17 / 57
第二話 三つ葉書店の大躍進
モナ、大活躍
しおりを挟む
「なに? 見たら分かると思うけど今すごく忙しいの。詩文さん、ピンチなの」
誰にも聞こえないぐらいの小さな声でモナに話しかける。私は早く、詩文さんのアシストに回りたくて必死だった。
「この本、二歳の子供におすすめの絵本。今話題のイラストレーターが書いた本よ。それからこっちは恋愛雑学本。色々あるけれど、おすすめなのはこれかな。韓国人が書いたものだけど、SNSで話題になってるわ」
「……え?」
モナは絵本コーナーで『おつきさまのおいのり』という本を、自己啓発本コーナーで『忘れられない人になるために』というタイトルの本を私に差し示した。ちょうど平置きにしている本の上に乗っかるような形で、私に本を手に取らせるように仕向けた。
「ほら、早く詩文さんに持って行って。困ってるじゃない」
「……」
モナが何を言っているのか、ようやく理解ができた。
お客さんに本の質問をされてあたふたしている彼を助けようと言うのだ。残念ながら私には本の知識がない。だから彼を助けるには、お客さんの要望を聞いて彼に伝えることぐらいしかできないと思っていた。でもモナは、実際におすすめの本をお客さんに届けようとしている。モナのまなざしは真剣で、彼女の本の知識に間違いはないように思えた。
「分かった」
モナの目を見つめながらゆっくりと頷く。彼女が勧めてくれた本を手に取ると、先ほど詩文さんに質問をしていたお客さんの前に差し出した。
「こちらが二歳のお子様向けの人気の絵本になります。よかったら、いかがですか?」
「恋愛雑学本なら、こちらがおすすめです。韓国発の本で、SNSで話題沸騰中なんですよ」
モナから聞いた情報をそのまま、二人のお客さんに伝える。
「え? ああ、どうも」
「そうなんですね~ありがとうございます」
二人とも、実際は本など興味がないのだろう。でも、自分から詩文さんに質問をした手前、私からのおすすめ本を受け取らない道理はなかった。ゆっくりと、自分の手から二冊の本が離れていく。彼女たちは呆然とした様子で私を見つめていた。
「それからサインですが、申し訳ございません。当店ではサイン会のようなものはまだ催していないんです。ただ、お客様がお望みでしたら、人気作家さんをお招きしてサイン会も実施したいと考えています。いずれにせよこれからお店をつくっていく予定ですので、まだまだ慣れないところもあるかと存じますが、ぜひよろしくお願いしますっ!」
詩文さんのサインを求めているお客さんにも、店員のふりをしてそれらしい理由を並べ立てた。詩文さんがびっくりして私の方を見る。どうやら今の今まで私がお店にいることに気づかなかったらしい。それに加えて、私が突然おすすめの本を持ってきたり、サインのことを言及したりするものだから、驚くのもまあ仕方あるまい。
詩文さんと話がしたかっただけの女性たちは、私の登場が面白くなかったのか、苦笑いを浮かべている。それでも私は気にしないように努めた。本屋なんだから、本を買いに来たんでしょ、と言い聞かせるように彼女たちを見つめる。お客さんたちはそんな私からさっと目を逸らした。
しかしその後もめげずに後ろに並んでいたお客さんたちが、詩文さんにあることないこと話しかけていた。私は、世間話程度の内容なら聞き流す。逆に本を探しているという相談があれば、モナと一緒に聞き耳を立てた。
「心が沈んでる時に読みたい本? それならこのほっこり心温まる家族小説ね」
「新入社員で営業がうまくいかなくて困ってる? はい、『営業するなら肩の力を抜け』を贈るわ」
「彼氏に振られて辛い時は、この失恋小説が身に沁みるわよ」
モナはお客さんのニーズにあった本を的確に探し当てる。私はモナに言われるがままに、彼女が勧めてくれた本をせっせとお客さんの元へと運んだ。そのうち、純粋に本を探している人も何人かいることに気づいて、仕事に精が出てきた。詩文さんは相変わらずお客さんに絡まれて忙しそうだから、代わりにモナと二人三脚で書店員業務をこなしていく。
やがてお客さんの波が一区切りついたところで、私はモナと、それから詩文さんと顔を見合わせて「はーっ!」と息を吐いた。
誰にも聞こえないぐらいの小さな声でモナに話しかける。私は早く、詩文さんのアシストに回りたくて必死だった。
「この本、二歳の子供におすすめの絵本。今話題のイラストレーターが書いた本よ。それからこっちは恋愛雑学本。色々あるけれど、おすすめなのはこれかな。韓国人が書いたものだけど、SNSで話題になってるわ」
「……え?」
モナは絵本コーナーで『おつきさまのおいのり』という本を、自己啓発本コーナーで『忘れられない人になるために』というタイトルの本を私に差し示した。ちょうど平置きにしている本の上に乗っかるような形で、私に本を手に取らせるように仕向けた。
「ほら、早く詩文さんに持って行って。困ってるじゃない」
「……」
モナが何を言っているのか、ようやく理解ができた。
お客さんに本の質問をされてあたふたしている彼を助けようと言うのだ。残念ながら私には本の知識がない。だから彼を助けるには、お客さんの要望を聞いて彼に伝えることぐらいしかできないと思っていた。でもモナは、実際におすすめの本をお客さんに届けようとしている。モナのまなざしは真剣で、彼女の本の知識に間違いはないように思えた。
「分かった」
モナの目を見つめながらゆっくりと頷く。彼女が勧めてくれた本を手に取ると、先ほど詩文さんに質問をしていたお客さんの前に差し出した。
「こちらが二歳のお子様向けの人気の絵本になります。よかったら、いかがですか?」
「恋愛雑学本なら、こちらがおすすめです。韓国発の本で、SNSで話題沸騰中なんですよ」
モナから聞いた情報をそのまま、二人のお客さんに伝える。
「え? ああ、どうも」
「そうなんですね~ありがとうございます」
二人とも、実際は本など興味がないのだろう。でも、自分から詩文さんに質問をした手前、私からのおすすめ本を受け取らない道理はなかった。ゆっくりと、自分の手から二冊の本が離れていく。彼女たちは呆然とした様子で私を見つめていた。
「それからサインですが、申し訳ございません。当店ではサイン会のようなものはまだ催していないんです。ただ、お客様がお望みでしたら、人気作家さんをお招きしてサイン会も実施したいと考えています。いずれにせよこれからお店をつくっていく予定ですので、まだまだ慣れないところもあるかと存じますが、ぜひよろしくお願いしますっ!」
詩文さんのサインを求めているお客さんにも、店員のふりをしてそれらしい理由を並べ立てた。詩文さんがびっくりして私の方を見る。どうやら今の今まで私がお店にいることに気づかなかったらしい。それに加えて、私が突然おすすめの本を持ってきたり、サインのことを言及したりするものだから、驚くのもまあ仕方あるまい。
詩文さんと話がしたかっただけの女性たちは、私の登場が面白くなかったのか、苦笑いを浮かべている。それでも私は気にしないように努めた。本屋なんだから、本を買いに来たんでしょ、と言い聞かせるように彼女たちを見つめる。お客さんたちはそんな私からさっと目を逸らした。
しかしその後もめげずに後ろに並んでいたお客さんたちが、詩文さんにあることないこと話しかけていた。私は、世間話程度の内容なら聞き流す。逆に本を探しているという相談があれば、モナと一緒に聞き耳を立てた。
「心が沈んでる時に読みたい本? それならこのほっこり心温まる家族小説ね」
「新入社員で営業がうまくいかなくて困ってる? はい、『営業するなら肩の力を抜け』を贈るわ」
「彼氏に振られて辛い時は、この失恋小説が身に沁みるわよ」
モナはお客さんのニーズにあった本を的確に探し当てる。私はモナに言われるがままに、彼女が勧めてくれた本をせっせとお客さんの元へと運んだ。そのうち、純粋に本を探している人も何人かいることに気づいて、仕事に精が出てきた。詩文さんは相変わらずお客さんに絡まれて忙しそうだから、代わりにモナと二人三脚で書店員業務をこなしていく。
やがてお客さんの波が一区切りついたところで、私はモナと、それから詩文さんと顔を見合わせて「はーっ!」と息を吐いた。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
京都和み堂書店でお悩み承ります
葉方萌生
キャラ文芸
建仁寺へと続く道、祇園のとある路地に佇む書店、その名も『京都和み堂書店」。
アルバイトとして新米書店員となった三谷菜花は、一見普通の書店である和み堂での仕事を前に、胸を躍らせていた。
“女将”の詩乃と共に、書店員として奔走する菜花だったが、実は和み堂には特殊な仕事があって——?
心が疲れた時、何かに悩んだ時、あなたの心に効く一冊をご提供します。
ぜひご利用ください。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―
木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。
……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。
小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。
お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。
第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる