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第二話 三つ葉書店の大躍進
宣伝作戦開始
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「話は戻るんですけど、宣伝すれば大丈夫ですよね……お客さん、来てくれますよね」
「はい。きっと、大丈夫ですよ。なんならうちでもお客さんに紹介してみますー」
「うわあ、それは申し訳ないですよ!」
「そこは、『よろしくお願いします』でいいんですよ。こういうのは、ご近所さん同士、持ちつ持たれつですからね」
「はあ、そういうものなんですね。すみません、僕本当に商売初めてで、お付き合いとかもよく分かっていなくて」
申し訳なさそうにへこへこと頭を下げる詩文さん。私は、なんとかして彼の店にお客さんを呼ばなければという使命感に駆られてしまう。
「とにかく呼び込み作戦です! 詩文さん、お店の紹介チラシとかってありますか? 店舗カードとかでもいいです」
「チラシ……? 店舗カード……?」
異国の言葉でも聞いたような感じで、驚いた顔をして聞き返して来る詩文さん。お、おう。まじか。宣伝広告のことも本当に何も知らないんだな、この人は。
「はあ。そんなものすら用意してなかったんですね。まあいいです。どっちも今から作れば間に合いますから」
「そ、そっか。いやあ、僕としたことが、大事なところが抜けてました」
「……」
はっきり言って、抜けているところは何もチラシや店舗カードのことだけじゃない。そもそもこんな場所に書店なんて開こうと思ったところからおかしい。天然すぎる。とつっこみたくなったけれど、今そんなことを言っても余計に落ち込ませてしまうだけだからやめておこう。
「それで、チラシや店舗カードってどうやって作ったらいいんでしょう?」
そんなことも知らないのか——と、もはや呆れることもない。これがこの人のデフォルトなんだから、と自分に強く言い聞かせる。黒猫のモナが何か言いたげな顔で私の方をチラチラと見上げたけれど、無視。
「普通は誰かデザインができる人に制作をお願いして、あとは印刷会社に印刷してもらう感じですね。デザインが得意な人なら自分でデザインしてしまって、印刷するだけですけれど。詩文さんはそういうの得意ですか?」
「いや……全然」
予想通りの答えが返ってきた。大丈夫、ここまでは想定内だ。私は、コホンと一つ咳払いをしてこう提案した。
「それなら、良かったら私の知り合いにデザイナーがいるので、頼んでみましょうか? もちろん有償ですけど」
「え、いいんですか?」
「はい。うちの『やよい庵』のチラシなんかもその人にいつもお願いしてるんです。ロゴ制作なんかもやっている方で、紙の販促物ぐらいなら一週間ぐらいでチャチャっと作ってくれるかと」
「わ~ありがたいです! お、お願いしてもよろしいでしょうか!?」
「はいはい、分かりました」
まさに九死に一生を得たという感じでほっと胸を撫で下ろして目を輝かせる詩文さん。その純粋なまなざしを見ていると、頼りない彼のことをなんとか助けてあげたいという衝動に駆られるから不思議だ。もしかしたら、こんなふうに今まで女性を落としてきたんだろうか——って、そんなこと絶対ないって!
確かに外見は格好いいけど、彼氏にするなら頼れる男の方がいいに決まってる。
うん、だから詩文さんが女性にモテるようなことなんてないよね。
どうしてか、彼が異性に好かれないことを願っている自分がいて面食らう。
私、なんでそんなことを——。
詩文さんは私にとってお隣さんで、イケメンだけど頼りない店主で、どうにか協力して商売を盛り上げたいと思っている同志のような存在だ。まだ知り合って一週間だけれど、やっぱりお隣さんには頑張ってほしいという応援の気持ちが生まれていた。
うん、そうだよ。一緒に頑張って弥生小路を盛り上げないと!
そんなふうに言い訳みたいなことを考えている自分に、モナがじっとりとした視線を送っているように感じたのはきっと気のせいだろう。
「はい。きっと、大丈夫ですよ。なんならうちでもお客さんに紹介してみますー」
「うわあ、それは申し訳ないですよ!」
「そこは、『よろしくお願いします』でいいんですよ。こういうのは、ご近所さん同士、持ちつ持たれつですからね」
「はあ、そういうものなんですね。すみません、僕本当に商売初めてで、お付き合いとかもよく分かっていなくて」
申し訳なさそうにへこへこと頭を下げる詩文さん。私は、なんとかして彼の店にお客さんを呼ばなければという使命感に駆られてしまう。
「とにかく呼び込み作戦です! 詩文さん、お店の紹介チラシとかってありますか? 店舗カードとかでもいいです」
「チラシ……? 店舗カード……?」
異国の言葉でも聞いたような感じで、驚いた顔をして聞き返して来る詩文さん。お、おう。まじか。宣伝広告のことも本当に何も知らないんだな、この人は。
「はあ。そんなものすら用意してなかったんですね。まあいいです。どっちも今から作れば間に合いますから」
「そ、そっか。いやあ、僕としたことが、大事なところが抜けてました」
「……」
はっきり言って、抜けているところは何もチラシや店舗カードのことだけじゃない。そもそもこんな場所に書店なんて開こうと思ったところからおかしい。天然すぎる。とつっこみたくなったけれど、今そんなことを言っても余計に落ち込ませてしまうだけだからやめておこう。
「それで、チラシや店舗カードってどうやって作ったらいいんでしょう?」
そんなことも知らないのか——と、もはや呆れることもない。これがこの人のデフォルトなんだから、と自分に強く言い聞かせる。黒猫のモナが何か言いたげな顔で私の方をチラチラと見上げたけれど、無視。
「普通は誰かデザインができる人に制作をお願いして、あとは印刷会社に印刷してもらう感じですね。デザインが得意な人なら自分でデザインしてしまって、印刷するだけですけれど。詩文さんはそういうの得意ですか?」
「いや……全然」
予想通りの答えが返ってきた。大丈夫、ここまでは想定内だ。私は、コホンと一つ咳払いをしてこう提案した。
「それなら、良かったら私の知り合いにデザイナーがいるので、頼んでみましょうか? もちろん有償ですけど」
「え、いいんですか?」
「はい。うちの『やよい庵』のチラシなんかもその人にいつもお願いしてるんです。ロゴ制作なんかもやっている方で、紙の販促物ぐらいなら一週間ぐらいでチャチャっと作ってくれるかと」
「わ~ありがたいです! お、お願いしてもよろしいでしょうか!?」
「はいはい、分かりました」
まさに九死に一生を得たという感じでほっと胸を撫で下ろして目を輝かせる詩文さん。その純粋なまなざしを見ていると、頼りない彼のことをなんとか助けてあげたいという衝動に駆られるから不思議だ。もしかしたら、こんなふうに今まで女性を落としてきたんだろうか——って、そんなこと絶対ないって!
確かに外見は格好いいけど、彼氏にするなら頼れる男の方がいいに決まってる。
うん、だから詩文さんが女性にモテるようなことなんてないよね。
どうしてか、彼が異性に好かれないことを願っている自分がいて面食らう。
私、なんでそんなことを——。
詩文さんは私にとってお隣さんで、イケメンだけど頼りない店主で、どうにか協力して商売を盛り上げたいと思っている同志のような存在だ。まだ知り合って一週間だけれど、やっぱりお隣さんには頑張ってほしいという応援の気持ちが生まれていた。
うん、そうだよ。一緒に頑張って弥生小路を盛り上げないと!
そんなふうに言い訳みたいなことを考えている自分に、モナがじっとりとした視線を送っているように感じたのはきっと気のせいだろう。
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