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アルキア王国

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「ん……うぅん……」

 時は少し遡り、アンナマリアのコチョコチョ攻撃でエリッサが悶絶していたころ。
 頬から広がる冷たい刺激で、ナターシャは静かに目を覚ましていた。

「あれ……ここは……?」

 床はヒンヤリと冷めた石畳、壁はゴツゴツと粗削りな岩塊。湿度や照度から推測するに、どうやら地上ではない模様。
 壁の一角は錆ついた鉄格子、つまりは地下牢らしき場所に閉じ込められているようだ。

「私は何を……そうだ、リィアンさん!」

 しばらくの放心を経て、意識を失う直前の出来事を思い出す。キョロキョロと周囲を確認するも、リィアンどころか誰の姿も見当たらない。

「どういうことでしょう、どうして私はこんな場所で……ひゃっ!?」

 どうしたものかと身を起こしたところで、思わず小さな悲鳴あげてしまう。
 意識を失っている間に、身ぐるみを剥がされてしまったのだろう。あろうことかナターシャは、下着と靴しか身に着けていなかったのである。

「あうぅ、スース―して寒いです……あれ、ヨグソードはどこへ?」

 下着と靴しか身に着けていない、つまりヨグソードは手元にない。置かれた状況を考慮すると、何者かに奪われたのであろうことは明白だ。

「ウルリカさんとアンナマリア様から預かった、大切な剣だったのに……落ち込んでいられません、取り返さなくては!」

 挫けてしまいかねない状況だが、ここでナターシャの逞しさが光る。豪快に鉄格子を蹴破ると、あっさりと地下牢から脱出したのである。

「ここは一体どこなのでしょう……」

 地下牢の外に広がる通路を、風の流れを頼りに進む。
 しばらく通路を進んだところで、やや開けた十字路へ到達。気配を殺して慎重に、曲がり角から顔を覗かせ──。

「あうっ!?」

「あらら?」

「何者っ!」

 曲がり角から顔を覗かせた瞬間、何者かとバッタリ遭遇。驚いたことに遭遇した相手は、ナターシャのよく知る人物だった。

「ええっ、ヴィクトリア様!?」

「あら、ナターシャちゃん?」

 なんと相手はヴィクトリア女王だったのである、見慣れない若い女性も一緒だ。
 二人はナターシャと同じように、身ぐるみを剥がされ下着姿である。とても目のやり場に困るが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「えっ、ええぇ!? どうしてヴィクトリア様が!?」

「大丈夫よナターシャちゃん、まずは落ちついて」

「はうぅ……」

 想定外の事態にもかかわらず、ヴィクトリア女王はまったく動揺していない。ナターシャの不安を和らげるように、優しく抱き締めて頭をナデナデ。

「ヴィクトリア様、そちらの少女は知人ですか?」

「この子はナターシャちゃん、私の可愛い教え子よ」

「あの、そちらの女性はどなたでしょう?」

「彼女はヴィエーラ、私を護衛してくれている聖騎士なの」

「聖騎士の方でしたか、はじめまして!」

「……聖騎士のヴィエーラです、先ほどは驚かせてしまい申し訳ございませんでした」

 聖騎士“ヴィエーラ”は丁寧に謝りながら、片膝をついてナターシャをナデナデ。血気盛んな聖騎士の一員だとは思えないほど、おっとりと優しい雰囲気の女性である。

「ところでヴィクトリア様、私達は一体?」

「そうよね、混乱しちゃうわよね」

「気づいたらここにいて、分からないことばかりで……」

「分かる範囲で説明しておくわね、どうやら私達は敵に捕らえられているらしいの。犯人はガレウス邪教団、もしくはアルキア王国の者達よ」

「授業で習いました、アルキア王国はロムルス王国の北方に位置する国ですよね?」

「その通りよ、しっかり授業を覚えててくれて嬉しいわ。確証はないけれど、ここは恐らくアルキア王国なの。その他で分かることは、そうね……」

 ヴィクトリア女王も状況の把握に至っていないのだろう、それでも分かる範囲で状況を伝えようとしてくれる、とその時──。


 ──ズズンッ──。


 通路の奥から響く衝撃、それは紛れもなく時空間魔法の衝撃だ。
 三人は会話を中断し、無言で通路の先を凝視。真っ暗で何も見えないが、ドロドロとした威圧感は感じられる。

「今の衝撃、只事ではありませんね」

「見過ごせないわ、様子を見にいきましょう」

「分かりました、そっと静かに……ですね!」

 三人は小さく頷き、終わりのない暗闇の奥へと足を運ぶ──。
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