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3話 オーチョ区画 その1
しおりを挟む王都ヒンメルの東の区画は「オーチョ区画」と呼ばれている。中心のイヴァール宮殿を中心に、東西南北を区画分けをして管理しているのだ。オーチョ区画は、アミーナ・チェスターやカイル・ホッパーが住んでいる区画でもあった。
平均所得が低く、貧しい地域として認定されている。その為、アミーナが侯爵の地位に就いているレオン・アンバートと婚約した時は、非常に驚かれたのだ。
しかしそれも、現在は元の木阿弥に戻ってしまっているが……。
「レオン様からの伝言だ、アミーナ・チェスター」
「はあ……」
「これが約束の手切れ金30万ゴールドになる。お前たちオーチョ区画の者からすれば、とても大金だろう。ありがたく受け取っておけ」
「畏まりました。ありがたく受け取ります」
こうして、アミーナは手切れ金の30万ゴールドを受け取ったわけだが……それを渡しに来た人物は、レオンの側近の一人だ。彼女が側室であった時は、とても腰の低い人物だったが。現在の態度は180度違っていると言えるだろうか。
さすがのアミーナも苦笑いを隠せない。自分がオーチョ区画の市民の一人に戻っただけで、ここまで態度を改めることができるのか、と。さらに威厳的ななにかを気にしているのか、レオン・アンバート本人が現れることはなかった。
側近の一人は口に出すことはなかったが、30万ゴールドで手を打ったのだから、これ以上の文句は聞き入れないと、表情が物語っていた。そのまま馬に乗り、オーチョ区画から去っていく。
「はあ……疲れた。侯爵の人らの雰囲気って苦手……婚約破棄されて、正解だったかもね」
アミーナは去って行く馬が見えなくなるまで見送っていた。もう会うことはないだろうが、最低限の義理を尽くしたのだ。そして、渡された30万ゴールドを見てみる。
「……1年間は遊んで暮らせそう。さすがレオン侯爵様は太っ腹ね~~~」
ある程度節約すれば、数年間は持ちそうな程の金額だ。アミーナとしては十分な貯金が出来たことになる。といっても、父と母にまた世話になる生活だ。30万ゴールドは世話になる為の、見返りとして彼らに渡そうと考えていた。
実家に帰って来ただけなので、見返りも何もないのだが……彼女なりのけじめだ。
「さて、と……これからまた、忙しい毎日になりそうね。頑張って行かないと!」
元の生活に戻るだけではあるが、彼女からすれば久しぶりの生活だ。この1年ほどはアンバート家の屋敷で暮らしていたのだから。
贅沢な暮らしとはかけ離れた生活にはなるが、アミーナはむしろそっちを望んでいた。レオン・アンバート……自らの婚約者だった者のことは忘れ、オーチョ区画での生活に集中することを彼女は誓った。
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