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百獣

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 王都に広がる混乱の波。
 その中心地では、聖騎士ガーランドと怪鳥サンダーバードによる激しい戦いが繰り広げられていた。

「おおぉ!」
  
 漆黒の鎧は砕け、額は血で赤く染まり、それでも果敢に剣を振るうガーランド。まさに一騎当千の実力で、徐々にサンダーバードを追い詰めていく。

「クアアーッ!」

 対するサンダーバードは三枚の翼を斬り落とされていた。にもかかわらず凶暴性は増すばかり、放つ稲妻は徐々に威力を増していく。

「ふぅ……敵ながら見事な戦いっぷりだ!」

「クオオォ……」

「ではそろそろトドメといくぞ!」

「クク……クオオッ!」

「うおおーっ!!」

 互いに残された力はわずか、最後の力を振り絞り渾身の一撃を繰り出す。
 迸る斬撃、轟く稲妻、衝突によって空気は弾ける。

「ク……クク……」

「はぁ……はぁ……」

「クアァ……」

 四枚目の翼を斬り落とされ、深々と胴体を貫かれ、ついにサンダーバードは力尽きる。
 ガーランドもかなりの重傷だが、強靭な精神力により決して倒れはしない。

「はぁ、終わりか……」

 壮絶な戦いはガーランドの勝利で幕を閉じた。
 辛勝ではあったものの、勝利に安堵するガーランド。しかし──。

「ク……ク……、グエエッ!」

「なんだと!?」

 トドメを刺したにもかかわらず、サンダーバードは再び激しく暴れ回る。ボロボロの胴体を引きずりながら、ガーランドへと襲いかかる。

「グエエーッ!!」

「しまった!」

 隙を突かれたガーランドは反応に遅れてしまう。咄嗟に剣を構えたものの、すでにサンダーバードは間近まで迫っている。
 もはや絶体絶命かと思われたその時、突如として飛来した人影がガーランドの前に割って入る。

「そこまでよぉ」

「グエエッ!?」

 飛び込んできた人影は、迫るサンダーバードの嘴を軽々と片手で掴み取る。
 予期せぬ出来事にガーランドは、剣を構えたまま動くことすら出来ない。

「グエッ! グエッ!」

「あらぁ? 様子が変ねぇ、生の気配を感じないわぁ」

「グエェ……」

「この子はアンデットなのねぇ、死ぬことも許されず強引に戦わされているのねぇ」

 現れた人影、百獣ヴァーミリアは悲しそうに表情を曇らせ、サンダーバードの嘴から手を放す。

「いいわぁ……これ以上苦しまないよう、ペロリと平らげてあげるわぁ」

「グエッ! グエエエーッ!!」

「さあ、きなさぁい」

 サンダーバードは稲妻を放ちながら、ヴァーミリアへと襲いかかる。
 対するヴァーミリアは両腕を胸の前であわせると、ゆっくりサンダーバードの方へと向ける。

「……いただきます」

 次の瞬間ヴァーミリアの両腕は、ギュルギュルとねじれて蠕虫の形へと変化する。
 トゲに覆われた漆黒の胴体、円口類に似たギザギザの牙、サンダーバードですら小鳥に見えてしまうほどの巨大な蠕虫だ。
 蠕虫はガリガリと牙を回転させ、サンダーバードへと齧りつく。

「クアアッ!?」

「じっとしててねぇ、すぐ終わるわぁ」

「ク……グァ……ッ」

 バリバリと骨の砕ける音、くぐもったサンダーバードの鳴き声。僅か数秒の間に、蠕虫はサンダーバードを食い尽くしてしまう。

「ふう、おしいかったわぁ」

 大物を平らげて満足気なヴァーミリア。
 一方のガーランドは、あまりにも現実離れした光景を前に腰を抜かしていた。

「な……なんだ今のは……!?」

 腰を抜かすガーランドを尻目に、ギュルギュルと蠕虫を縮め両腕に戻すヴァーミリア。

「ふふっ、さて次は……」

 そして遥か遠方へと視線を送り、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるのだった。
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