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再び深夜の宮殿

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 月色に浮かぶデナリウス宮殿は、昼間と異なる妖艶な美しさを纏う。透き通るせせらぎも相まって、この世のものとは思えない幻想的な世界を作り出す。
 そんなデナリウス宮殿の一室から、なんとも似つかわしくない呻き声が漏れ聞こえていた。

「くうぅ、まだヒリヒリするっす……」

 声の主はアンナマリアだ、ピクピク震えては繰り返し呻いている。日焼け跡を擦ってしまうため、身動ぎすら困難な様子。
 傍らのアルフレッドとフラム王は、この上なく気まずそうだ。

「アンナマリア様、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないっす……アルフレッド君、なんとかしてっす……」

「非常に残念ですが、私に出来ることはありません」

「んぐぅ……」

 アンナマリアは目に涙を浮かべ、必死にヒリヒリを堪えている。だがそもそも日焼け止めを怠ったのはアンナマリア本人、つまりは自業自得でしかない。

「もういいっす、日焼けのことは無視して本題をおぉ……。二人に伝えておきたいことがあぁ……」

「しかしアルテミア様、ご無理は禁物かと──」

「邪神ガレウスは完全復活を果たしてないっす、直ちにひぐっ……直ちに完全復活するようなこともないっす」

「──っ!」

 ガレウスの話題となるや、応接間の空気はピンと張り詰める。一瞬にして室内の空気を、丸ごと入れ替えたかのよう。

「ガレウスは全盛期の私と互角に渡りあった怪物っす、完全復活してればふぐぅ……逃げたりしないはずっす。恐らくどこかで膨大な魔力を手に入れ、強引に中途半端な復活はうぅ……復活をしただけっす」

「だとしたらアンナマリア様、さらに魔力を集め完全復活する可能性は?」

「それは絶対に無理っす」

 アルフレッドの疑問を、アンナマリアはキッパリと否定する。

「ガレウスは千年前の戦いで、ウルリカの終焉魔法に飲み込まれたっす。あの魔法ひぎっ……あの魔法は特別っす、普通は復活すら出来ないっす」

「特別な魔法といいますと?」

「それはウルリカ本人に聞いてほしいっすね、とにかく魔力だけで破れるほどくひっ……ウルリカの終焉魔法は甘くないっす。時空剣ヨグソードのような神器を用い、時間と空間をひゃっ……歪めれば破れるかもしれないっす」

「ではヨグソードさえ守れば、完全復活は防げるのですね?」

「そういうことっす」

 ひとまず最悪の事態は免れている、しかし予断を許さない状況に違いない。完全復活の可能性を想定し、出来うる限りの対策を練っておくべきだろう。そこまで考えたところで、アルフレッドは異変に気づく。

「フラム王、どうされました?」

「ん? ああいや……」

 どういうわけかフラム王はポカンと固まっていた、その目はアンナマリアを凝視したまま動かない。

「私の顔に何かついてるっすか?」

「いえその、アルテミア様は千年前から生きておられるのですか?」

「あっ……もしかしてフラム君に、私が勇者アルテミア本人だって説明し忘れてたかもっす」

「ええ、完全に聞かされておりません」

「千年前の出来事とか、ウルリカの正体も?」

「そうですね、何も説明されておりません」

 なんとまさかの、アンナマリアはフラム王に前提となる説明をしていなかった。その上で千年前の話を聞かされていたとなれば、固まってしまうのも無理ないだろう。
 アンナマリアは立ちあがり、頭を下げながらフラム王の元へ。

「それは申し訳ないっす!」

「いえまあ、これまでの出来事や話の流れで察しはついております。先ほどのお話も概ね理解しました、お気になさらなくとも大丈夫ですよ」

「いやいや悪かったっす、ごめんっす──ぎゃんっ!?」

 ペコペコしていたせいか、アンナマリアは机の角に足の小指をぶつけてしまう。衝撃ですってんころりん、日焼けした背中でポテッと着地。小指から伝わる鋭い刺激、背中から広がる鈍い刺激、そして訪れる地獄の激痛。

「うぎゃああぁーっ!?」

「アルテミア様!」

「痛いっす! ヒリヒリするっす! 誰か助けてっすー!!」

 日焼け止めを怠り、フラム王への説明を忘れ、小指をぶつけて悶絶する始末。なんともそそっかしく、そして愛らしい勇者様なのであった。
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