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魔王と少女達の日常 その四
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特別授業から一夜明けて、今日から通常授業再開だ。
眩い朝日に照らされながら、下級クラスの教室塔へ向かうシャルロットとナターシャ、そしてヘンリーの三人。
教室塔の手前まできたところで、三人は揃って足を止める。なにやら教室塔の中から、怪しい物音が聞こえてくるのである。
「なんだか騒がしいですわね、なにかあったのかしら?」
中の様子を伺うべく、シャルロットは扉についた小窓を覗き込もうとする。と同時にバンッと扉を吹き飛ばして、ゴロゴロと人影が飛び出してくる。
「ぎゃぅっ!?」
「えっ……クリスティーナお姉様!?」
中から飛び出してきたのは、ロムルス王国の第一王女クリスティーナだ。どういうわけか全身ボロボロの、あられもない姿である。
「お姉様? ここで一体なにをしていますの?」
「シャルロット……ちょうどいいところに……アレをなんとかして……」
ボロボロのクリスティーナは、地面に倒れたまま教室塔の中を指差す。クリスティーナが指差しているのは、ウルリカ様によって設置された女性型の受付ゴーレムだ。
《部外者を排除いたしました》
ギギギッと音を立てて、受付ゴーレムはペコリとお辞儀をする。その様子を見てヘンリーは、おおよその状況を理解する。
「なるほど……あの受付ゴーレムは部外者を撃退するらしいですからね。部外者であるクリスティーナ様を撃退してしまったというわけですね」
「そういうことですか……って、ちょっと待ってください。どうしてクリスティーナ様は、私達の教室塔に入ろうとしているのですか?」
「わ……私は部外者じゃない……ただ本を読みたいだけ……」
「本をですの?」
「そう……昨日の本を……読みに来た……」
「「「「えぇっ!?」」」」
クリスティーナの思わぬ発言に、三人は揃って驚きの声をあげてしまう。
「昨日の本というと、特別授業でお見せした魔法学大全ですかね?」
「授業中はあんなに否定されていたのに……」
「それはそれ……これはこれ……とにかく読みたいの……」
「そ……そうですの……」
自分勝手な姉の言い分に呆れてしまうシャルロット。一方のヘンリーは、教室塔を見あげながら困った表情を浮かべている。
「残念ながら魔法学大全は、教室に戻してしまいましたね」
「でしたら本を取りに行く間、お姉様にはここで待っていてもらうしかありませんわね」
「そうですね。受付ゴーレムを止める方法なんて、私達には分かりませんものね」
そう言って本を取りに行こうとするナターシャを、ヘンリーは「待ってください」と制止する。そしてクリスティーナを立たせると、慎重に受付ゴーレムの前まで連れて行く。
「ゴーレムさん! こちらの方はボクの友人です、なので中に入れてあげてください!」
《友人……お友達……お友達は大切な存在……かしこまりました》
ペコリとお辞儀をした受付ゴーレムは、それっきり動かなくなってしまう。どうやらクリスティーナを部外者とは認識しなくなったらしい。
「勝手ながらクリスティーナ様をボクの友人扱いにしました、でもこれで教室塔に入れますよ」
「構わない……ありがとう……」
「魔法学大全は四階の“研究書大量教室”に置いてあります、案内しますね」
「“研究書大量教室”……楽しみ……」
ヘンリーの見事な機転によって、受付ゴーレムを攻略したクリスティーナ。そのままヘンリーに連れられて、昇降機で四階へと昇っていく。
そんな二人の様子を、シャルロットは不思議そうに首を傾げながら眺めている。
「ヘンリーは急に親切になりましたわね、それになんだか嬉しそうに見えますわ」
「きっとヘンリーさんは、本に興味を持ってもらえて嬉しいのだと思いますよ」
「なるほど……きっとそうですわね!」
一度は納得して頷いたシャルロット、しかし再びコクリと首を傾ける。
「ところでお姉様は、あんなに服をボロボロにされて気にならないのかしら……?」
「そう……ですね……。色々と見えてしまっていましたね……」
「ヘンリーはあんなにボロボロなお姉様と一緒にいて、気にならないのかしら……?」
「そう……ですね……。不思議ですね……」
そう言ってコクリと首を傾げる、シャルロットとナターシャなのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
窓から差し込む黄色い日差しに、キラキラと輝く緑の庭園。
ここは教室塔の三階“優雅なるお茶会教室”。豪華なティーテーブルに座っているのは、ロムルス王国の三王女であるシャルロットとエリザベス、そしてクリスティーナである。
「ふぅ……美味しい……」
優雅な仕草で紅茶を飲む、ボロボロの服を着たクリスティーナ。優雅なのにボロボロという、なんともよく分からない状態だ。
「姉上……その格好はどうにかならないのか……?」
「そうね……これは魔法ではどうにもならない……」
「魔法とかそういうことではなく、単純に着替えればいいだけだと思いますわよ」
「着替える……?」
どうやらクリスティーナは“着替える”という発想にいたらないようである。天然すぎる姉の言動に、すっかり呆れてしまう妹二人。
「それにしても、姉妹でお茶会など久しぶりだな!」
「そうね……ずいぶん久しぶりね……」
「クリスティーナお姉様もエリザベスお姉様も、王都から離れていましたものね」
ゆったりと会話を楽しみながら、三姉妹は揃って紅茶に口をつける。見た目も性格もバラバラなのに、息はピッタリな三姉妹である。
「久しぶりといえば……しばらく見ない間に……シャルロットは大人びた雰囲気になった……」
「町では太陽の天使と呼ばれているそうだな! 騎士団の間では勝利の女神と呼ばれていた! ずいぶんと派手な二つ名をつけられたものだな!」
「ハッハッハッ」と大きな笑い声をあげるエリザベス。一方のシャルロットは、ムッとした表情を浮かべる。
「でしたらエリザベスお姉様は“鬼の特訓で半泣き騎士様”なんて二つ名はどうですの?」
「ぐっ……」
ジュウベエによる鬼の特訓を思い出してしまい、言葉に詰まるエリザベス。
「へぇ……シャルロットは天使で女神なのね……」
「くすくすくす」と小さな笑い声をあげるクリスティーナ。一方のシャルロットは、さらにムッとした表情を浮かべる。
「でしたらクリスティーナお姉様は“ウルリカの魔法でお尻ヒリヒリ魔法使い様”なんて二つ名はどうですの?」
「うっ……」
昨日の特別授業で痛い目にあったことを思い出してしまい、言葉に詰まるクリスティーナ。
いつの間にやらシャルロットに頭のあがらなくなってしまった、二人の姉なのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
月明りの眩しい夜の時間。
学生寮の一室に、騒がしい声が響いていた。
「ドーンなのじゃ!」
ピョーンッと勢いよくベッドに飛び込むウルリカ様。フワフワの寝間着で無邪気にはしゃぐ姿はとても可愛らしい。
しかし面倒を見るオリヴィアはとても大変そうだ。
「待ってくださいウルリカ様、ちゃんと髪を拭かないと風邪をひいてしまいますよ」
「大丈夫なのじゃ! 妾は風邪なんかひかんのじゃ!」
オリヴィアの忠告を無視して、ウルリカ様はベッドの上をゴロゴロと転がっている。
右へ左へとピョコピョコ揺れる、ウルリカ様の小さな素足。それを追いかけて小さな黒い影が、ベッドへと飛び込んでいく。
「ミャォッ!」
「もうっ……カーミラちゃんまで……」
「今日の学校も楽しかったのじゃ! きっと明日も楽しいのじゃ!」
「ミャォミャォ!」
「……そういえばウルリカ様、学校といえばアレはよかったのですか?」
「ふむ? アレとはなんじゃろうな?」
オリヴィアは難しそうな表情を浮かべている。どうやら学校で懸念な出来事があったらしい。
「生徒全員に第五階梯魔法を教えたことです、今日は朝から学校中で大騒ぎになっていましたよね」
「それは問題ないのじゃ!」
「ミャーォッ」
「特別授業の時にも言ったはずじゃ。銀星術式で覚えた魔法は、放っておくとすぐに忘れてしまうのじゃ」
「ミャミャッ」
「いずれは元の状態に戻るはずなのじゃ、そうなれば騒ぎもおさまるはずなのじゃ」
ウルリカ様の説明を聞いて、ホッと胸を撫でおろすオリヴィア。しかし次の瞬間には、ギョッと目を見開くことになる。
「ロームルス学園の生徒で第五階梯魔法を使えるのは、妾とリヴィくらいじゃろうな」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は第五階梯魔法なんて使えませんよ?」
「なにを言っておるのじゃ? リヴィはすでに第五階梯魔法を使えるではないか」
「……はい?」
「以前リヴィに教えた“デモヒール”は第五階梯魔法なのじゃ」
「えぇぇっ!?」
驚きの事実を聞かされたオリヴィアは、珍しく大声をあげてしまう。口をパクパクさせながら、どうにかこうにか言葉を発する。
「わ……私……第五階梯魔法を使えるのですね……」
「うむ! リヴィには治癒魔法の才能があるからの、いずれは第六階梯魔法だって使えるようになるはずなのじゃ!」
第六階梯魔法と言われて、いよいよオリヴィアのあいた口は塞がらない。しばらくポカンと呆けていたオリヴィアは、突然キリっと表情を切り替えて真剣な目つきでウルリカ様を見つめる。
「だったらウルリカ様! いつか私に第六階梯魔法を教えてください!」
「ふむ?」
「もっともっと強力な治癒魔法を覚えて、大切なお友達を助けられるようになりたいです!」
「うむ! リヴィはいい子じゃな!」
ウルリカ様に頭を撫でられながら、オリヴィアはグッと拳を握りしめる。
新たな決意を固めたオリヴィア。こうして夜は、穏やかに更けていくのだった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
これまでに出てきた魔法を一挙紹介するのじゃ!
✡第一階梯魔法✡
魔法名:火魔法
使用者:ウルリカ様 (第10話)、シャルル
✡第二階梯魔法✡
魔法名:火魔法、氷魔法、雷魔法
使用者:受験生達 (第10話)
魔法名:光魔法
使用者:ヘンリー
✡第三階梯魔法✡
魔法名:炎魔法
使用者:シャルロット
✡第四階梯魔法✡
魔法名:拘束魔法
使用者:ウルリカ様
魔法名:重力魔法
使用者:ウルリカ様
✡第五階梯魔法✡
魔法名:治癒魔法デモヒール
使用者:ウルリカ様、オリヴィア
魔法名:滅亡魔法デモホロウ
使用者:ウルリカ様
魔法名:創造魔法デモクラフト
使用者:ウルリカ様
魔法名:雷撃魔法サンダースピアー
使用者:ラヴレス副学長
魔法名:風撃魔法エメラルドブラスト
使用者:ノイマン学長
魔法名:召喚魔法サモンゲート
使用者:アルベンス伯爵
魔法名:紫炎魔法デスフレア
使用者:アルベンス伯爵
✡第六階梯魔法✡
魔法名:雹雪魔法ヘイルブリザード
使用者:ノイマン学長
魔法名:治癒魔法デモン・ヒール
使用者:ウルリカ様
魔法名:滅亡魔法デモン・ホロウ
使用者:ウルリカ様
魔法名:煉獄魔法デモン・ゲヘナ
使用者:ウルリカ様
✡第七階梯魔法✡
該当なし
✡?階梯魔法✡
魔法名:時空間魔法
使用者:ウルリカ様
これからも驚きの魔法が続々登場するのじゃ、楽しみにしておるのじゃ!!
眩い朝日に照らされながら、下級クラスの教室塔へ向かうシャルロットとナターシャ、そしてヘンリーの三人。
教室塔の手前まできたところで、三人は揃って足を止める。なにやら教室塔の中から、怪しい物音が聞こえてくるのである。
「なんだか騒がしいですわね、なにかあったのかしら?」
中の様子を伺うべく、シャルロットは扉についた小窓を覗き込もうとする。と同時にバンッと扉を吹き飛ばして、ゴロゴロと人影が飛び出してくる。
「ぎゃぅっ!?」
「えっ……クリスティーナお姉様!?」
中から飛び出してきたのは、ロムルス王国の第一王女クリスティーナだ。どういうわけか全身ボロボロの、あられもない姿である。
「お姉様? ここで一体なにをしていますの?」
「シャルロット……ちょうどいいところに……アレをなんとかして……」
ボロボロのクリスティーナは、地面に倒れたまま教室塔の中を指差す。クリスティーナが指差しているのは、ウルリカ様によって設置された女性型の受付ゴーレムだ。
《部外者を排除いたしました》
ギギギッと音を立てて、受付ゴーレムはペコリとお辞儀をする。その様子を見てヘンリーは、おおよその状況を理解する。
「なるほど……あの受付ゴーレムは部外者を撃退するらしいですからね。部外者であるクリスティーナ様を撃退してしまったというわけですね」
「そういうことですか……って、ちょっと待ってください。どうしてクリスティーナ様は、私達の教室塔に入ろうとしているのですか?」
「わ……私は部外者じゃない……ただ本を読みたいだけ……」
「本をですの?」
「そう……昨日の本を……読みに来た……」
「「「「えぇっ!?」」」」
クリスティーナの思わぬ発言に、三人は揃って驚きの声をあげてしまう。
「昨日の本というと、特別授業でお見せした魔法学大全ですかね?」
「授業中はあんなに否定されていたのに……」
「それはそれ……これはこれ……とにかく読みたいの……」
「そ……そうですの……」
自分勝手な姉の言い分に呆れてしまうシャルロット。一方のヘンリーは、教室塔を見あげながら困った表情を浮かべている。
「残念ながら魔法学大全は、教室に戻してしまいましたね」
「でしたら本を取りに行く間、お姉様にはここで待っていてもらうしかありませんわね」
「そうですね。受付ゴーレムを止める方法なんて、私達には分かりませんものね」
そう言って本を取りに行こうとするナターシャを、ヘンリーは「待ってください」と制止する。そしてクリスティーナを立たせると、慎重に受付ゴーレムの前まで連れて行く。
「ゴーレムさん! こちらの方はボクの友人です、なので中に入れてあげてください!」
《友人……お友達……お友達は大切な存在……かしこまりました》
ペコリとお辞儀をした受付ゴーレムは、それっきり動かなくなってしまう。どうやらクリスティーナを部外者とは認識しなくなったらしい。
「勝手ながらクリスティーナ様をボクの友人扱いにしました、でもこれで教室塔に入れますよ」
「構わない……ありがとう……」
「魔法学大全は四階の“研究書大量教室”に置いてあります、案内しますね」
「“研究書大量教室”……楽しみ……」
ヘンリーの見事な機転によって、受付ゴーレムを攻略したクリスティーナ。そのままヘンリーに連れられて、昇降機で四階へと昇っていく。
そんな二人の様子を、シャルロットは不思議そうに首を傾げながら眺めている。
「ヘンリーは急に親切になりましたわね、それになんだか嬉しそうに見えますわ」
「きっとヘンリーさんは、本に興味を持ってもらえて嬉しいのだと思いますよ」
「なるほど……きっとそうですわね!」
一度は納得して頷いたシャルロット、しかし再びコクリと首を傾ける。
「ところでお姉様は、あんなに服をボロボロにされて気にならないのかしら……?」
「そう……ですね……。色々と見えてしまっていましたね……」
「ヘンリーはあんなにボロボロなお姉様と一緒にいて、気にならないのかしら……?」
「そう……ですね……。不思議ですね……」
そう言ってコクリと首を傾げる、シャルロットとナターシャなのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
窓から差し込む黄色い日差しに、キラキラと輝く緑の庭園。
ここは教室塔の三階“優雅なるお茶会教室”。豪華なティーテーブルに座っているのは、ロムルス王国の三王女であるシャルロットとエリザベス、そしてクリスティーナである。
「ふぅ……美味しい……」
優雅な仕草で紅茶を飲む、ボロボロの服を着たクリスティーナ。優雅なのにボロボロという、なんともよく分からない状態だ。
「姉上……その格好はどうにかならないのか……?」
「そうね……これは魔法ではどうにもならない……」
「魔法とかそういうことではなく、単純に着替えればいいだけだと思いますわよ」
「着替える……?」
どうやらクリスティーナは“着替える”という発想にいたらないようである。天然すぎる姉の言動に、すっかり呆れてしまう妹二人。
「それにしても、姉妹でお茶会など久しぶりだな!」
「そうね……ずいぶん久しぶりね……」
「クリスティーナお姉様もエリザベスお姉様も、王都から離れていましたものね」
ゆったりと会話を楽しみながら、三姉妹は揃って紅茶に口をつける。見た目も性格もバラバラなのに、息はピッタリな三姉妹である。
「久しぶりといえば……しばらく見ない間に……シャルロットは大人びた雰囲気になった……」
「町では太陽の天使と呼ばれているそうだな! 騎士団の間では勝利の女神と呼ばれていた! ずいぶんと派手な二つ名をつけられたものだな!」
「ハッハッハッ」と大きな笑い声をあげるエリザベス。一方のシャルロットは、ムッとした表情を浮かべる。
「でしたらエリザベスお姉様は“鬼の特訓で半泣き騎士様”なんて二つ名はどうですの?」
「ぐっ……」
ジュウベエによる鬼の特訓を思い出してしまい、言葉に詰まるエリザベス。
「へぇ……シャルロットは天使で女神なのね……」
「くすくすくす」と小さな笑い声をあげるクリスティーナ。一方のシャルロットは、さらにムッとした表情を浮かべる。
「でしたらクリスティーナお姉様は“ウルリカの魔法でお尻ヒリヒリ魔法使い様”なんて二つ名はどうですの?」
「うっ……」
昨日の特別授業で痛い目にあったことを思い出してしまい、言葉に詰まるクリスティーナ。
いつの間にやらシャルロットに頭のあがらなくなってしまった、二人の姉なのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
月明りの眩しい夜の時間。
学生寮の一室に、騒がしい声が響いていた。
「ドーンなのじゃ!」
ピョーンッと勢いよくベッドに飛び込むウルリカ様。フワフワの寝間着で無邪気にはしゃぐ姿はとても可愛らしい。
しかし面倒を見るオリヴィアはとても大変そうだ。
「待ってくださいウルリカ様、ちゃんと髪を拭かないと風邪をひいてしまいますよ」
「大丈夫なのじゃ! 妾は風邪なんかひかんのじゃ!」
オリヴィアの忠告を無視して、ウルリカ様はベッドの上をゴロゴロと転がっている。
右へ左へとピョコピョコ揺れる、ウルリカ様の小さな素足。それを追いかけて小さな黒い影が、ベッドへと飛び込んでいく。
「ミャォッ!」
「もうっ……カーミラちゃんまで……」
「今日の学校も楽しかったのじゃ! きっと明日も楽しいのじゃ!」
「ミャォミャォ!」
「……そういえばウルリカ様、学校といえばアレはよかったのですか?」
「ふむ? アレとはなんじゃろうな?」
オリヴィアは難しそうな表情を浮かべている。どうやら学校で懸念な出来事があったらしい。
「生徒全員に第五階梯魔法を教えたことです、今日は朝から学校中で大騒ぎになっていましたよね」
「それは問題ないのじゃ!」
「ミャーォッ」
「特別授業の時にも言ったはずじゃ。銀星術式で覚えた魔法は、放っておくとすぐに忘れてしまうのじゃ」
「ミャミャッ」
「いずれは元の状態に戻るはずなのじゃ、そうなれば騒ぎもおさまるはずなのじゃ」
ウルリカ様の説明を聞いて、ホッと胸を撫でおろすオリヴィア。しかし次の瞬間には、ギョッと目を見開くことになる。
「ロームルス学園の生徒で第五階梯魔法を使えるのは、妾とリヴィくらいじゃろうな」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は第五階梯魔法なんて使えませんよ?」
「なにを言っておるのじゃ? リヴィはすでに第五階梯魔法を使えるではないか」
「……はい?」
「以前リヴィに教えた“デモヒール”は第五階梯魔法なのじゃ」
「えぇぇっ!?」
驚きの事実を聞かされたオリヴィアは、珍しく大声をあげてしまう。口をパクパクさせながら、どうにかこうにか言葉を発する。
「わ……私……第五階梯魔法を使えるのですね……」
「うむ! リヴィには治癒魔法の才能があるからの、いずれは第六階梯魔法だって使えるようになるはずなのじゃ!」
第六階梯魔法と言われて、いよいよオリヴィアのあいた口は塞がらない。しばらくポカンと呆けていたオリヴィアは、突然キリっと表情を切り替えて真剣な目つきでウルリカ様を見つめる。
「だったらウルリカ様! いつか私に第六階梯魔法を教えてください!」
「ふむ?」
「もっともっと強力な治癒魔法を覚えて、大切なお友達を助けられるようになりたいです!」
「うむ! リヴィはいい子じゃな!」
ウルリカ様に頭を撫でられながら、オリヴィアはグッと拳を握りしめる。
新たな決意を固めたオリヴィア。こうして夜は、穏やかに更けていくのだった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
これまでに出てきた魔法を一挙紹介するのじゃ!
✡第一階梯魔法✡
魔法名:火魔法
使用者:ウルリカ様 (第10話)、シャルル
✡第二階梯魔法✡
魔法名:火魔法、氷魔法、雷魔法
使用者:受験生達 (第10話)
魔法名:光魔法
使用者:ヘンリー
✡第三階梯魔法✡
魔法名:炎魔法
使用者:シャルロット
✡第四階梯魔法✡
魔法名:拘束魔法
使用者:ウルリカ様
魔法名:重力魔法
使用者:ウルリカ様
✡第五階梯魔法✡
魔法名:治癒魔法デモヒール
使用者:ウルリカ様、オリヴィア
魔法名:滅亡魔法デモホロウ
使用者:ウルリカ様
魔法名:創造魔法デモクラフト
使用者:ウルリカ様
魔法名:雷撃魔法サンダースピアー
使用者:ラヴレス副学長
魔法名:風撃魔法エメラルドブラスト
使用者:ノイマン学長
魔法名:召喚魔法サモンゲート
使用者:アルベンス伯爵
魔法名:紫炎魔法デスフレア
使用者:アルベンス伯爵
✡第六階梯魔法✡
魔法名:雹雪魔法ヘイルブリザード
使用者:ノイマン学長
魔法名:治癒魔法デモン・ヒール
使用者:ウルリカ様
魔法名:滅亡魔法デモン・ホロウ
使用者:ウルリカ様
魔法名:煉獄魔法デモン・ゲヘナ
使用者:ウルリカ様
✡第七階梯魔法✡
該当なし
✡?階梯魔法✡
魔法名:時空間魔法
使用者:ウルリカ様
これからも驚きの魔法が続々登場するのじゃ、楽しみにしておるのじゃ!!
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