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シャルロットの覚悟

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「ウルリカ様が吸血鬼? まさか……」

「そんなっ、信じられません……」

 ゼノン王から事の経緯を聞いた、オリヴィアとナターシャ。
 二人とも驚きのあまり、ポカーンと固まってしまっている。
 一方のウルリカ様は、椅子に座って足をパタパタ、いつも通りのマイペースだ。

「リヴィにも言っておらんかったかのう? 妾は吸血鬼の真祖なのじゃ」

「「真祖……」」

「そういうことは早くに教えてほしいものですわ」

「うむ、今後は気をつけるのじゃ!」

 元気よく返事をするウルリカ様、分かっているのかいないのか。
 ゼノン王は呆れながらも、吸血鬼の件へと話を戻す。

「さてウルリカよ、いくつか聞きたいことがある」

「ふむ、なんじゃろうな?」

「まず、城内に他の吸血鬼はいるか?」

「気配を感じぬ、今はおらんのじゃ」

「ならば城下はどうだ? 分かるか?」

 目をつぶって人差し指を立てるウルリカ様。
 探知魔法を発動しているのである。

「うむ……おるのじゃ……しかし場所はハッキリせん……恐らく霧になっておるのじゃな」

「やはり城下にも潜んでいるのか……」

「学園に現れた吸血鬼でしょうな、忌々しいですな」

「一刻も早く対応をしなくてはなりません、討伐部隊の編成を──」

「待てルードルフ」

 立ちあがろうとしたルードルフを、ゼノン王は手で制する。
 そして、ウルリカ様へと視線を移す。

「ウルリカよ、先ほど話した吸血鬼事件、被害者は学園の教師なのだ……」

「そうなのか?」

「あぁ、犯人である吸血鬼を捕まえるまでは、学園を休校にしなくてはならないのだ……」

「そうなのか……なに!?」

「このままだと、お前も学園には通えない……」

「なんと!」

「吸血鬼であるウルリカに頼るのはおかしな話だが、吸血鬼を捕らえるために、力を貸してはくれないだろうか?」

「もちろんなのじゃ! では早速──」

「待ってウルリカ」

 立ちあがろうとするウルリカ様を、シャルロットが止める。

「ウルリカが本当に吸血鬼だとしたら、同族の吸血鬼を敵にしなくてはいけないのよ?」

「妾はそんなこと気にせんのじゃ」

「ウルリカは気にしなくても、ワタクシは気にしますの。友達であるウルリカに、そんなことさせたくありませんわ!」

 シャルロットはゼノン王へと視線を移す。
 意思のこもった強い瞳だ。

「ならばシャルロットよ、どうするというのだ?」

 一瞬沈黙するシャルロット。そして、堂々と胸を張って答える。

「ワタクシが囮になって、吸血鬼を捕まえますわ!」

「「「はあぁっ!?」」」

「シャルロット! 馬鹿なことを言うな!!」

「シャルロット姫様、それはあまりにも危険ですよ?」

「推奨しかねますな……」

 ゼノン王、ルードルフ、ノイマン学長は、次々とシャルロットを止めようとする。
 しかしシャルロットの意思は揺らがない。
 チラリとウルリカ様を見て、三人の方へと向きなおる。

「以前ある人から教えられましたの、民を守るのは王族の務めであると」

 ハッとするオリヴィアとナターシャ。
 入学試験でのウルリカ様の言葉を思い出しているのだ。

「国民に危機が迫っています、そしてワタクシは王族です。王族として、国民を守りたいのです!」

「「私も! 私もシャルロット様と一緒に戦います!!」」

 手をあげたのは、オリヴィアとナターシャである。
 息ピッタリな二人に、今度はシャルロットが大慌てた。

「あなた達、なにを言いだすの!」

「「友達を助けるのは当然です!」」

「あなた達……」

 シャルロットの目から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

「うむ! 分かったのじゃ、お主等の好きにするとよいのじゃ!!」

 ウルリカ様の言葉で、今度はゼノン王が慌てだす。
 椅子から立ちあがり、ウルリカ様へと詰め寄る。

「待てウルリカ、勝手に決められては──」

「心配するなゼノンよ、なにかあっても妾が助ける。妾も友達なのじゃ、友達を危険な目にはあわさんのじゃ」

 ニッコリと笑うウルリカ様。
 ゼノン王の迫力も、ウルリカ様にはまったく通用しない。

「く……しかし……」

「娘を信じてやるのじゃ」

 固まったままじっと考え込むゼノン王。
 しばらくすると、「はぁ」と息を吐いて、ドカリと椅子に腰かける。

「……分かった……」

「お父様っ、許していただけるのですか!」

「ああ、お前に吸血鬼の討伐を任せる。これ以上の被害者は出すな、王族として国民を守ってみせろ!」

「はい!」

「そして、お前自身のこともしっかり守れ! 友達を悲しませることは絶対にするなよ」

「もちろんですわ!!」

 ゼノン王はウルリカ様の方へと視線を移す。
 信頼と不安の入り混じった表情を浮かべている。

「ウルリカよ、娘達を必ず守れ、必ずだ!」

「当然なのじゃ! 妾は魔王じゃ、これ以上の護衛はないじゃろう?」

「ああ、そうだったな……」

「うむ! 任せておくのじゃ」

 シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は、覚悟とやる気で胸いっぱいだ。
 心配で頭を抱えるゼノン王。ルードルフとノイマン学長も深いため息をついている。
 そして、いつも通り笑顔でマーペースなウルリカ様。

 こうして、異例の吸血鬼狩りが幕を開けるのだった。
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