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第二話 三つ葉書店の大躍進
SNS投稿
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「いーろーはっ」
モナが私の名前を呼んだかと思うと、私の腰のところに飛びついて来た。
「あわっ!?」
あやかし猫なので飛びつかれた感覚はないはずなのに、突然のことで何が何だか分からずに体勢を崩す。『やよい庵』の前で尻餅をつく私。ちょうど晩御飯の時間なので、やってきたお客さんに二度見される。「はは……どうも~」と愛想笑いを浮かべた。お客さんにはモナの姿が見えていないはずなので、私が一人で転んだと思っているだろう。「大丈夫ですか?」と声をかけられたが、私は思い切り首を横に振った。
「すみません、大丈夫ですっ」
慌てて立ち上がったところで足元を見ると、モナがちゃっかり私のスマホに触れようとしていた。
「ちょ、ちょっと何するの!」
モナに向かって小さく叫ぶ。虚空に向かって話しかけた私をいよいよ怪しい者だと思ったのか、お客さんはそっと私から距離を置いて『やよい庵』へと入っていった。
しまった……。私が『やよい庵』の店員だとバレなければいいけど……。
あとで知られてしまえばとても恥ずかしい。
はあ、とため息を吐きつつ、モナの方をキッと睨んだ。
しかし次の瞬間、モナはぼううううん、と煙に巻かれて人間の姿になっていた。
「あ——」
昨日目にしたばかりの綺麗な女の人が目の前に現れる。幸い通りには人がいなかったので、猫が化けるところは見られずに済んだ。まったく、なんで私がそんな心配しなきゃいけないんだろう——と呆れつつ、“三沢萌奈”を見つめる。
「えっと、すみません。ちょっとスマホ、お借りしたいんです」
「借りるって、何に使うんですか?」
「SNSです。『三つ葉書店』について、発信したいと思いまして」
SNSで、『三つ葉書店』を?
それってつまり、お店のPRをしたいってこと?
そういえば、『三つ葉書店』ってSNSはやっていないんだろうか——と疑問に思ったが、まあ聞くまでもないか。チラシさえ作っていない詩文さんが、SNSの運用なんて器用なことができるはずがない。
呆気に取られつつ、モナが私の写真投稿アプリを開くのをじっと見ていた。そのアプリは今、『やよい庵』のアカウントでログインしてある。「ちょっと——」と止めるまもなく、彼女が投稿欄を開く。さらに、『三つ葉書店』の外観の写真を撮影して、その写真を素早く投稿していた。
投稿は二つ。
一つは通常の写真の投稿と、もう一つは二十四時間限定で見られるリアルタイム発信での投稿だった。
キャプションまでは見えなかったけれど、一体何を書いてるのだろう。
『やよい庵』のアカウントで行われる一連の投稿作業を、ぽかんと口を開けて見守るしかなかった。
「ふふ、これで完了です。お客さん、来るかしら」
意味深な笑みを浮かべて、モナが私にスマホを返してくれた。
なんだか怖くてSNSを開けない。
すると、モナがにゃおんという鳴き声を上げた。いつのまにか猫の姿に戻っていたのだ。
「勝手に投稿なんかしないでほしいんだけど」
あやかし猫に戻った彼女に文句の一つでもくれてやる。人間のモナはなんだか性格がおっとりしていて控えめな感じなので、軽口を叩くには猫の姿の彼女の方がちょうどいい。
「いいじゃない。別に、減るもんでもないし。『三つ葉書店』にお客さんが来て欲しいって思ってるのはあなたも一緒でしょ」
「そりゃそうだけど……。SNS一つでそんなにお客さん来るか分かんないじゃん」
「でもやってみないと効果は0よ。ついでに『やよい庵』のPRにもなるんだし、一石二鳥だと思いなさい」
「……」
半信半疑のまま、私はSNSのアカウントを開いた。
どれどれ、どんな投稿をしてくれたのか。
画面が切り替わり、パッと目に飛び込んできたのは先ほどモナが撮っていた『三つ葉書店』の画像だ。うん、ここまではいい。さて、キャプションにはなんて——。
モナが私の名前を呼んだかと思うと、私の腰のところに飛びついて来た。
「あわっ!?」
あやかし猫なので飛びつかれた感覚はないはずなのに、突然のことで何が何だか分からずに体勢を崩す。『やよい庵』の前で尻餅をつく私。ちょうど晩御飯の時間なので、やってきたお客さんに二度見される。「はは……どうも~」と愛想笑いを浮かべた。お客さんにはモナの姿が見えていないはずなので、私が一人で転んだと思っているだろう。「大丈夫ですか?」と声をかけられたが、私は思い切り首を横に振った。
「すみません、大丈夫ですっ」
慌てて立ち上がったところで足元を見ると、モナがちゃっかり私のスマホに触れようとしていた。
「ちょ、ちょっと何するの!」
モナに向かって小さく叫ぶ。虚空に向かって話しかけた私をいよいよ怪しい者だと思ったのか、お客さんはそっと私から距離を置いて『やよい庵』へと入っていった。
しまった……。私が『やよい庵』の店員だとバレなければいいけど……。
あとで知られてしまえばとても恥ずかしい。
はあ、とため息を吐きつつ、モナの方をキッと睨んだ。
しかし次の瞬間、モナはぼううううん、と煙に巻かれて人間の姿になっていた。
「あ——」
昨日目にしたばかりの綺麗な女の人が目の前に現れる。幸い通りには人がいなかったので、猫が化けるところは見られずに済んだ。まったく、なんで私がそんな心配しなきゃいけないんだろう——と呆れつつ、“三沢萌奈”を見つめる。
「えっと、すみません。ちょっとスマホ、お借りしたいんです」
「借りるって、何に使うんですか?」
「SNSです。『三つ葉書店』について、発信したいと思いまして」
SNSで、『三つ葉書店』を?
それってつまり、お店のPRをしたいってこと?
そういえば、『三つ葉書店』ってSNSはやっていないんだろうか——と疑問に思ったが、まあ聞くまでもないか。チラシさえ作っていない詩文さんが、SNSの運用なんて器用なことができるはずがない。
呆気に取られつつ、モナが私の写真投稿アプリを開くのをじっと見ていた。そのアプリは今、『やよい庵』のアカウントでログインしてある。「ちょっと——」と止めるまもなく、彼女が投稿欄を開く。さらに、『三つ葉書店』の外観の写真を撮影して、その写真を素早く投稿していた。
投稿は二つ。
一つは通常の写真の投稿と、もう一つは二十四時間限定で見られるリアルタイム発信での投稿だった。
キャプションまでは見えなかったけれど、一体何を書いてるのだろう。
『やよい庵』のアカウントで行われる一連の投稿作業を、ぽかんと口を開けて見守るしかなかった。
「ふふ、これで完了です。お客さん、来るかしら」
意味深な笑みを浮かべて、モナが私にスマホを返してくれた。
なんだか怖くてSNSを開けない。
すると、モナがにゃおんという鳴き声を上げた。いつのまにか猫の姿に戻っていたのだ。
「勝手に投稿なんかしないでほしいんだけど」
あやかし猫に戻った彼女に文句の一つでもくれてやる。人間のモナはなんだか性格がおっとりしていて控えめな感じなので、軽口を叩くには猫の姿の彼女の方がちょうどいい。
「いいじゃない。別に、減るもんでもないし。『三つ葉書店』にお客さんが来て欲しいって思ってるのはあなたも一緒でしょ」
「そりゃそうだけど……。SNS一つでそんなにお客さん来るか分かんないじゃん」
「でもやってみないと効果は0よ。ついでに『やよい庵』のPRにもなるんだし、一石二鳥だと思いなさい」
「……」
半信半疑のまま、私はSNSのアカウントを開いた。
どれどれ、どんな投稿をしてくれたのか。
画面が切り替わり、パッと目に飛び込んできたのは先ほどモナが撮っていた『三つ葉書店』の画像だ。うん、ここまではいい。さて、キャプションにはなんて——。
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