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第一話 捨てちゃえばいい
穏やかならぬ日々
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◆◇
翌日、またその翌日、と日々が過ぎてゆき、一学期の中間テストが終わっても、梅雨になり、期末テストが近づいてきても、遠藤柚乃から私に対する嫌がらせは終わらなかった。それどころか、日増しにひどくなっていく。
しかし、どうしてかクラスでは柚乃を非難するどころか、「もっとやれ」と彼女を後押しする人が増えた。
なぜなら、彼女には「人を味方につける」類稀なる才能と、完璧な容姿と賢さを持ち合わせていたから。
特に、男子生徒からの支持は抜群だった。高校生にもなって、クラスのカースト上位に逆らえないなんてみっともないと呆れるところだが、当の私は柚乃からのいじめに震えるばかりでどうしようもないヘタレだ。
ある時、この事態に気がついた雪村先生がHRでそのことを話題に出した。
「残念ながら、このクラスで弱い者いじめが起きている」
ヨワイモノイジメ。
ああ、そうか。
私は「弱い者」なのか。
だからこんな仕打ちを受けるのか。
自分のことなのに、頭がぼんやりとして痛い。
「先生は、誰が犯人か知っているぞ。これは、大変な問題だ。命に関わる可能性だってある。いじめている人は、なんとなくで楽しんでやっているのかもしれんが、絶対にやめるように。心当たりがある人は放課後職員室に来い」
先生は、それだけ言い捨てて教室から去っていった。
誰かが告げ口をしたのか、はたまた先生が自ら察したのか分からないが、犯人を知っているというのはハッタリだろう。
こんなことしたって、意味ないのに……。
私たち全員の心は一緒だった。予想通り、私は放課後に女子トイレに閉じ込められ、バケツで水をぶっかけられた。しかも、雑巾の絞り汁入りときたら、思わず吐き気がこみ上げてそのまま嘔吐してしまった。
「きったねえ。ちゃんと掃除して帰りなさいよ」
柚乃が吐き捨てた言葉が、扉の向こうからでもダイレクトに聞こえてくる。
「あんたなんか、消えちゃえばいい」
私の何が、彼女をここまで暴走させているのだろう。何が気に食わないのだろう。彼女に対して、何か決定的に嫌われるようなことをしたというならまだ分かるが、正直それほど関わりのない人間に嫌われる道理が分からなかった。
いや、理由なんてないのだ。
私はただ、彼女の腹いせのターゲットになっただけ。
きっと誰でもよかった。そこら辺にいる人間なら誰でも。
穏やかな高校二年生の一年が始まるかと思っていた。
勉強や部活動、運動会に文化祭。
おそらく、私が活躍できる場なんて一つもないのだろうけれど、せめて日陰で終わりゆく青春時代を謳歌することぐらい許されていたはずだった。
それなのに、当たり前の穏やかな時間を、遠藤柚乃とクラスメイトによって奪われて。
ばっかみたい。弱虫、のろま、要領が悪いんだよ。
雪村先生が言っていた「弱い者」は、あながち間違いではないのかもしれない。私は弱かった。だから標的にされたのだ。
許されるのなら、戻りたい。
春の陽気に照らされて、なんでもない一年がまた始まろうとしていた四月に。
そうしたらきっと、同じ過ちは犯さない——。
翌日、またその翌日、と日々が過ぎてゆき、一学期の中間テストが終わっても、梅雨になり、期末テストが近づいてきても、遠藤柚乃から私に対する嫌がらせは終わらなかった。それどころか、日増しにひどくなっていく。
しかし、どうしてかクラスでは柚乃を非難するどころか、「もっとやれ」と彼女を後押しする人が増えた。
なぜなら、彼女には「人を味方につける」類稀なる才能と、完璧な容姿と賢さを持ち合わせていたから。
特に、男子生徒からの支持は抜群だった。高校生にもなって、クラスのカースト上位に逆らえないなんてみっともないと呆れるところだが、当の私は柚乃からのいじめに震えるばかりでどうしようもないヘタレだ。
ある時、この事態に気がついた雪村先生がHRでそのことを話題に出した。
「残念ながら、このクラスで弱い者いじめが起きている」
ヨワイモノイジメ。
ああ、そうか。
私は「弱い者」なのか。
だからこんな仕打ちを受けるのか。
自分のことなのに、頭がぼんやりとして痛い。
「先生は、誰が犯人か知っているぞ。これは、大変な問題だ。命に関わる可能性だってある。いじめている人は、なんとなくで楽しんでやっているのかもしれんが、絶対にやめるように。心当たりがある人は放課後職員室に来い」
先生は、それだけ言い捨てて教室から去っていった。
誰かが告げ口をしたのか、はたまた先生が自ら察したのか分からないが、犯人を知っているというのはハッタリだろう。
こんなことしたって、意味ないのに……。
私たち全員の心は一緒だった。予想通り、私は放課後に女子トイレに閉じ込められ、バケツで水をぶっかけられた。しかも、雑巾の絞り汁入りときたら、思わず吐き気がこみ上げてそのまま嘔吐してしまった。
「きったねえ。ちゃんと掃除して帰りなさいよ」
柚乃が吐き捨てた言葉が、扉の向こうからでもダイレクトに聞こえてくる。
「あんたなんか、消えちゃえばいい」
私の何が、彼女をここまで暴走させているのだろう。何が気に食わないのだろう。彼女に対して、何か決定的に嫌われるようなことをしたというならまだ分かるが、正直それほど関わりのない人間に嫌われる道理が分からなかった。
いや、理由なんてないのだ。
私はただ、彼女の腹いせのターゲットになっただけ。
きっと誰でもよかった。そこら辺にいる人間なら誰でも。
穏やかな高校二年生の一年が始まるかと思っていた。
勉強や部活動、運動会に文化祭。
おそらく、私が活躍できる場なんて一つもないのだろうけれど、せめて日陰で終わりゆく青春時代を謳歌することぐらい許されていたはずだった。
それなのに、当たり前の穏やかな時間を、遠藤柚乃とクラスメイトによって奪われて。
ばっかみたい。弱虫、のろま、要領が悪いんだよ。
雪村先生が言っていた「弱い者」は、あながち間違いではないのかもしれない。私は弱かった。だから標的にされたのだ。
許されるのなら、戻りたい。
春の陽気に照らされて、なんでもない一年がまた始まろうとしていた四月に。
そうしたらきっと、同じ過ちは犯さない——。
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