずり。それに見覚えのある天井。……あぁ、ここは私の部屋だ。どうやらベッドで眠っていたらしい。ーーーー確かに学園に行って聖女と対峙していたはずなのに。いつの間に?

「…………」

 じっとりとした冷や汗にまみれた手をそっと上に掲げる。そこにあったのは、冒険者として走り回った荒れた手ではなく、小さく柔らかな子供の手だったのだ。

「……ループした、の……?なんで……」

 ループしたということは、私が死んだということだ。いつ?どうして?私が覚えているのは……なんだかおかしな感覚の中で聖女の胸に自分の腕を……。

 そう、私は確かに聖女の胸を貫こうとした。言い訳かもしれないが、あの時はなぜか変な高揚感に包まれていて、さらに焦りというかそわそわとしてしまっていて……早くしなければ。と思ってしまったのだ。落ち着いて考えてみればなんて馬鹿な事をしようとしたのか。いくら聖女だからって、そんなことをしたら大変なことになるに決まっているのに。


「ーーーーあ」

 そうだ。今、はっきりと思い出した。




 聖女の胸を貫こうと……いや、貫いたと思った瞬間。逆に私の胸を聖女の腕が貫いたのだ。と。



 震えていたはずの聖女は瞬時に私の胸を腕で貫き、私の耳元で囁いた。

『……あんたが賢者かもしれなくても関係ないわ。邪魔者がいなくなれば、これでハッピーエンドは確定だもの。これで王子をわたしのに加えられる……わたしはするのよ』

 やはり聖女は私とだった。だが、。確かに私も最初は全員のエンディングをコンプリートすると張り切ってはいたが……。

「コレクションって、言いやがったわ……!」

 私はヴィンセント殿下を幸せにするために聖女を選んだのであって、決して聖女のコレクションとやらに協力するためではない。そんなのは真実の愛ではない……!殿下たちは決して物ではないのだ。それに、殿下たちをそんな風に扱おうとしている聖女の元で殿下が幸せになれるとは思えなかった。

 私はただ、ヴィンセント殿下を幸せにしたかっただけなのに……。彼の幸せな人生を見守る事だけを生き甲斐に頑張って来たのに……。

 自分のこれまでのループ人生が急に虚しくなる。なんのために何回も断罪されて死んできたのか。と。

 もはや記憶だけになってしまったそれまでのループ世界とは全く違った5回目のループ世界。アンバーやフラム(ついでにベクター)と出会えたの奇跡だったのだろうが、この新たなる世界では全てが消えてしまっている。冒険者として出会った人たちとの絆もなくなり、私にとって最後だからこそ大切にしたいと思っていた全てが振り出しに戻ってしまった。じわりと涙が滲む。4回目までのループ世界とは違い、あの5回目の世界は本当に特別で大切な世界だったのに……。

 最後の世界だと思っていたから、全力をぶつけていたのだ。最後まで生き残り、ヴィンセント殿下の幸せな人生を見守ろうと。



「……また、やり直しなの?」



 最後だと思っていたのに、またループしてしまった。しかも聖女に殺されるなんて悪役令嬢的にもバッドエンドだろう。さらにはよくわからない感覚のせいで正気も失っていたのだ。これまではそんなことなどなかったのに……。







「ーーーー疲れちゃったな」






 上げていた腕を下げ、私はポツリとそう呟いたのだった。
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