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第六話 トラウマを消し去りたいあなたへ
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***
「明日のシフトのあと、話があるの」
詩乃さんが私に電話をしてきたのは、私が詩乃さんに自分の身の上話をして一週間が経った頃だった。
「話……ですか」
なんだろう。
やっぱりこの間のことだろうか。私が変な相談をしたばっかりに、詩乃さんに迷惑をかけてしまったからだろうか。
緊張しながらその日、午後から夕方までのシフトを終え、一階のこたつ席で待機すること十五分。
「こんにちは~」
店の扉を開けて、明るく挨拶をしてくれるお客さんがいた。聞き覚えのある声だと思い、声のする方を見れば、そこにいたのはすっきりとした黒髪のショートヘアの女の子。
「あなたは……」
「やだ、分かりませんか? あたしです。宮脇沙子です」
「え、沙子さん!?」
「そうですよ~もう、ひどいですね。忘れないでほしいです」
もちろん忘れたわけではない。他人に自分のことを上手く伝えられない、人間関係で悩んでいると打ち明けてくれた女子高生の宮脇沙子。以前は明るい茶色の髪をしていた。パーマ付きで。それが、どうだろう。今はすっかり大人びた髪型になっている。一瞬誰だか分からないほどに。
「ごめんなさい。沙子さん、あまりに変わってたから」
沙子は、「もぉ」と頰を膨らませて拗ねてみせる。その表情が、以前よりも素直で私は微笑ましいと感じた。
それから彼女が、「そこ、あたしも座っていいですか?」と聞くので、私は「どうぞ」と席を空ける。
と、そこで再び、
「失礼します」
と凛々しい声が。
「岡本さん?」
沙子と同じように店にやってきたのは、出版社に勤める岡本英介。こちらは部下に対する悩みを聞いてからというもの、時々交流があったためすぐに分かった。
「どうして岡本さんまで?」
タイミングを図ったかのように現れた岡本に対し、私は首をひねる。一体どうしたんだろう。なぜこうも、私が相談に乗った人たちが同時にやって来るんだろう。
しかし、そんな疑問に岡本や沙子が答える間もなく、今度は数人のお客さんと思われる人たちがすすすと店に入ってきた。
「こんにちは、菜花さん!」
「お久しぶりです」
「また来ると思ってなかったわ」
「まあまあ、そう言わずに」
見れば、失恋直後に落ち込んでいたところに声をかけ、今では大切な友達である藤野咲良や、その友人で将来の身の振り方で悩んでいた増田大輝、お子さんの死と向き合えなくて喧嘩していた早苗さん夫婦がなぜか勢揃いしていて。
皆、思い思いにこたつ席に上がり、私を取り囲むようにして座った。
「えっ、え?」
状況を呑み込めない私はとっさに正座になる。
なんということだ。これは絶対に偶然なんかじゃない。
そうだ、きっとこれは詩乃さんの——。
「明日のシフトのあと、話があるの」
詩乃さんが私に電話をしてきたのは、私が詩乃さんに自分の身の上話をして一週間が経った頃だった。
「話……ですか」
なんだろう。
やっぱりこの間のことだろうか。私が変な相談をしたばっかりに、詩乃さんに迷惑をかけてしまったからだろうか。
緊張しながらその日、午後から夕方までのシフトを終え、一階のこたつ席で待機すること十五分。
「こんにちは~」
店の扉を開けて、明るく挨拶をしてくれるお客さんがいた。聞き覚えのある声だと思い、声のする方を見れば、そこにいたのはすっきりとした黒髪のショートヘアの女の子。
「あなたは……」
「やだ、分かりませんか? あたしです。宮脇沙子です」
「え、沙子さん!?」
「そうですよ~もう、ひどいですね。忘れないでほしいです」
もちろん忘れたわけではない。他人に自分のことを上手く伝えられない、人間関係で悩んでいると打ち明けてくれた女子高生の宮脇沙子。以前は明るい茶色の髪をしていた。パーマ付きで。それが、どうだろう。今はすっかり大人びた髪型になっている。一瞬誰だか分からないほどに。
「ごめんなさい。沙子さん、あまりに変わってたから」
沙子は、「もぉ」と頰を膨らませて拗ねてみせる。その表情が、以前よりも素直で私は微笑ましいと感じた。
それから彼女が、「そこ、あたしも座っていいですか?」と聞くので、私は「どうぞ」と席を空ける。
と、そこで再び、
「失礼します」
と凛々しい声が。
「岡本さん?」
沙子と同じように店にやってきたのは、出版社に勤める岡本英介。こちらは部下に対する悩みを聞いてからというもの、時々交流があったためすぐに分かった。
「どうして岡本さんまで?」
タイミングを図ったかのように現れた岡本に対し、私は首をひねる。一体どうしたんだろう。なぜこうも、私が相談に乗った人たちが同時にやって来るんだろう。
しかし、そんな疑問に岡本や沙子が答える間もなく、今度は数人のお客さんと思われる人たちがすすすと店に入ってきた。
「こんにちは、菜花さん!」
「お久しぶりです」
「また来ると思ってなかったわ」
「まあまあ、そう言わずに」
見れば、失恋直後に落ち込んでいたところに声をかけ、今では大切な友達である藤野咲良や、その友人で将来の身の振り方で悩んでいた増田大輝、お子さんの死と向き合えなくて喧嘩していた早苗さん夫婦がなぜか勢揃いしていて。
皆、思い思いにこたつ席に上がり、私を取り囲むようにして座った。
「えっ、え?」
状況を呑み込めない私はとっさに正座になる。
なんということだ。これは絶対に偶然なんかじゃない。
そうだ、きっとこれは詩乃さんの——。
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