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深夜の告白

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 夜。
 吸血鬼もまぶたをこする時刻。

 ロームルス城、ゼノン国王の執務室に、三つの人影があった。
 ゼノン国王とシャルロット王女、そしてウルリカ様である。

「──殺されると思いましたわ……でもナターシャは、必死にレッサードラゴンと戦ってくれましたの……」

 静かな執務室に、シャルロット王女の声だけが聞こえる。
 実地試験での出来事を、ゼノン王に報告しているのである。

「ですが、レッサードラゴンには敵わなくて……そのあと、ウルリカとオリヴィアに助けられましたわ」

 緊張した声で、報告を続けるシャルロット王女。
 ゼノン王は厳しい表情を浮かべている。

「ウルリカとオリヴィアが来てくれなければ、ワタクシもナターシャも死んでいましたわ……全てはワタクシの愚かな行いによるものです、ですから……その……」

 シャルロット王女は、まっすぐゼノン王を見つめる。
 覚悟の籠った、真剣な眼差しだ。

「ナターシャも、それからチームの皆も、ワタクシのワガママに付きあってくれただけですの。ですからどうか、厳罰に処すのはワタクシだけにしてほしく──」

「もういい、分かった……」

 威圧感のこもった低い声。ギラリと光る鋭い視線。
 ゼノン王の雰囲気は、普段とはまるで別人のようだ。
 シャルロット王女は、ビクリと肩をふるわせる。

「事情は分かった、お前の言い分も理解した、しかし──」

「──ふぎゃっ!?」

 話をさえぎる可愛らしい声。
 声の主はウルリカ様だ。ズルリと椅子から滑り落ちている。

「うむぅ……しまった……寝てしまったのじゃ」

「おいウルリカ、今は真剣な話をしているのだが……」

「しかし話がつまらぬのじゃ、それに眠いのじゃ。くあぁ~」

 ゼノン王の威圧的な雰囲気も、ウルリカ様にはまったく通用しない。
 大きな欠伸をするウルリカ様に、ゼノン王は呆れてしまう。

「シャルロットよ、なぜウルリカを連れてきたのだ?」

「その……お恥ずかしい話ですが……事情を報告するのに、ワタクシ一人では怖くて……ウルリカに付き添いをお願いしましたの……」

 「はぁ……」とため息を吐くゼノン王。

「シャルロット、お前の持つ王族の権限を、全てはく奪する。二度と城に入ることは許さん」

「……っ」

「と、本来ならば破門にするところだが。丁度よい、今回の件の厳罰は、ウルリカに任せるか」

「ウルリカに?」

「話を聞く限り、お前はウルリカに対して相当に酷い行いをしているな? ならば厳罰は、ウルリカに決めてもらうのが妥当ではないか?」

「……分かりました、どんな厳罰でも甘んじてお受けいたします」

 ゼノン王とシャルロット王女、二人そろってウルリカ様の方を見る。

「さてウルリカよ、シャルロットへの厳罰はどうする?」

「いらぬのじゃ」

 即答するウルリカ様。
 シャルロット王女は、「えっ」と驚きの声をあげる。

「厳罰などいらぬのじゃ」

「でも……ワタクシはウルリカに酷いことをしましたわ……」

「それはもう謝ってもらったのじゃ。リヴィにもしっかり謝っておったし、妾はそれで十分なのじゃ。そんなことよりシャルロットよ、ちゃんとゼノンに報告出来たのう、勇気を出せたのう」

「うぅ……ふぅぐ……っ」

 ポンポンと、シャルロット王女の頭をなでるウルリカ様。
 シャルロット王女の目から、ポロポロと涙が流れ落ちる。
 緊張の糸が切れて、感情が溢れだしたのだ。

「しかしウルリカよ、お前は命を狙われたのだぞ?」

「よくあることじゃ」

「「よくあること?」」

 ゼノン王とシャルロット王女は、コクリと首をかしげる。

「そういえば、昼間話した時も『よくあること』と言っていましたわね」

「うむ、魔界は実力主義じゃ。命を狙われるなど、よくあることなのじゃ」

「いや、しかしだな……」

「レッサードラゴンなど可愛いものではないか。魔界では、エンシェントドラゴンの大群をけしかけられたこともあるのじゃ」

「エンシェントドラゴン!? 討伐難易度Aの、伝説級の魔物ですわよ?」

「それで、その時ウルリカはどうしたのだ?」

「全部けっ飛ばしてやったのじゃ!」

「「けっ飛ばした!?」」

「うむ!」

 ウルリカ様に嘘を言っている様子はない。
 突拍子もなさすぎる話に、ゼノン王は腹を抱えて笑いだす。

「ハッハッハッ! まったくウルリカには敵わないな!!」

「お父様……」

「すっかり緊張が切れてしまった。はぁ……シャルロットに対する厳罰はなしだ、もちろんチームのみなも同じだ」

「お父様! 本当ですの?」

「ただし! お前の行いは人として最低の行いだ、それを決して忘れるな」

「はい……もちろんですわ」

「この恩は一生忘れるなよ。ウルリカに感謝し、もっと己を磨くことだ」

「ウルリカ、ありがとうございます」

 許しを得たシャルロット王女は、涙を流しながら頭を下げる。
 一方ウルリカ様はというと。

「すやぁ……すやぁ……」

「寝ていますわ」

「流石は魔王、図太いものだな」

「「はぁ……」」

 揃ってため息をつき、ゆったりとハーブティを飲む。
 執務室はすっかりと落ち着いた雰囲気だ

「それにしてもシャルロットよ、無事でよかったな」

「はい……レッサードラゴンとは、本当に恐ろしい生き物でした」

「それもそうだが、俺が言っているのはウルリカのことだ」

 「えっ?」と首をかしげるシャルロット王女。
 ゼノン王の顔色は、じゃっかん青ざめている。

「ウルリカは魔王なのだぞ、怒らせたら本気で国が滅んでいた……」

「そ……そうですわね……反省してますわ……」

 すやすやと寝息を立てるウルリカ様。
 顔を見合わせて、「ふぅ」と息を吐く父と娘なのであった。
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