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第六話 トラウマを消し去りたいあなたへ

終わりだと思ったけど

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 ねえ、おばあちゃんは将来、何になりたい?

——おばあちゃんは書店員だから、もう何にもならないのよ。

 ええっ、そうなの? なーんだ、つまんないなあ。

——つまらないだなんて、全くこの子はねぇ。

 だって、小学校の先生が言ってたよ。将来の夢を持ちましょうって。

——そうかい。それは良い先生だね。なのちゃんは何になりたいの?

 わたし? へへん。わたしは、小説家になります!

——へえ、そりゃ素敵だ。あ、じゃあおばあちゃんの夢、今決めた。

 ほんと! なになに!

——おばあちゃんの夢はね、なのちゃんが書いた小説を、自分の書店に並べることよ。

 私が祖母から教えてもらった児童向けの本を読んでから密かに描いた夢を祖母に語った日。
 祖母が言ってくれたその言葉が、照れくさくて嬉しくて。それからずっと私にとって何よりの心の支えだった。
 中学、高校へと上がるうちに、部活や勉強で何かと忙しくなり、祖母に会いに行く機会はめっきり減っていた。中学二年生の夏休みに訪れたきり、高校時代、長いお休みがあってもなかなか祖母の住む田舎町まで行くことができなかった。

 転機が訪れたのは、高校二年生の冬のことだ。
 祖母が倒れたという知らせを聞いた。
 ちょうど冬休みで「あけましておめでとう」と家族でお祝いをしてからほんの数日経った頃だ。
 初詣や初売りには行き尽くしてしまい、「今日はのんびり家で過ごすか」と家族みんなが家の中でダラダラと休みを満喫していた時。
 真昼間に電話が鳴って、やることがないからと部屋の掃除をしていた母が受話器をとった。
 電話は祖母と一緒に暮らす、母の姉からだった。
 私からすれば伯母さんに当たる。
 伯母さんからの電話で、「ええ、うん……」と相槌を打つ母が突然、「ええ!?」と驚きの声を上げ、その声に私はビクンと肩を震わせた。

「そ、そう……。分かった」

 力の抜けた返事をした母は、そのまま受話器を置いて、各々だらけきった一日を送っていた私たち家族にこう告げた。

「おばあちゃんが、倒れたんだって」

 聞くところによると、祖母は在宅中に心臓の病で発作が起き、側にいた伯母が慌てて呼んだ救急車で病院まで搬送されたそうだ。
 伯母がたまたま側にいたからまだ良かったものの、もし祖母が一人きりだったら、それこそ祖母は助からなかったかもしれないと思うと、心から神様に感謝した。

「私、ちょっと様子見てくるわ」

 あと数日すれば学校が始まるという私を連れて行くことなく、母は一人で遠くの病院に入院している祖母の元へと見舞いに行った。
 数日経って帰ってきた母は、「うん、とりあえず今は大丈夫みたい」と冷静に言った。その様子とは裏腹に、祖母のことを心配していたせいか、数日前より頰が痩せているように見えた。
 かくして祖母が倒れた三谷家の事件はその年はそれ以上の展開に発展しなかった。もちろんそれはとても喜ばしいことだった。私もしばらくは心配だったが、新しい学期が始まってからというもの、再び忙しい毎日に追われ、祖母のこともそれほど思い出すこともなくなっていた。



「それで、終わりだと思ったんです」

 私は、隣で黙って話を聞いてくれている詩乃さんに、これから自分が話さなければならない出来事を考えると、心が痛くなる。

「そう……。大変だったんだね。でもそんなふうに言うってことは……まだ終わってないってことだよね」

「はい。終わりませんでした。終わってないというか、まだ始まってもなかったんです」
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