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魔王様の笑顔

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「ふむふむ……ふむふむ……」

 ここはロアーナの町、宿屋の一室。
 静かに眠るヴィクトリア女王の傍で、ウルリカ様はベッドに腰かけ、じっと目を閉じていた。使い魔として放ったコウモリを通じて、各地の状況を確認しているのである。

「どうやらロアーナの町は守られたようじゃな、ロティもみんなも本当によく頑張ったのじゃ」

 ロアーナの町では下級クラスの女子生徒、男子生徒が合流していた。ロアーナ兵とともに勝利を喜びあっている。

「クリスティーナの魔法は見事じゃったな、しかし魔力を使いすぎておるようじゃ。エリザベスも無理をしすぎじゃな、元気に振舞っておるがフラフラしておる」

 ロアーナ高原では、ロアーナ軍と黒いローブの男達が戦っていた。ロアーナ軍は必死の抵抗を見せる、しかし疲弊しきったロアーナ軍は徐々に追い詰められていく。
 一方ロアーナ要塞では、蘇ったワイバーンの群れが空を埋め尽くしていた。ロアーナ要塞の兵士達もすっかり疲弊している、あまり長くはもたないだろう。

「うーむ……そろそろ限界じゃな」

 そう言うとウルリカ様は、おもむろにベッドから立ちあがる。そして一歩を踏み出したところでピタリと足を止めてしまう。

「どこへいくの……ウルリカちゃん……?」

「目が覚めたのじゃな!」

 目を覚ましたヴィクトリア女王がウルリカ様のスカートを掴んでいたのだ。

「お主の娘達が危険な目にあっておるのじゃ、助けにいってくるのじゃ」

「娘って……まさかシャルロット……!?」

「ロティは無事なのじゃ、クラスメイトと力をあわせて吸血鬼を撃退したのじゃ。しかしクリスティーナとエリザベスは危ういのじゃ」

「そんな……クリスティーナとエリザベスも戦っていたの……!?」

 驚くのも無理はないだろう、ヴィクトリア女王はロアーナ高原やロアーナ要塞の状況を知らないのだ。
 娘達の窮地を知らされ、起きあがろうとするヴィクトリア女王。しかしウルリカ様に優しく止められてしまう。

「無理をするでない、ヴィクトリアはここで休んでおくのじゃ。クリスティーナとエリザベスのことは妾に任せておくのじゃ」

「でも……ウルリカちゃん一人で……」

「心配は無用なのじゃ」

 ウルリカ様は窓をあけると、窓枠に片足をかける。

「なにしろ妾は魔王じゃからな!」

 そしてクルリと振り返り、ニパッと満面の笑顔を浮かべる。この世で最も頼もしい、魔王様の笑顔である。

「ウルリカちゃん……分かったわ、クリスティーナとエリザベスをお願いね……」

「うむ! 任せるのじゃ!」

 答えると同時にウルリカ様は窓枠を蹴って空へと飛び立つ、そしてあっという間に空の彼方へと消え去ってしまう。まったくもって凄まじい速度である。

「クリスティーナ、エリザベス! 今いくのじゃ!」

 さあいよいよ、魔王ウルリカ様の出陣である。
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