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5話 オーチョ区画 その3

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 とても気が利く? 妹さまに用意された状況とでも言えばいいのか。アミーナとカイルの二人は、オーチョ区画を適当にうろうろしていた。周囲から見れば、デート以外の何物でもなかったが。

「ったく、シャンパの奴……どこに行ったんだよ。11歳の少女が一人で出歩くと危ないぞ……」

「シャンパなら大丈夫でしょ。ああ見えて強いし」

「まあ、そうだけどよ」

 カイルの妹のシャンパは見様見真似の武道を趣味としており、意外にも武闘派だった。そんじょそこらのゴロツキに負けるわけはない。

「それで……どっか行きたいところとかあるのか?」

「別にないけど」

「じゃあ、お前はなんで俺のところに来たんだよ……」

「それは……あれよ、あれその……」

 アミーナは普段は明るい性格だが、土壇場では上手く言葉が出せない弱点も備えていた。本来は、母や父から聞いた内容について、カイルにお礼を言おうと思っていたのだが……なかなか切り出せない。

「まあ、いいけどよ……とにかく、その辺に座ろうぜ」

「そ、そうね……」

 とりあえず二人は適当な場所に腰を下ろすことにした。


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 オーチョ区画は王都の他の区画とは違い、噴水や公園、教会といった洒落た建物や場所が存在していない。東側の地区は開発が遅れており、あるのは壊れた橋や汚い川……ゴミの集積地といったものだ。空き家も多く、明らかにゴロツキが出そうな空間もあるが、治安自体は悪くない。

 アミーナはそんな懐かしい光景を楽しみつつ、近くの空き家の前にあったベンチに腰を掛けた。そのベンチ自体も古びてはいるが、二人が座っても壊れる気配はない。

「この地区は全然変わらないわね」

「まあな。変わらないのが特徴っていうか……貴族様の屋敷は目まぐるしく変わってたんだろ?」

「そうね……正式な婚約じゃなかったし、側室契約だったけど。煌びやかだったわ」

 アミーナは自分には似合わない豪華なドレスで、舞踏会などに参加した日のことを思い出していた。ビジュアル的には、中心になれるほどに美しい彼女だったが、平民出身という肩書きはどうしても外せなかった。

 その為に、レオン・アンバートの正室に疎まれてしまったわけだが……。

「でもさ……改めて思うと、やっぱりここが私の居るべき場所ね。こっちの空気の方が好きだわ」

「そんなの当たり前だろ……生まれてからずっと居た場所じゃねぇか」

「そうなんだけどさ。あ、それとありがとね。母さんから聞いたわ」

「……ん?」

 アミーナはタイミング的に今がチャンスと感じた。だからこそ、自然な流れで話せたのだろう。

「私が向こうに行ってる間、気にかけてくれてたんでしょ?」

「……あ、当たり前だろ、気にかけないわけないだろ」

「あ、うん……あ、ありがと……」

 お互い相当に照れているが、ようやくアミーナは本題に入れたと確信した。この後二人は、さらに悶える会話を繰り広げることになる……。
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