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王子と国王

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 深夜。
 吸血鬼もぐっすりおやすみの時刻。

 ゼノン国王の執務室に薄っすらと明かりが灯っていた。

「──以上の情報から、邪神を信奉する集団は大陸北部を中心に活動していると推測します」

「ロアーナの町も北部だったな、お前の推測とも一致する」

「各地で危険な儀式を繰り返しているようです、このまま看過することは出来ません」

 ソファに腰かけ話しているのはゼノン王とアルフレッドである、どうやらガレウス邪教団に関する情報共有をしているようだ。

「北部の国々に注意喚起を行い協力関係を結びましょう、国家間で情報を共有し対策をとるのです」

「しかし北部は閉鎖的な国ばかりだ、そう簡単に協力関係を結べるものだろうか……」

「私にお任せください、必ずや協力関係を結んで見せます」

「ふっ……お前にならば安心して任せられるな、頼むぞアルフレッドよ」

 アルフレッドの才覚はゼノン王に匹敵すると言われている、少女に対して暴走する癖さえなければ次期国王に最も相応しい人物だろう。

「ところで父上はどのようにして邪神に関する情報を得ているのですか?」

「実はアルテミア正教の教主と友達になってな、彼女から情報を提供してもらった」

「教主様と友達ですか、それはなんとも凄まじい人脈ですね。やはり父上には敵いません……」

 アルフレッドも驚くほどの人脈をあっさりと築いてしまう、ゼノン王もまた賢王と呼ばれる逸物なのである。

「では今後も定期的に情報を共有しましょう」

「もちろんだ、しかし情報の取り扱いには気をつけろよ?」

「それはどういう意味で?」

「奴等はどこに潜んでいるか分からん、ロムルス王国の貴族であったアルベンス伯爵もガレウス邪教団の者であったのだ、それに──」

 ゼノン王はゆっくりと天井を指差す。

「執務室の天井裏に吸血鬼が潜んでいたこともあるのだからな」

「天井裏に吸血鬼!?」

 思わぬ事実を聞かされて、アルフレッドは驚きの表情を隠せない。

「城内にまでガレウス邪教団の者が潜んでいるということですか……」

「あの時はウルリカのおかげで大事には至らなかった、しかし警戒は必要だろうな」

「そうでしたか……ん? もしやウルリカと言いましたか?」

 ウルリカ様の名を聞いてアルフレッドはコクリと首を傾げる。

「ウルリカとは愛しき少女の名ですよね? 彼女のおかげで大事に至らなかったとはどういう意味でしょう?」

「そういえばウルリカのことを説明していなかったな」

「そもそも彼女は何者なのでしょうか、王族や貴族ではなさそうでしたが……」

「ウルリカは学校に通うため魔界からやってきた魔王だ、ついでに吸血鬼の真祖でもあるらしい。ああ見えて俺達よりはるかに年上でな、実力はまさに人外の──」

「なんですって!?」

 興奮した様子で立ちあがるアルフレッド、なにやら目をギンギンに血走らせている。

「私達より年上!? しかし外見は幼い少女だった、つまり彼女は永遠に愛らしい少女の姿のままということですか!」

「そういうことになる──」

「なんという奇跡の存在! 彼女こそ神からの贈り物に違いない!」

 ボロボロと涙を流しながらピョンピョンと舞い踊るアルフレッド、もはやガレウス邪教団のことなど忘れ去ってしまったかのようだ。

「神よ! 彼女との出会いに心から感謝します!」

「おいおい、魔王との出会いを神に感謝してどうする……」

 執務室に響くゼノン王の冷静なツッコミ。
 こうしてロームルス城の夜は更けていく。
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