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第四話 三つ葉書店にあなたが来る理由
彼との出会い
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「大学を卒業してから、わたしはいろんな職場を転々としていました。見て分かると思うのですが、わたし、対人関係を築くのがどうも苦手で。どの職場に行っても、上司や同僚たちと、上手く馴染めなかったんです」
「ああ、それはなんとなく分かるかも」
失礼だとは分かっているが、人間のモナは確かにどこか自信なさげなオーラが漂っているから納得がいった。
「ですよね。そう見えますよね。そうなんです。どんなに好きな仕事に就いても人間関係が上手くいかないと、そのままその職場で働き続けたいと思えなくなってしまって。ひどい時はパワハラなんかも受けて、鬱になったりもして」
想像していたよりも壮絶な話に、思わず息をのむ。
「図書館で働くまでに、五回も転職しちゃいました」
「五回……」
大卒で就職をしてから五回。彼女が何歳なのか知らないが、詩文さんと同じぐらいの年齢だと考えると、ざっと一年以内に一回は職を変えていることになる。『やよい庵』でしか働いたことない私からすれば、未知の世界の話だ。
「わたしにはどんな仕事も合わないんだ。そもそも社会に出て働くことが性に合ってないんだ。自分は社会不適合者なんだ——と塞ぎ込んでいた時、近所の図書館で求人ポスターを目にしたんです」
なるほど、そういう経緯だったのか。
三沢萌奈という人物について知っていることはほとんどないのに、すでに彼女の人生の半分くらいを垣間見たような感覚に陥っていた。
「もともと本が好きだったこともあって、図書館司書という仕事に憧れはありました。ポスターに書かれていたのは、非正規職員を募集するという内容でした。非正規なので、資格を持っていなくてもOKと書いてあったんです。でもわたしは、せっかくならと思い立って、資格を取ることに決めました。図書館司書の資格が取れる大学を探して、なんとか必要な単位を取得して、無事に資格を取りました。その間は、アルバイトをして食い繋いで。まっとうに働いている方からすれば、さぞ見すぼらしかったと思います」
そうだろうか。
目標のためにアルバイトまでして努力をしていた彼女のことを、見すぼらしいとは思わない。むしろ、親から与えられた役割をこなしているだけの自分の方がよっぽど楽に生きていると思う。
「資格を持っていることを伝えて、わたしは晴れて図書館司書になりました。といっても、契約社員からのスタートで、お給料も微々たるものです。図書館司書のお給料が低いことは有名なのですが、それでも好きなことに携われる仕事だったので満足していました。幸い、わたしが勤めていた職場では嫌なことを言ってくるような上司もいなかったですし。みなさん淡々と仕事をされていました。それを良いと思うか物足りないと思うかは、その人次第なんだと思います。でもわたしにとっては好都合でした。必要以上に馴れ馴れしく接してくる人もいなければ、他人に対してまったく無関心である人もいない。わたしにはそれくらいの職場環境がちょうど良かったんです」
そこでふっと目を細めるモナ——いや、萌奈は、何か幸せな出来事を思い出すかのような口ぶりで続けた。
「司書の仕事に慣れてきた頃に出会ったのが、薬師寺詩文さん——あの人です」
ここで初めて、詩文さんの影が現れた。
話が本題に入ることを予感させる。
「詩文さんはわたしと同じようにご近所に住む、本好きの男性でした。いつも着物を着ていて、背も高いのでとにかく目立つんです。普段あまり仕事中に世間話をしない同僚たちの間でも、詩文さんのことは噂になっていました。あの顔立ちですから。詩文さんに密かに憧れを抱いている人も多かったんですよ。わたしも……その一人でした」
「ああ、それはなんとなく分かるかも」
失礼だとは分かっているが、人間のモナは確かにどこか自信なさげなオーラが漂っているから納得がいった。
「ですよね。そう見えますよね。そうなんです。どんなに好きな仕事に就いても人間関係が上手くいかないと、そのままその職場で働き続けたいと思えなくなってしまって。ひどい時はパワハラなんかも受けて、鬱になったりもして」
想像していたよりも壮絶な話に、思わず息をのむ。
「図書館で働くまでに、五回も転職しちゃいました」
「五回……」
大卒で就職をしてから五回。彼女が何歳なのか知らないが、詩文さんと同じぐらいの年齢だと考えると、ざっと一年以内に一回は職を変えていることになる。『やよい庵』でしか働いたことない私からすれば、未知の世界の話だ。
「わたしにはどんな仕事も合わないんだ。そもそも社会に出て働くことが性に合ってないんだ。自分は社会不適合者なんだ——と塞ぎ込んでいた時、近所の図書館で求人ポスターを目にしたんです」
なるほど、そういう経緯だったのか。
三沢萌奈という人物について知っていることはほとんどないのに、すでに彼女の人生の半分くらいを垣間見たような感覚に陥っていた。
「もともと本が好きだったこともあって、図書館司書という仕事に憧れはありました。ポスターに書かれていたのは、非正規職員を募集するという内容でした。非正規なので、資格を持っていなくてもOKと書いてあったんです。でもわたしは、せっかくならと思い立って、資格を取ることに決めました。図書館司書の資格が取れる大学を探して、なんとか必要な単位を取得して、無事に資格を取りました。その間は、アルバイトをして食い繋いで。まっとうに働いている方からすれば、さぞ見すぼらしかったと思います」
そうだろうか。
目標のためにアルバイトまでして努力をしていた彼女のことを、見すぼらしいとは思わない。むしろ、親から与えられた役割をこなしているだけの自分の方がよっぽど楽に生きていると思う。
「資格を持っていることを伝えて、わたしは晴れて図書館司書になりました。といっても、契約社員からのスタートで、お給料も微々たるものです。図書館司書のお給料が低いことは有名なのですが、それでも好きなことに携われる仕事だったので満足していました。幸い、わたしが勤めていた職場では嫌なことを言ってくるような上司もいなかったですし。みなさん淡々と仕事をされていました。それを良いと思うか物足りないと思うかは、その人次第なんだと思います。でもわたしにとっては好都合でした。必要以上に馴れ馴れしく接してくる人もいなければ、他人に対してまったく無関心である人もいない。わたしにはそれくらいの職場環境がちょうど良かったんです」
そこでふっと目を細めるモナ——いや、萌奈は、何か幸せな出来事を思い出すかのような口ぶりで続けた。
「司書の仕事に慣れてきた頃に出会ったのが、薬師寺詩文さん——あの人です」
ここで初めて、詩文さんの影が現れた。
話が本題に入ることを予感させる。
「詩文さんはわたしと同じようにご近所に住む、本好きの男性でした。いつも着物を着ていて、背も高いのでとにかく目立つんです。普段あまり仕事中に世間話をしない同僚たちの間でも、詩文さんのことは噂になっていました。あの顔立ちですから。詩文さんに密かに憧れを抱いている人も多かったんですよ。わたしも……その一人でした」
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