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第二話 三つ葉書店の大躍進

モナ、大活躍

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「なに? 見たら分かると思うけど今すごく忙しいの。詩文さん、ピンチなの」

 誰にも聞こえないぐらいの小さな声でモナに話しかける。私は早く、詩文さんのアシストに回りたくて必死だった。

「この本、二歳の子供におすすめの絵本。今話題のイラストレーターが書いた本よ。それからこっちは恋愛雑学本。色々あるけれど、おすすめなのはこれかな。韓国人が書いたものだけど、SNSで話題になってるわ」

「……え?」

 モナは絵本コーナーで『おつきさまのおいのり』という本を、自己啓発本コーナーで『忘れられない人になるために』というタイトルの本を私に差し示した。ちょうど平置きにしている本の上に乗っかるような形で、私に本を手に取らせるように仕向けた。

「ほら、早く詩文さんに持って行って。困ってるじゃない」

「……」

 モナが何を言っているのか、ようやく理解ができた。
 お客さんに本の質問をされてあたふたしている彼を助けようと言うのだ。残念ながら私には本の知識がない。だから彼を助けるには、お客さんの要望を聞いて彼に伝えることぐらいしかできないと思っていた。でもモナは、実際におすすめの本をお客さんに届けようとしている。モナのまなざしは真剣で、彼女の本の知識に間違いはないように思えた。

「分かった」

 モナの目を見つめながらゆっくりと頷く。彼女が勧めてくれた本を手に取ると、先ほど詩文さんに質問をしていたお客さんの前に差し出した。

「こちらが二歳のお子様向けの人気の絵本になります。よかったら、いかがですか?」

「恋愛雑学本なら、こちらがおすすめです。韓国発の本で、SNSで話題沸騰中なんですよ」

 モナから聞いた情報をそのまま、二人のお客さんに伝える。
 
「え? ああ、どうも」

「そうなんですね~ありがとうございます」

 二人とも、実際は本など興味がないのだろう。でも、自分から詩文さんに質問をした手前、私からのおすすめ本を受け取らない道理はなかった。ゆっくりと、自分の手から二冊の本が離れていく。彼女たちは呆然とした様子で私を見つめていた。

「それからサインですが、申し訳ございません。当店ではサイン会のようなものはまだ催していないんです。ただ、お客様がお望みでしたら、人気作家さんをお招きしてサイン会も実施したいと考えています。いずれにせよこれからお店をつくっていく予定ですので、まだまだ慣れないところもあるかと存じますが、ぜひよろしくお願いしますっ!」

 詩文さんのサインを求めているお客さんにも、店員のふりをしてそれらしい理由を並べ立てた。詩文さんがびっくりして私の方を見る。どうやら今の今まで私がお店にいることに気づかなかったらしい。それに加えて、私が突然おすすめの本を持ってきたり、サインのことを言及したりするものだから、驚くのもまあ仕方あるまい。
 詩文さんと話がしたかっただけの女性たちは、私の登場が面白くなかったのか、苦笑いを浮かべている。それでも私は気にしないように努めた。本屋なんだから、本を買いに来たんでしょ、と言い聞かせるように彼女たちを見つめる。お客さんたちはそんな私からさっと目を逸らした。

 しかしその後もめげずに後ろに並んでいたお客さんたちが、詩文さんにあることないこと話しかけていた。私は、世間話程度の内容なら聞き流す。逆に本を探しているという相談があれば、モナと一緒に聞き耳を立てた。

「心が沈んでる時に読みたい本? それならこのほっこり心温まる家族小説ね」

「新入社員で営業がうまくいかなくて困ってる? はい、『営業するなら肩の力を抜け』を贈るわ」

「彼氏に振られて辛い時は、この失恋小説が身に沁みるわよ」

 モナはお客さんのニーズにあった本を的確に探し当てる。私はモナに言われるがままに、彼女が勧めてくれた本をせっせとお客さんの元へと運んだ。そのうち、純粋に本を探している人も何人かいることに気づいて、仕事に精が出てきた。詩文さんは相変わらずお客さんに絡まれて忙しそうだから、代わりにモナと二人三脚で書店員業務をこなしていく。

 やがてお客さんの波が一区切りついたところで、私はモナと、それから詩文さんと顔を見合わせて「はーっ!」と息を吐いた。
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