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エピローグ
仕事終わり
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「天ざるセット、お待たせしました~。ごゆっくりどうぞ」
すっかり夏の気配が近づいてきた五月末、お昼ご飯を食べに『やよい庵』にやって来た詩文さんに、男性一番人気の『天ざるセット』提供する。今日は『三つ葉書店』の定休日だ。当初、『三つ葉書店』には定休日がなかったのだが、客足も一定数に整ってきたので、そろそろ定休日を設けてはどうかと提案したのがきっかけだった。
結果、水曜日だけ定休日にすることにしたらしい。アルバイトがいない状況なので、詩文さんが一日でも休めるようになり、正直ほっとしている。
「ありがとうございます。すごくボリューミーな天ぷらですね」
「そうですよー。男性客にはそばだけでは物足りないので、天ぷらで満足していただこうという作戦です」
「なるほど、確かに僕みたいな大男にはこれぐらいがちょうど良いかも」
「詩文さんは背は高いですけど、細いから大男には見えませんって」
「そ、そうですか。こう見えて最近筋トレも始めたんです。ジムに通い出して。今日も朝からトレーニングしてきました」
「えー、それはびっくり!」
完全なインドア派だと思っていた彼が、ジムに通い出したというのはとても驚いた。一体どういう心境の変化だろうか?
「僕も……少しは逞しくならないといけないですからね。その、大切な人を守れるぐらいには」
「……大切な人」
彼の口から思わぬ言葉が出てきて、不覚にもぴくんと肩が揺れた。厨房の方から、「彩葉~早く戻って来て~」と母が私を呼んでいる。「はあい」と返事をすると、詩文さんに「また後ほど」と伝えた。
それからお昼のラッシュ時が終わるまでせかせかと働き続けた。最近、レイさんに頼んでメニュー表や貼り紙を新しいものに一新して、気持ちも新たに頑張ろうという気になっていた。店内には『三つ葉書店』の宣伝チラシも置いている。帰り際に持って帰るお客さんも多く、お隣さん冥利に尽きるものだ。
一時間の休憩後、夜のシフトが終わるまで再度せっせと働いた。午後六時までシフトに入り、後の時間はシフトインして来た社員さんと交代する。仕事終わりに「はあー!」と伸びをするこの瞬間がたまらなく好きだった。
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様ですー」
夜担当の社員さんに挨拶をして、『やよい庵』を後にする。お店を出ると、目の前に詩文さんが立っていた。お昼まで着物姿だったのに、今はきっちりとしたシャツとジャケットを着ていて、普段との違いに思わず二度見してしまった。
「そういう服装も似合いますね」
「あ、ありがとうございます! 洋服を着たのが久しぶりなので、なんだか慣れないですけれど」
頬を掻きながら答える詩文さんはどこか照れくさそうだ。
そういえばお昼にはスポーツジムに行ってきたと言っていたが、その時は運動着だったんだろうか。さすがに、着物で筋トレしたわけじゃないわよね。想像したらおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。
すっかり夏の気配が近づいてきた五月末、お昼ご飯を食べに『やよい庵』にやって来た詩文さんに、男性一番人気の『天ざるセット』提供する。今日は『三つ葉書店』の定休日だ。当初、『三つ葉書店』には定休日がなかったのだが、客足も一定数に整ってきたので、そろそろ定休日を設けてはどうかと提案したのがきっかけだった。
結果、水曜日だけ定休日にすることにしたらしい。アルバイトがいない状況なので、詩文さんが一日でも休めるようになり、正直ほっとしている。
「ありがとうございます。すごくボリューミーな天ぷらですね」
「そうですよー。男性客にはそばだけでは物足りないので、天ぷらで満足していただこうという作戦です」
「なるほど、確かに僕みたいな大男にはこれぐらいがちょうど良いかも」
「詩文さんは背は高いですけど、細いから大男には見えませんって」
「そ、そうですか。こう見えて最近筋トレも始めたんです。ジムに通い出して。今日も朝からトレーニングしてきました」
「えー、それはびっくり!」
完全なインドア派だと思っていた彼が、ジムに通い出したというのはとても驚いた。一体どういう心境の変化だろうか?
「僕も……少しは逞しくならないといけないですからね。その、大切な人を守れるぐらいには」
「……大切な人」
彼の口から思わぬ言葉が出てきて、不覚にもぴくんと肩が揺れた。厨房の方から、「彩葉~早く戻って来て~」と母が私を呼んでいる。「はあい」と返事をすると、詩文さんに「また後ほど」と伝えた。
それからお昼のラッシュ時が終わるまでせかせかと働き続けた。最近、レイさんに頼んでメニュー表や貼り紙を新しいものに一新して、気持ちも新たに頑張ろうという気になっていた。店内には『三つ葉書店』の宣伝チラシも置いている。帰り際に持って帰るお客さんも多く、お隣さん冥利に尽きるものだ。
一時間の休憩後、夜のシフトが終わるまで再度せっせと働いた。午後六時までシフトに入り、後の時間はシフトインして来た社員さんと交代する。仕事終わりに「はあー!」と伸びをするこの瞬間がたまらなく好きだった。
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様ですー」
夜担当の社員さんに挨拶をして、『やよい庵』を後にする。お店を出ると、目の前に詩文さんが立っていた。お昼まで着物姿だったのに、今はきっちりとしたシャツとジャケットを着ていて、普段との違いに思わず二度見してしまった。
「そういう服装も似合いますね」
「あ、ありがとうございます! 洋服を着たのが久しぶりなので、なんだか慣れないですけれど」
頬を掻きながら答える詩文さんはどこか照れくさそうだ。
そういえばお昼にはスポーツジムに行ってきたと言っていたが、その時は運動着だったんだろうか。さすがに、着物で筋トレしたわけじゃないわよね。想像したらおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。
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