上 下
17 / 54

16:悪役令嬢と家族

しおりを挟む
    帰りの馬車の中、ライルはなぜかずっと私を膝の上に乗せて抱き締めている。……離してくれなくて困っているのだが、それがちょっと嬉しいと感じている自分に多少困惑しているのもこのままでいる原因だ。

    パーティー会場を出た後、ライルはお父様たちに「詳しいお話はお屋敷で致します」とだけ言って私を連れて馬車に乗り込んでしまったのだ。たぶん後ろの馬車にお父様たちが乗っているんだろうけど、怒られたりしないのかしら?

「……セリィナ様」

    抱き締める腕の力を少し緩めて、ライルは私の顔を覗き込んできた。

「ラ、ライル……あの……」

    なにか言わなきゃいけないと思うけどうまく言葉が出てこない。ただなぜか、ぽろりと涙がこぼれた。

「あ、ごめんなさ……っ、泣くつもりじゃ……」

「いいのよ」

    そう言って再び力を込めて私の体を抱き締めるライルの体温と心臓の音が自分の体に染み込むみたいで、それがとても安心すると感じた。

「……大丈夫よ、セリィナ様。全部、大丈夫だから」

    そっと髪を撫でてくれる手つきが本当に優しい。それが嬉しくて思わずライルの首筋に顔を埋めた。




    ーーーーあぁ、そうか。私はライルが好きなんだ。




    そんな感情が心に芽生え、なんだかしっくりくるなと思ったら……ふわりと暖かい気持ちになったのだった。







***







    屋敷に戻り、私は全てをみんなに話した。

    全てと言ってもさすがにこの世界が乙女ゲームだなんてもう言わない。この世界は、私の現実なのだから。

    あの日、暴漢に誘拐されかけたあの日から……ずっと悪夢を見ていることを語ったのだ。

    15歳になった自分が家族に蔑まれ、周りの人間全てに忌み嫌われていたこと。

    みんながあの男爵令嬢を本当の公爵令嬢として受け入れ、愛を注いだこと。

    そして、家族や15歳の王子たちから断罪されて殺されること。

「……お父様は私をダーツの的にして、お姉様たちは私を穢らわしい存在だと言い、お母様はあの男爵令嬢を抱き締めていました。最後はあの王子の剣で殺される夢を毎夜見続けて、私はそれが未来で起こる事なのだと思いました」

    私は1度言葉を切り、家族を見た。そこには老執事や侍女たちもいて、悲しそうに私を見ている。

「……私はその夢を信じ、いつかみんなは私が死ぬことを望む日がくると思って……それが怖くて、だから顔を見るたびに逃げていたんです。私は産まれてきてはいけない子供だったから、みんなに疎ましく思われる存在だから……殺されたくなかったから」

「……」

    みんなからしたら、たかが夢を見たくらいで自分たちを疑って逃げていたなんてわかったらそれこそ怒りで私を嫌いになるかもしれない。それでも正直に言おうと思ったのは、私がちゃんと大切に思われていたとわかったからだ。

「……ライルだけは平気だったのはなぜなの?」

    ローゼお姉様はずっと不思議だっただろうことを口にした。確かにあんなに人間不信だった私のライルに対する態度は不思議だったかもしれない。

「ライルは……夢に出てこなかったんです。だからこそ、ライルは私を蔑まないし殺さない。石を投げないし冷たい目で見てくることもない。ただひとり、安心して側にいられる人だったから……」

「そうだったの……。でも、ひとつだけ言っていいかしら」

    するとローゼお姉様は人差し指をライルに向け、声を張り上げた。

「いい加減セリィナを膝からおろしなさい!」

    そう、ライルは馬車を降りて屋敷に入ってからもずっと私を抱き抱えていたのだ。現在この話し合い中も私はライルの膝の上に固定されている。

「あ、あの、ごめんなさい、私がこんなだからーーーー」

「何を言ってるの!こんなに可愛いセリィナを今までも独り占めしてきたのに、こんな時まで独り占めして……羨ましい!セリィナ、わたくしの膝の上にもいらっしゃい!」

「ふぇ?!」

    てっきり私の態度に怒ってるのかと思ったら、ローゼお姉様は自分の膝をぽん!と叩き「カモンですわ!」と手招きをしだした。

「ずるいですわ、ローゼ姉様!それならわたくしも!さぁ、セリィナ。こちらへいらっしゃい?」

「いやいや、それならまずは父親の膝の上からだろう!」

「お待ちになって!それを言うならやっぱり母親の膝の上が好ましいですわ!」

「……よろしければ、この老いた執事の膝の上でも」

    ちょっと、なんでみんなで私を自分の膝の上に乗せようとしてるの?!しかもロナウドまで参戦してきたんだけど!

「ちょっ、えっ?私もう15歳だし、さすがに恥ずかしいのでそれは……」

    と正論で辞退したが全員がなぜかライルを一斉に指差した。

「「「「「ライルの膝の上には乗ってるのに!」」」」」

    するとそれまで黙っていたライルがフッと自慢気に微笑み、勝ち誇った顔をした。

「そんなの、アタシ・・・だからに決まってるじゃない?」

    そんなライルの言葉に全員が悔しそうに膝をついた。

「ね、だから大丈夫だって言ったでしょ?ここにいる全員、みーんなセリィナ様が大好きなのよ」

    ライルがウインクをして「もちろん、アタシもね」と耳元に囁いてきたせいで思わず動悸が激しくなったのを隠すのに一苦労したのは内緒である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)
恋愛
侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは7歳の誕生日が近づく頃、 前世の記憶を思い出し自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付く。 このまま進むと国外追放が待っている…! 焦るビアンカだが前世の自分は限界集落と称される離島で自給自足に近い生活をしていた事を思い出し、 「別に国外追放されても自給自足できるんじゃない?どうせなら自然豊かな南国に追放して貰おう!」 と目を輝かせる。 南国に追放されたい令嬢とそれを見守る溺愛執事のお話。 ※小説家になろう様でも公開中です。 ※ネタバレが苦手な方は最新話まで読んだのちに感想欄をご覧になる事をおススメしております。

【完結】なぜか悪役令嬢に転生していたので、推しの攻略対象を溺愛します

楠結衣
恋愛
魔獣に襲われたアリアは、前世の記憶を思い出す。 この世界は、前世でプレイした乙女ゲーム。しかも、私は攻略対象者にトラウマを与える悪役令嬢だと気づいてしまう。 攻略対象者で幼馴染のロベルトは、私の推し。 愛しい推しにひどいことをするなんて無理なので、シナリオを無視してロベルトを愛でまくることに。 その結果、ヒロインの好感度が上がると発生するイベントや、台詞が私に向けられていき── ルートを無視した二人の恋は大暴走! 天才魔術師でチートしまくりの幼馴染ロベルトと、推しに愛情を爆発させるアリアの、一途な恋のハッピーエンドストーリー。

貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない

白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております) 「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」  私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。  ····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。  しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。  もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。 *n番煎じの悪役令嬢モノです? *誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。 *不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。 加筆によりR15指定をさせていただきます。 *2022/06/07.大幅に加筆しました。 一話目も加筆をしております。 ですので、一話の文字数がまばらにになっております。 *小説家になろう様で 2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...